リトル・バーリー『キング・オブ・ザ・ウェーヴス』(Bumpman / Hostess)

|
1_Little_Barrie_101211.jpg
 いわゆるガレージ・ロックというタームがある。「比較的住宅状況に恵まれており一家に少なくとも一台は自家用車を持っていたアメリカ郊外のキッズたちが、60年代に両親のガレージを勝手に占拠して見よう見まねで(もしくはD.I.Y.的に)始めた、がしゃがしゃうるさいロックンロール」をさす言葉として登場した。

 70年代にレニー・ケイが編纂したコンピレーション『Nuggets』は、プレ・パンクの象徴とも60年代サイケのエッセンスを凝縮した名盤とも言われているのだが、それはそのままいわゆるガレージ・ロック・サウンドの原型ともいえるものだった。リトル・バーリー待望のサード・アルバム『KIng Of The Waves』には、そこに入っていた素晴らしいトラックの数々にも決してひけをとらない、熱い初期衝動が凝縮されている。

 中心人物バーリー・カドガン(ギター、ヴォーカル)は、プライマル・スクリームのギタリストとして彼らのツアーなどに参加するのみならず、モリッシーのギタリスト&ソングライターとしても活躍、ポール・ウェラーやスピリチュアライズドのレコーディングにも力を貸した。さらには今回から新ドラマーとしてヴァージル・ハウ(イエスのギタリスト、スティーヴ・ハウの息子:笑)がメンバーに加わった...といった情報からは、なんか「セレブ」っぽい、どこが「ガレージ・ロック」だ...と思うかもしれない。

 しかし、ここで聴ける彼らの音楽には、これまで以上に(いい意味での)「クズ」っぽさが強烈に漂っている。バーリーがギタリストおよびソングライターとして玄人筋の高い評価を受けるようになったのは、あくまでファースト・アルバム(『ウィー・アー・リトル・バーリー』:2005年)リリース以降のこと。あの時点での「どこの馬の骨か知らんけど、こいつらかっこよすぎ!」という衝撃は並じゃなかった(ちなみに、初期チャットモンチーが、そのアルバムへのオマージュと思われるアートワークを採用していたことにも、おおいに納得したものだ)。それと同じくエドウィン・コリンズがプロデュースを手がけた本作には、ソニック面のガレージ・センスはもとより、当時と同じ「誰でもない」感覚および鼻っ柱の強さが存分に表現されている。

《王様のいる首都に行くとわかる/なんてひどいことをやらかしたのか/資本主義の王者が支配する町が教えてくれる/あまりにひどいことをやってきた/あんたも含む誰の心にも/「変化」のかけらさえ見いだせない》《汚いシャツを売って小銭が瓶いっぱいたまった/汚れたシャツを売って小銭を瓶にいっぱいためた/タンポポの綿毛を吹いてる少女よ/そのお守りをこすって幸運を祈るんだ》《今/俺たちは/どこでもない場所にいる》
(「Now We're Nowhere」より)

 バーリーは、エドウィンの奇跡の復活アルバムにも参加していた。今でもオールドスクールなインディー・スピリットのかたまりのような存在としてUKプレスに怖がられている(笑)マネジャー&妻のグレースには「バーリー? もう(わたしたちの)ファミリーよ、ファミリー(笑)」みたいに言われていた。

 UK音楽界の鬼っ子...オルタナティヴな存在であるエドウィンおじさん&グレースおばさんのガレージで演奏に熱中するキッズたち...というのは冗談として具体的な話をすれば、バーリーくらいの存在になればミュージック・ビジネスの王道にもっと食いこんで、流行の寵児になれそうなものだ。しかし彼らはあえてそれをやらない。日本盤ボーナス・トラックの最後に収録された「We Can't Work It Out」(ビートルズ「We Can Work It Out」への返歌?:笑)の歌詞では「えっ、こここまで言って大丈夫なの(笑)?」というくらい、ポップ・ミュージック/ロック・ビジネスの「アイコン」商法...スター・システムにブラックな皮肉をぶつけている。

 だいたい、『KIng Of The Waves』なんてアルバム・タイトルからして皮肉っぽいではないか。

《いい感じのものと「売れる」ものの狭間で/俺の心は塀につるされたまま/好転するなんてことを信じてるとしたら/ちょっと思慮に欠けるんじゃないかな/だから今は/おまえと俺の「虚飾の時」を燃やそう》《「救い」など存在しない/海の王者ではなかったとしても/決して救われることはない/「波」を代表する者ではなかったとしても》
(「KIng Of The Waves」より)

「思慮の浅い者たちのふるまいを、精神的優位に立ちつつ鑑賞して楽しむ」といった日本型エンターテインメントの典型に近いものを期待するのであれば、このアルバムには手を出さないほうがいい。11曲目(日本盤ボーナス・トラックをのぞくラスト・ナンバー)「Money In Paper」では、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやプライマル・スクリーム、クラウトロックにも通じるエキセントリック反復ロックをとおして、現在の世界の資本主義状況を見事に揶揄している。その鋭さが気持ちよすぎる。「思慮深いバカ」による最高のロックンロールだ。

 思慮の浅さや深さに関わらず、いい感じのバカであることは言うまでもない。

《あんたは自分の黄金でも大事にしな/俺は関係ない/この出会いに俺は驚いた/衝撃を受けた/自分の幸運が信じられない》《俺の愛がやってきた/もろもろのトラブルを吸引しつくしてくれる/やつらの王冠を錆びつかせ/それを粉々にふきとばして塵にかえしてくれる》
(「New Diamond Love」より)

 現在彼らの日本公式サイトでは、アルバム全曲が試聴できる。是非チェックしてみてほしい。

retweet