エヴリシング・エヴリシング『マン・アライヴ』(Geffen / Vinyl Junkie)

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 (もちろん今年の)サマソニ出演の翌日、渋谷DUO MUSIC EXCHANGEでエヴリシング・エヴリシングのライヴをお目にかかれたんだけども、なにより感心してしまったのは息の合ったコーラスワークの豊かさだった。ラップトップも含めた楽器を持ちかえたりしつつ、複雑に入り組んだバンド・サウンドを鳴らすのと同時に、横一直線に並んだドラム以外のメンバー三人が重ねていく歌声のハーモニーにウットリ。アメリカ人らしく牧歌的で土の香りがするローカル・ネイティヴスのそれとは違う、いかにも西欧的な神経質で厳かな響きは、ああ、クイーンじゃん、10ccじゃん、とも思ったし、バトルスとテイク・ザットの作業量をたった4人でこなしてしまう濃密/緻密で情報過多なパフォーマンスに圧倒させられた。クール・リストのトップにローラ・マーリン選んだ英NMEによると2010年のイギリスはフォーク・イヤーだったらしいが(極論?)、僕は彼らに待ち焦がれていた("ひねくれポップ"という文脈における)英国ロックの理想形を見た気がした。理想は言い過ぎかもしれないけど、こういう音楽をずっと聴きたかったんですよ。

 既に今年のUK新人勢でも筆頭格といえる人気を日本でも獲得しつつある彼らの、待望のファースト・フルアルバムが『Man Alive』である。インテリ然とした実験精神や創意工夫もさることながら、"マーシャルアーツを極めたゴスペル・シンガー"なんて無茶振りな形容をしたくなるほど、抜群の跳躍力と内省的なメンタリティが高いレベルで融合し、そして先述のとおり"古き良き英国"の香りまで漂わせる、すばらしい作品に仕上がっている。

 アルバムの起爆剤となっているのは過去にリリースされていたキャッチーなシングル曲だ。煌びやかなシンセのフレーズとともにラップさながらにファルセットを小気味よく乱射する、ボーイズ・アイドル・ポップスの奇形みたいな冒頭の「MY KZ, UR BF」、つんのめるビートと変拍子の嵐が生みだすファンクネスが痛快なマス・ロックのポップス解釈「Schoolin'」。XTCの「Life Begins At The Hop」をパラノイアックにかき乱したような、バスドラムの躍動感も気持ちいい「Photoshop Handsome」は今回の発売に合わせてPVも一新され、一筋縄でいかない彼らのユーモアがより具現化されている(スパークスの「Photoshop」につづくPhotoshopソングだ! と興奮し、彼らにその曲について尋ねたら、一言「知らない」と返ってきました)。

 他の収録曲については、「以前は完璧に作り込もうとするところが多かったけど、今回はインプロヴィゼーションの一発録りみたいなことにも挑戦した」というベース/キーボード担当であるジェレミーの発言どおりで、やや詰め込み方がトゥーマッチな構築美が印象的だったEP「Schoolin'」と比較して、よりラフでスペーシーに、やわらかい曲調なものが目立ち、起伏とダイナミズムに富んだ楽曲と交互につづくことで、アルバムを彩り豊かなものにしている。「Leave The Engine Room」では広大な宇宙を思わせる音響空間のなかでヴォーカルのジョナサンは得意のハイトーンをアカペラで聴かせ、「Tin (The Manhole)」はポスタル・サーヴィスを思わせるミニマルなエレポップを展開。壮大かつ少しクラシカルで、オーケストラを従えてもこのとおり様になる。音を詰め込みすぎずに複雑な要素をコントロールできるようになったのはバンドの成長の賜物だろうし、ビヨンセをはじめとしたR&Bやクワイア・ミュージックも愛する彼らの嗜好がより前面に出たともいえるかもしれない。「Two For Nero」ではゲーム・ギアや世界大戦に言及しながら、次の世代の子どもたちに向けてビーチ・ボーイズ調の讃美歌を披露する。真っ当な父親になれよ、子どもをつくれよ、と。他の楽曲も、躁鬱のギャップが激しい視座によるエキセントリックなサイエンス・フィクション風の歌詞がどれもイチイチおもしろいし、挟まれるシリアスで批判的な問題提起はこのご時世、たいへん貴重といえる(だからこそ、国内盤がリリースされて本当に嬉しい!)。

 ダブステップなどのクラブ・ミュージックや、レイトバックしたフォーク/ポップスに圧され気味だったイギリスのロック界において、レディオヘッド以降の"バンド・サウンドに固執しないバンド・サウンド"の在り方に、何年か越しで明確な回答を示したバンドとも位置づけられるかもしれない。卓越した演奏能力をもちながらテクニカルな部分ばかりを誇示するのでなく、自由に伸び伸びと息をしながら、よりメジャー感のあるスケールを獲得したこの作品は、保守的で重苦しいムードを吹き飛ばし、これから控えるエジプシャン・ヒップホップら新世代のUKバンドより一足早く、新しい感性の到来を知らせるファンファーレを鳴らし、種蒔きの地ならしをしたという点でもとても価値がある。「オプティミスティックで肯定的で、どこにでも行けるような無限の可能性」が込められているというバンド名のとおり、貪欲に過去の音楽遺産を吸収しながら、あくまで自分たちの文脈を信じ、自分たちらしい筆致で歴史を塗り替えアップデートさせていく。音そのものは幾重にもネジレながら、愚直なまでのシリアスな決意と力強さにみちた快作だ。

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