ドラゴン・アッシュ『MIXTURE』(Victor)

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dragon_ash.jpg 前作『FREEDOM』から一年九ヶ月後に発表された、Dragon Ashのフルアルバムとしては九作目になる『MIXTURE』は彼らの誇りであるミクスチャー・ロック・バンドとしての今を鳴らしている。ボーカルであるKj(降谷健志)はライブやフェスでミクスチャー・バンドである事を誇りであると言っているし、ミクスチャーバンドとして出てライブハウスもやらせてくれなかったり出演する機会がなかったデビュー時のこと。その中でずっと続けてきた仲間だったミクスチャーバンドも次々と解散してしまったりしている事を語る。しかし自分たちは辞めないと意思表示している。解散してしまった仲間たちの想いはアルバムに先行されて発売された「SPIRIT OF PROGRESS E.P.」にも収録されている『ROCK BAND』という曲の中に歌われている。

 表現者は最初の作品に全てが集約されているという。ずっと同じテーマを違った見方や表現でしているともいう。それは村上春樹がずっと「父親」になれない問題を何十年も描くように、それは『1Q84』BOOK3にてようやくその先を描き出したように。Dragon Ashはバンドスタート時の三人から現在は七人に増えている。彼らのライブを観た事のない人はロックバンドになぜダンサーが二人もいるのと聞いてくるのだが、それはライブを見て体感してほしいとしか言えない。ミクスチャーロックとは様々なジャンルの音楽を混ぜ合わせた音楽だからそこにダンサーによる身体性が加わる事でさらにハイブリット化する。それを体現しているのが彼らだ。しかも第一線でずっとそれを続けてきたロックバンドだ。

《出る杭になればいい 笑いたい奴は笑えばいい
修練後ケツ蹴ってやんな 10年後お前がベテランだ》

 上記は「SKY IS THE LIMIT」という曲の歌詞だが、これは彼らの新しいバンドや次世代の人に、今何かをがんばっている人へのメッセージであり、彼らが体験した事だ。フェスなどでずっと聴いてましたと若いバンドに言われるような立場になってしまったベテランのロックバンドとしての想い。そんなものがこのアルバムには感じられる。

 ZEEBRAによる公開処刑の後に音楽を辞めようとし、発売予定だったアルバムも中止し、最低の状態まで落ちたKjはそれでも音楽がやりたいと復活し彼らはラップとのミクスチャーからラテンとのミクスチャーに変化し新しい形を得たのがこの数年間であり、前作『FREEDOM』はラテン・ミクスチャー・ロックの一つの到達点だった。そんな彼らが次に作り上げたのは初期衝動を思い出すかのようなミクスチャー・ロックを鳴らす事だった。アルバムを通して聴くと初期のアルバムに近いものを感じる。が、もちろん同じではない。

 さきほど書いた事でいうと永遠に同じループをする表現者と螺旋階段を上っていくタイプがいると思うのだがDragon Ashのニューアルバムに感じられる初期衝動のようなものは13年前にデビューした場所から延々にループしたのではなく色んな階を見ながら自らに取り入れて上がった螺旋階段的なものだという感じ。表現方法やパフォーマンスが上がった事でできるものをアルバムの中に取り入れているから、どことなく初期の作品のニュアンスを感じられて嬉しく思いながらはっきり進化した形を今のバンドの状態で表している。

 日本の音楽シーンでヒットチャートに入るラップやレゲエで家族愛や仲間の事を歌うのが広まったのはKjの責任が大きい。正直、歌で家族に向けての想いを歌うなら直接言えよと思う、歌って伝えるのは違うだろと。あなたにとって一番大事なものは何ですかという質問で今や「家族」は一位だ。世界が変化し、日本社会の旧来の制度が崩壊し、会社も社会も信じられなくなったら家族しかなくなった。でもその家族もとっくの昔に崩壊しているのに。最後に残された家族という幻想に日本人はすがる。
 
 Kj本人も家族愛などを歌うのが広まっているレゲエやラップが広まった責任も自覚していると雑誌のインタビューなどでも語っていた。だがそれだけミクスチャーバンドとして彼らの影響は大きかった。その責任の代償としてか彼は尊敬するミュージシャンからディスられ暗い穴に落ちて沈んだ。そこからの復活からの音楽の方が僕は好きだ。
 
 アルバム『Harvest』以降は祈りにも似たロックサウンドだと思う。神に届かない祈りでもリスナーに届き彼らの内面を鼓舞する優しさがある。Dragon Ashをしばらく聴いてないという人にもお薦めできるアルバムだし、初めて聴き始めるにも彼らの魅力が伝わりやすいものだと思う。父親になっても初期衝動を忘れないKjと、彼と共に進むこのバンドがこれからも色んなものを取り込んでミクスチャーして独自の進化を続けるハイブリッドな存在になっていく、そして轍ができる。まずはアルバムを。そしてライブで。ライブに行ったら飛び跳ねて重力を振り切って舞い上がってほしい。

《まるで街角のポスター 一つ張られ一つ消えるロックスター
路地裏で生まれた名曲 星空のようにシーンをmake up
夢見た理想と現実 あらがい鳴らすディストーションと旋律
洗い流す胸の中 そう"未来は僕らの手の中》
(「ROCK BAND」より)

(碇本学)

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