ねごと at 代官山UNIT 2010/12/4

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 結論から言うと、すごくキラキラしていた。ヴォーカル/キーボードを務める蒼山幸子の声が出ていなかったことを考慮しても、彼女達が鳴らすロックは輝きに満ちていた。

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 会場には、開場時間より30分早い16時30分に到着した。僕はいつも早めに会場へ行って、開場待ちで並んでいるお客さんと話をするようにしている。そこでは他愛のない世間話をするんだけど、そうすることでバンドやアーティストの客層が分かったりするから面白い。これはみなさんも是非やってみてください。普段シャイな人でも大丈夫。音楽好きに悪い人はいませんから。

 さて、話を戻すと、会場には本当に様々なお客さんが集まっていた。僕みたいに閃光ライオットの頃から注目しているようなファンから、ちょっと異彩を放つアイドルオタク風の人。それから今回がライヴハウス初体験な学生さんまで(ライヴハウス初体験の女子高生にドリンクの買い方を手解きしました)。これはねごとが持つ様々な魅力が反映された結果だと思う。

 ドリンクの買い方を手解きした女子高生とフロアに向かうと、張り詰めた緊張感と共に良い意味での学芸会的な雰囲気が漂っていた。おそらく根っからの音楽ファンで埋め尽くされていないからだと思う。しかし、SEからはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやゴリラズなどが流れてきて、それに反応する人も多数居たことには少し安心した(前述した女子高生には「これなんていうバンドの曲ですか?」といちいち訊かれた)。というのも、ねごとってロックしていると思うし、音楽性も幅広いからコアな音楽ファンも惹きつける魅力がある。そういう音楽的な部分を評価してライヴに来ている人も居ることに嬉しくなったし、「そんなに誤解されてないな」と安心したのだ。

 僕がドリンクを飲み干したと同時に照明が落ち、ライヴがスタートした。オープニングナンバーは「インストゥルメンタル」だ。しかし、蒼山幸子が歌いだした瞬間、僕は不安になってしまった。声が出てないのだ。これは後で分かったことだけど、前日リハで突然声が出ないことが発覚したらしく、それでも歌いたいからとライヴ当日の午前中に病院へ行き、先生の許可をもらってライヴに向かったようで、薬を服用したり、開演までなるべく喋らないようにして喉への負担を軽減しようと努めたそうだけど、それでも歌うのがやっとという状況だった。でも、言い訳ひとつせず、ライヴ中も度々「すいません」と言っていたけど、蒼山幸子の歌うことへの執念は凄まじいものがあった。万全ではない状態ながらも、鬼気迫る表情で全身全霊をかけて歌うその姿を観るにつれて、僕の「心配」は「感動」へと変わっていった。
 
 音のほうは、沙田瑞紀のギターが最大の驚きだった。「インストゥルメンタル」での轟音に始まり、「ワンダーワールド」におけるチャキチャキなギターなど、勢い一辺倒だけではないプレイの幅広さが印象に残った。長い髪を振り乱して、暴走気味にギターを掻き毟る姿はマジでカッコよかった。冗談ではなく、まるでジミー・ペイジとケヴィン・シールズが合体したような感じ。沙田瑞紀がラウドに走りすぎても、藤咲佑と澤村小夜子のリズム隊がしっかりサポートしていたのにも好感を持てた。たまに澤村小夜子のドラムが前のめりになってしまう場面も見受けられたけど、独特の間を持ったプレイは披露できていたと思うし、藤咲佑の安定感があるベースにも支えられて、腰に来るリズムがライヴ全編を通してあったと思う。あと、藤咲佑はなんであんな楽しそうにベースをプレイ出来るんですかね(思わずマ二を想起してしまった)。ライヴにおいて派手さはなかったけど、その分観客やバンド全体に目をやっていたし、バンドの中では一番「空気」というのを意識していたと思う。でも、 MCで感動のあまり泣いてしまう姿を見せたりして、ある意味すごくプロっぽいというか 、スイッチの切り替えが素晴らしかった。

 ちなみに、セットリストはこうでした。

1. インストゥルメンタル
2. 透き通る衝動
3. 彗星シロップ
4. ビーサイド
5. ランデブー
6. ワンダーワールド
7. 新曲(七夕「仮」)
8. NO
9. フラワー
10. カロン
11. ループ
12. 夕日

「ビーサイド」までは、彼女達の不安がこっちにまで伝わってきて不安だったけど、観客とのコール・アンド・レスポンスがある「ランデブー」からは、「全体の盛り上がり」というのが会場を包んでいた。そして「ワンダーワールド」以降からの流れは素晴らしかった。相変わらず蒼山幸子の声は出ていなかったけど、ねごとのグルーヴは徐々に熱を帯びていき、観客を置いてけぼりにすることなく「ゾーン」に入っていった。

 そして、触れないわけにはいかないMC。いつもの脱力MCはもちろんのこと、その他の遊び心が楽しかった。澤村小夜子の思いつき? で始まった会場全体での「かえるの歌」合唱。来年リリースするシングルのお知らせも、デパート風のチャイムが鳴る度にスクリーン上で次々とお知らせをしていくというもの。そのときバンドはステージから掃けていて(パジャマに着替えるため)、まるでクラフトワークのライヴにおける「The Robots」みたいに、メンバーがいないのに大盛り上がりという何とも不思議な光景があった。そして、パジャマ姿のメンバーが登場すると、「可愛い」という声があちこちから聞こえてきた(実際可愛かった)。MCを観て思ったのは、メンバーそれぞれのキャラがちゃんと際立っていて(特に澤村小夜子のキャラは面白かった。珍獣だった)、個性的な人達の集団だけど、だからこそ馬が合い結束できるのだろうということ。誰もが親しめる存在かと思いきや、本当は掴みどころのない変に不気味なバンドであることを実感した。パジャマ姿になってからは「ループ」と「夕日」をプレイして、アンコールをすることなくライヴは終了した。

  やはり一番盛り上がったのは「ループ」だったけど、個人的には「夕日」にやられました。クッキーシーンのレビューでは「微妙」なんて書いてしまったけど、撤回します(ちなみに会場で「微妙っていうのはどうかと思うよ」と突っ込まれてしまいました)。「夕日」はライヴ映えする曲です。そして、MCでも2011年にシングルとしてリリース予定とアナウンスがあった「カロン」も好き。初めて聴いたけど、疾走感溢れる爽やかな感じで、シングルのときはどうなるか分からないけど、ダンス・ミュージックに近いグルーヴがあって期待は出来ると思う。ライヴそのものは完璧というものではなかったけれど(様々なトラブルがあったんだから、当然と言えば当然)、若さと大人顔負けの落ち着きが同居した佇まいと、何よりライヴをやりきるというメンバー全員の気合いが全面に出ていて、タフなねごとの姿を観れたのは大変貴重な体験だったと確信している。引き出しの多さも窺えて、今後の未来が楽しみでしょうがない眩しすぎるライヴだった。

 同じくライヴに来ていた友人は「初期のスーパーカーみたいな瑞々しさがあった」と言っていたが、頷ける部分とそうでない部分があった。スーパーカーとねごとは、共にシニカルな面や少しみんなと違うことから生ずる違和感というものを備えている。そういった点では共通点と言えるかもしれないが、ねごとのシニカルさは強烈なものではないし、その違和感にとどまることもない。それに、スーパーカーの場合は「Lucky」に出てくる「あたし、もう今じゃあ、あなたに会えるのも夢の中だけ。たぶん涙に変わるのが遅すぎたのね」というフレーズに代表されるように、諦念にも似たような「答え」が見えてしまっていた。だからこそ、後期のスーパーカーは「どこへも行けない」という雰囲気を漂わせていたし、それが当時の時代のムードであったのも事実だ。

 ねごとは、「透き通る衝動」のなかで「その先なんて信じない/明日が来ても来なくてもいいの」と歌っている。しかし、その後「ためらわずに走って走って/いまを抜け出してしまおう」とも歌っているのだ。僕はここにスーパーカーとの大きな違いを感じる。スーパーカーは「時代そのもの」だったのに対し、ねごとは時代を壊し更新しようともがいているように映る。クッキーシーンでは一時期「レディオヘッド・シンドローム」というのが盛り上がったけど、日本においては差し詰め「スーパーカー・シンドローム」といったところだろうか? これまで「今を必死に生きよう」と歌うバンドは居ても、「今を変えよう」と歌うバンドは少なかったと思う。おそらく、ねごとは「答え」が見えていないだろう。しかし、ねごとは「未来」を生きている。そんな今どき珍しいポジティブな姿勢を打ち出すバンドのライヴに、ソールドアウトになるほどの人が集まった。12月4日の代官山UNITは、我々にとって新たな可能性が出現した場所だったと思う。

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