キモノズ

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KIMONOS

「東洋と西洋の出会い」っていうか
もう出会ってるんですよね、とっくの昔に

00年代後半に最も注目される日本のニュー・アクトであったLEO今井が、元ナンバーガール、現ZAZEN BOYSの向井秀徳と組んだニュー・プロジェクトKimonos(キモノズ)が、アルバム『Kimonos』を発表した。これに期待を抱くなというのが無理と思うのだが、実際に音を聴いてみたところ、予想のさらに上を行く素晴らしさで、もう完全にうれしくなってしまった。

限りなく挑戦的でありながら、ポップ・ミュージックとして抜群のクオリティを備えている。どこか80年代に通じるようでありつつ、あくまで新しく、「未来的」とさえ言える。そんな意味で、これまでのLEO今井の作品の延長線上にありつつ、ハドソン・モホークあたりとシンクロするセンスも...と思ったら、向井のレーベル、MATSURI STUDIOからのアナログ・12インチ、およびiTunesからの配信オンリーで10月にリリースされたEPでは、カップリングにハドソン・モホーク・リミックスも!

そんなKimonosに秘められた感覚について、LEO今井に話を聞いた。

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向井さんは以前LEOさんの作品に参加していました。

LEO今井(以下L):(EMIからの)ファースト・アルバム(『Fix Neon』2008年)に入っている「Metro」っていう曲で。それが初めてでしたね。共同作業は。

そのときの彼の印象はどうでした?

L:私が彼についてどう思ったかと?

そうです。

L:えーと、いい人でした。

いい人(笑)。

L:いい感じの、おもしろい人でした。初めて会ったのは...私のインディー時代のライヴに誘ったんですけど、それで初めて会いました(2007年、自らのイベントCity Folkを開催していたLEOが、まったく面識のない向井にインディー時代のCDを送って出演を打診したところ、出演を快諾)。そのとき非常におもしろい人だなあと思いましたね。予想どおりという。

一般的なイメージからすると、わりとLEOさんって理知的でクールな感じで、向井さんはわりと野放図というか、ワイルドなイメージかも?

L:そうですか? 彼は私以上に...。

理知的で繊細なところがあると。

L:そうですね、非常に落ち着いてます。まあ、年も半ジェネレーションくらい上ですから。

半ジェネレーションというと、5年くらい?

L:もうちょっとですね、6、7年。初めて会ったときに「Matsuri(Studio)で曲を録ってみないか?」と言われまして。

もう初めから?

L:ええ。私のアルバムのレコーディング・スタジオとして、録ってみたらおもしろいんじゃないかと言われたので、「喜んで」と思って。『Fix Neon』というアルバムから、とりあえず3曲ドラムをそこで録ってみようと。で、勢いでそのうちの、3曲のうちの1曲に彼が「ギターも入れたらどお?」と...。

「Metro」ですね。

L:はい、それが初めての共同作業でしたね。

ミュージシャン同士のインタープレイっていうか、やり取りは、そこで既にあった。

L:そうですね、そんなにお互いに踏みこんではいなかったですけど、曲がもうあって彼はギター・パートをつけた感じだったので、そこまで交じりはなかったですけど、音楽的にお互い非常に共感できる感じはありましたね。

今回はそれで深いコラボレーションみたいなのをやってみた...。いい感じでした?

L:すごく楽しかったですよ。ただの遊びで始めたのがどんどん自然に発展していって、どんどん本気モードになっていったわけですから、非常にいい体験でしたね。

なるほど。まさに遊びから入って、そのいい感じのまま本気モードになっていったっていうのがすごいよくわかるアルバムになってると思うんですよね。向井さんのヴォーカルとかキャラとしても、そしてLEOさんのヴォーカルとかキャラとしても、また新しいものが出てきてるんじゃないかっていう気もします。

L:そうですね。音楽的なスタイルのこととかジャンル的なこととかアルバムのコンセプトは最初にまったく話し合わなかったんですけど、唯一最初から心掛けようとしたのが「本質的な融合でなければいけない」ということでしたね。こう、横にふたりが立っているんではなく、作曲も作詞も一緒にやるっていうのが大事なポイントでしたね。そうすることによってZAZEN BOYSやナンバーガールの作品にも今までなく、私のソロの作品でも今までなかったような新しいものができあがるんじゃないかと思いまして、それは絶対に必要だなと思いまして。

融合といえば、LEOさんか向井さんか、どちらがヴォーカルをとってるんだろう、と一瞬戸惑ってしまう部分もあったりして。どちらもヴォーカル・スタイルに新機軸が?

L:ところどころ...。向井さんは私の声と比べて、声がちょっと"鉄"っぽいというか、私のほうは低くて丸っぽくないですか?

"鉄"ってアイアンの鉄? それ、おもしろい表現(笑)。

L:私より、もうちょっと高いというか。

僕の印象からすると、LEOさんのヴォーカルは..."鉄"という表現を受ければ、"ガラス"っぽい感じがあったのかなあ。

L:ああ、それは透明感があるということですね。

そうそうそう。でもガラスも鉄も硬いじゃないですか。そう考えると、もしかしたらふたりとも今回ヴォーカルがいい意味で柔らかいかなっていう気がして、それがさっき言ってた「遊びっぽく始めた」っていうところに通じるのかなあと思ったりするんですけど。

L:まあ、お互い全然別の意味で別なふうにお互い新しいことをやろうとしているところはいっぱいありますね。例えば向井さんだったら、今までの彼の作品に「コーラス・ワークをどうしよう」とか彼はまったく考えてなかったですけど、これを作ってたときはそういう彼の音楽ブレイン(脳)のその部分を動かしたというか、で、私は、例えばトラック作りとかそういうところに、トラックの作りこみ、プログラミングとかを今まで以上にちゃんとやってみたり。

それこそ、以前LEOさんに取材したとき、「エイフェックス(・ツイン)が一番初めは好きだった」みたいにおっしゃってた感じの...。

L:彼は機械オタクだからまったく比べものにならないですけど。

LEOさんはそんなに機械オタクではない?

L:私は違いますね。私はもともと作曲が好きで始めたわけですから、音楽ソフトとかはただの記録の方法というか、デモを作るためのものだったんですけど、今回の作品ではもうちょっと機械オタクに近づいた感じもしますね。

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photo by Masao Nakagami

歌詞とかは半々くらい?

L:ワン・アイディアから始まった曲がほとんどです。10曲のうちの初めからできあがっていた曲は(細野晴臣のカヴァーである)「Sports Men」、(LEO今井の過去の作品にも収録されていた)「Tokyo Lights」も、できあがってる。で、「Almost Human」、これは私の昔のデモが、原型があった。他の曲は全部その場でワン・リフ、ワン・アイディアからお互いキャッチ・ボールをしながらどんどん骨に肉をつけてった感じですね。そういうやり方だから歌詞もアレンジもメロディも「この部分は向井さん、この部分は私」っていうのがどの曲にもあって、そのアイディアをパッチーワークのようにくっつけていった感じですかね。

さっき言ってたリスナーから見たときのキャラクターみたいなのでいうと、例えば「Soundtrack To Murder」ってすごい向井くんっぽいような気がする。言葉のイメージが。で、「Almost Human」っていうのはLEOさんっぽいかなと。

L:どっちもタイトルは私がつけたんですけど。で、「Soundtrack To Murder」の日本語歌詞は全部向井さんですね。

あ、それは、それは予想どおり。

L:「Soundtrack To Murder」は、最初に私のシンセのリフとガムランのサンプルのループがあって、それに向井さんがベースラインをつけて、その全体的な雰囲気から「Soundtrack To Murder」ってタイトルが浮かびあがって、「Soundtrack To Murder」っていうタイトルから向井さんが歌詞を書きはじめて徐々に発展していった。そういう、さっきも言ったようにキャッチ・ボールみたいな感じで曲ができあがっていったパターンがほとんどですね。

ちなみに「Mogura」はどういうふうにできていったんですか? 僕は、このアルバムでどの曲が一番最高かって聞かれたら、どれもいいけれど、たぶん「Almost Human」か「Mogura」か悩む...って感じなんですけど。

L:「Mogura」は、もともと「Almost Human」と同じ時期に私が録ったデモがあったんですよ。そのうちの2曲を「何か手をつけてみようかな」って候補曲にあがっていて、結局「Almost Human」を先に録って。ただ、デモにあった「Mogura」のヴォーカル・パートを向井さんがずっと「いい」っつってて、「使いたいな」と。で、向井さんがトラックを作りはじめて、そしてけっこう元のデモの曲にテンポが近かったので、向井さんの新しいトラックにそのヴォーカル・パートを移植した感じです。

そうなんですね。おおげさにいえば、一発録りが普通だった「バンド」時代のコラボレーションと、今のミュージシャンふたりによるコラボレーションっていうのはもう全然違うものだなあっていうのが、すごくよくわかる。歌詞で歌われてるメッセージとかもけっこう好きですね。メッセージというか、「もぐらは地下にいるけど...」みたいな感じの。《But at night I'm coming up from underground》の部分...。

L:そこ以外の部分は既に眠っていた私の歌詞で、ここだけ新しく。なんか向井さんのトラックがもぐらっぽかったので「もぐらっぽいな」って半分ふざけて話してたら、彼やっぱ動物の名前を曲のタイトルにするのが好きだから「決めた! これは絶対『もぐら』だ」って言って、で、「そう?」と思ってこの「Mogura」のサビの部分を新しく作った感じですね。

聴き手としては《But at night I'm coming up from underground like a もぐら》っていう部分になんかメッセージを感じてしまうんですよ(笑)。

L:メッセージ? ...そうね、「地底からあがってくるぞ」と。「もぐらのように」。

そうそうそうそう。

L:なんの比喩かわからないですけど、なんかこう、「押さえ切れない何かの感情を出してやるよ、コノヤロー」みたいなちょっと攻撃的な狂気が表れてますね。

僕がよく使う表現に、「地下に潜んだマグマのような感情が浮上してきて」みたいなのがあるんだけど...。

L:なんですか? それは。

いや(笑)、だから、自分が好きな音楽について語るときに...。表面上はクールでも、感情みたいなものはすっごい溜めてるっていうか、奥に存在しているわけじゃないですか。それがグーッとあがってくるみたいな。だから"溶岩"っていうのが"もぐら"と同じような感じなんだなあっていう。

L:ああ、なるほど。そうかもしれないですね。マグマがもぐらか。

「マグマがもぐら」、いい語呂ですね(笑)。トラック作りといえば、(細野晴臣の)「Sports Men」をカヴァーしたっていうのはすごくおもしろい。

L:これは向井さんの提案です。最初に「カヴァーを録ってみよう」ってことだったので、で、彼が何曲か候補曲をあげて、私も同じく...。

LEOさんもライヴでやってた(トーキング・ヘッズの、MGMTもライヴでカヴァーしたことのある)「This Must Be The Place」とか?

L:それも彼が候補曲として「これやればいいじゃん」みたいな感じで言ってて。で、私はサイプレス・ヒルの曲とか思ったりして何曲か候補曲があって、で、ちゃんと録ったのは「Sports Men」だけだったんですけど、それを録った時点でカヴァー曲を録るアイディア自体にちょっと飽きたというか。

1枚のアルバムに1曲で充分(笑)?

L:いや、そのときはアルバムとかまったく考えてなくて。もう1年くらい前。最初カヴァーEPみたいなのを考えてて、で、「カヴァーだけじゃちょっとおもしろくないなあ」とものたりなく感じはじめて。で、オリジナルを作ろうと思って、まず作ってみたのが「Haiya」って曲で。そっからどんどん曲が増えていったって感じですね。

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photo by Masao Nakagami

そうか! ちょっと話が飛んじゃうんだけど、「Haiya」というタイトル、今LEOさんが言った口調を聞くと、日本のお祭りって「ハイヤ! ハイヤ! ハイヤ!」とかいうお囃子があって...。

L:そう、そっからきてますね。

曲中でも、そんな感じで歌われてます。歌詞カードでは《ハイヤ(対訳では"Haiya)》と表記されている部分と《Higher(対訳では"もっと高く")》と表記されている部分があったのも、素晴らしい、と思いました。

L:最初「Higher」って曲名にしようと思ったんですけど、私の曲にもう「Higher」って曲があったんで(シングル「Metro」にカップリング収録)、日本語としての「Haiya」にしました。「Haiya」が日本語かどうかわからないですけど。

そうだね、ケルト語かも?

L:ふはははは。

(笑)だって、昔、ポーグスのライヴを初めて観たときに、いっぱい笛とか使ってピーヒャラピーヒャラってやるじゃないですか。あれがすごい日本のお祭りっぽく見えて「日本の祭りとケルト系の音楽ってルーツが近い!?」とか思ったんですよー(笑)。

L:ああー、両方ともアニミスト主義...多神論主義だから、共通点はいっぱいあるかもしれないですね。

そっかー! ケルトと日本の共通点! さすがですね。むちゃくちゃおもしろい! って自分がおもしろがってちゃいけないか(笑)。

L:はははは、いや、おもしろがってください。

もしかしたらLEOさんの趣味からすると、「Sports Men」が入ってる細野さんの『Philharmony』、あれを聴いたのは初めてだった?

L:初めてでしたね。

あれって、音、狂ってないですか(笑)?

L:難解な曲もいっぱい入ってますね。

今聴いたらそうでもないんだけど、高校生くらいのときにあれ初めて聴いたとき、とにかくアルバム全体の音がおかしいっていうか、「何だこの音は!?」って思った記憶があるんですよ。だから影響うんぬんじゃなくて、Kimonosにおける音のおもしろさを聴き手として"音の衝撃度"っていうところで勝手に言うと、例えば歴史軸を辿っていけば、『Philharmony』、エイフェックス・ツイン、そしてKimonosみたいな、そういう系譜にあると言ってもおかしくないようなおもしろい音だと思いました。

L:なるほど。それは光栄です。向井さんはとくにYMOの80年代前半の曲とか「Sports Men」にあるような、ああいうものに影響を受けてるとは思いますね。

なるほど。僕的にいえば、『BGM』で芽生えた音の感触のおもしろさが『Technodelic』で深化して、『Philharmony』にはそのエッセンスが蒸留されたように集約されている。『Philharmony』の音って、当時すごくスチームっぽい感じがしたんだよね。

L:スチーム?

蒸気(笑)。昔の、産業革命時代のイギリスみたいな...。

L:インダストリアル?

お見事! まさに...(インダストリアルというのは現在ある種のスタイルをさす音楽用語にもなっているが、もともと「産業的な」という意味の形容詞。音楽用語としての語源としても「産業革命」以降の「工場」的なイメージから来ている)。

L:向井さんはたぶん制作中にYMOとか聴いてたんじゃないですかね。とくに『Service』ってアルバムと『BGM』。『Technodelic』は私は向井さんに借りて初めて聴きましたね。制作中に。で、とにかく「激しいリンドラムの音」っていうのがすごい重要で「機械を使ってるんだけども非常にヘヴィで肉体的な感じのドラム・サウンドは絶対使おう」と思ってましたね、最初から。とくに彼は。私は、別なインダストリアルを聴いたりしてました。

90年代以降、"インダストリアル"といえばナイン・インチ・ネイルズみたいなイメージもありますが、そうではなくて?

L:パレ・シャンブルグとか...。

うわっ、いいですねー! ドイツのやつ。

L:ええ。バンドですけど、ちょっとこう(アインシュテュルツェンデ・)ノイバウテンの先駆けみたいな。あと、90年代の前半のゴッドフレッシュっていうバンドを聴き返してみたり、まあ全部シブい感じのものですよね(笑)。シブいと言えばシブいけど、非常にこう、まさにインダストリアルっぽい、冷たい要素はあるんだけども、非常に熱く肉体的、このバランスですかね。それを一番うまくやってるケースがナイン・インチ・ネイルズなのかもしれないけど。

僕自身がナイン・インチ・ネイルズに入れこんでたかどうかって言ったら、そんなに入れこんでなくて、むしろ(70年代後半にインダストリアルという用語を提唱した)スロビング・グリッスルとかすっごい好きだったんですよね。ナイン・インチが流行ってから、"インダストリアル"って言葉がちょっと違うニュアンスで使われるようになって「悔しい」とか思って。何が悔しいんだかわかんないんだけど(笑)。「インダストリアルって言葉を使うんだったらスロビング・グリッスルも聴いてほしいな」みたいに。

L:インダストリアルとの比較とかは私もけっこうできてからいろいろ考えて、別に作ってる最中は"インダストリアル"とかまったく何のキーワードにもなってなかったですけど。

そういうところが好きですね。キーワードから入るミュージシャンもいますからね。

L:うん、そうね、そうかもしれない。実際作ってる最中は、作品以外のことは何も考えてなかったですね。他の音楽のこととかもあんまり考えてなかったね。

「とにかく本質的な融合」っていうところを目標に。

L:そうですね。

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photo by Masao Nakagami

で、そういう話をすると、今もね、"パレ・シャンブルグ"って名前を人の口から聞くのは20年ぶりくらいな気もするっていうくらい久しぶりで(笑)、で、さっき「向井さんとハーフ・ジェネレーションくらい違う」っておっしゃってたじゃないですか。あとは僕がLEOさんの、とくに前作、メジャーのセカンド・アルバム『Laser Rain』に感じていた「時代がわけわかんなくなってる」(笑)感じ...。80sっぽいとも思えるけど、でも全然違うっていう。前のアルバムの「Time Traffic」で《過去はまだ来ないまま 未来はもう来た》っていうふうに歌ってたんだけど、LEOさんと向井さんが本質的な融合を遂げることによって、いわゆる時代性も超えて、あらゆる時代が融合してる、みたいな...。「この音はこの頃でしょ」っていう決めつけって本質的じゃないと思うのね。結果的に「この時代にはこの音が出てくるだろう」って結果論はできるけど。だからそういう意味でね、時代がぐしゃぐしゃになってていいなあって。

L:まあそうね、やっぱり我々も制作の最中に聴き返しながらそう思いましたね。この作品に関して。要は「いつの時代かよくわからない」っていう、とにかくいろんな要素が混ざってるから。で、我々としては「オリジナリティがあるものだな」っていう気持ちは強かったわけですから、どの時代かよくわからないってことと、どの国かも...。まあ日本語で歌ってるところは日本...。

英語でも歌ってるところもあります。

L:とくに英語で歌ってるところは、ドイツでもイギリスでもニュー・ヨークでもおかしくない感じのものだったから、そうですね、時代も国籍もパッと聴いてよくわからないような感じにはなってると思いますね。それはすごくいいことだと思いながら作ってました。

すごいいいことだと思うし、それが僕がLEOさんの音楽を好きなポイントでもあるんだけど、本質的な融合ってことでいえば、もっともデカいのは「日本と西洋」の融合...という話に今日なればいいなってメモってたんだけど...。変えました(笑)。より大きく、「アジアと西洋」の融合と言いたいですね。

L:東洋と西洋?

そう、それだ! 素晴らしい! 東洋と西洋の出会い! LEOさんだって国籍というか、ルーツは東洋であり、それは向井くんもそうだろうけど、でも音楽をこんだけ聴きまくってたら、わりとルーツレスっぽくもなるよね。感覚的にさ。

L:なりますね。「東洋と西洋の出会い」っていうか、もう出会ってるんですよね。とっくの昔に。

それをちゃんと見せてるって感じだよね、とっくの昔に出会ってるっていうのを。

L:このジャケットの絵とかも、我々が日本人だからこれに食いついたっていうのもあるんでしょうけど、まあ東洋と西洋がほんとに調和的にミックスアップされてる、東洋と西洋という観念が無意味になるくらいミックスアップされてるものにはなってると思いますね。

KIMONOS『Kimonos』(EMI)のジャケット写真

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評論家的な言い方をしちゃうと、大正時代の絵っていうのがおもしろいですよ。何でかっていうと、大正時代って"大正デモクラシー"みたいな開かれた感覚っていうのがたぶんあったんだろうし...。

L:私もそう思ってこれを、これが我々の音楽をビジュアル的に適切に反映するんじゃないかと思ったんです。なんか今の時代より、この時代のほうが他文化/異文化にオープンだったんじゃないかと私は思うんですけどね、傾向としては。それで途中からちょっとジャパンがおかしくなったんですけど。まあそれが理由でこの大正時代のアートワークをモチーフにしたいと、扱いたいと思ったんですけどね。

すごく、よくわかります。中村大三郎作『ピアノ』ってやつですね。もうちょっと時代を前にしちゃうと、江戸時代...鎖国していたころの浮世絵とか、今は評価高いじゃないですか。でも、もともと浮世絵って庶民のもの、使い捨てなものだったわけでさ、日本ってポップ・カルチャーに関して"使い捨て"な傾向があったと思うのね、大昔から。それが歴史的に見ればまず西洋で評価されて、それから日本でも見なおされて...というのはとても象徴的な現象だなって勝手に思ってて。で、時代的にはそれよりもさらに一歩先にいってる大正時代の絵っていうのが、カッコいいなってのも思いましたね。それから...、さっき、ヴォーカルの感じに関して「鉄でもガラスでもなく、もうちょっと柔らかい感じ」って言ったと思うんですけど、そこに色気みたいなものがすごく感じられるなあと思って(笑)。僕の聴いてる範囲では、例えば向井さんのヴォーカルに色気ってあんまり感じたことがなかったんだけど、今回は...。ペット・ショップ・ボーイズじゃないけど、男性デュオならではのゲイ的な色気も感じられる気がしました。いや、時代や地域だけじゃなく、性さえも越境してる、みたいな意味で。

L:ああー。まあ性は融合も超越もしようと思ってもできないですけど。

いや、でも意外にわからないんじゃないですか? あ、ゲイっぽいという表現、よくなかったですかね?

L:私は特には喜びはしないけど...。

悲しみもしない?

L:もちろん!

向井さんのヴォーカルにそれを感じたことは、今までなかったんですけどね。

L:向井さんは高い「ぎゃー!」みたいな音を鳴らしたりするから、ライヴとかZAZEN BOYSの作品も。だから彼がこんなに「歌った」アルバムはそんなにないんじゃないですかね。ここまでメロディアスに歌うのは。

僕もそう思います。タイトル曲というか「The Girl In The Kimono Dress」の美しさの裏には、ゲイというより初期ロキシー・ミュージックのブライアン・フェリー的な...爆発寸前のマグマっぽい変態っぽさを感じたり...。とにかく「対極にある」と思われていたものを、見事に並立させているアルバムだな、と。

L:強弱(という意味での極端さ)は最後の2曲に表れてると思うんですね。9曲目(「The Girl In The Kimono Dress」)は非常に静かで幻想的で、10曲目(「Tokyo Lights」)は非常にテンションが高くてラフで、幻想的の反対。とてもリアリスティック。現実的。

10曲目はヴォーカルのレベルもわりと低くて(楽器に埋もれてる感じで)、ライヴ・ハウスでハードコアあがりの...それこそ(LEOも大好きな)フガジっぽいバンドのライヴを観てるみたいな...。

L:そんな感じですね。けっこうそれはすごい、そういう曲にしたかった。なんかスカスカなんだけれども、ベースも入ってないし、スカスカでシャリシャリしてるんだけど、強烈というか激しさのある。

あとは、"キモノ"というと思い出すのが、『キモノ・マイ・ハウス』っていうのがありました。スパークスのアルバムに。

L:それもジャケットをよく見てました。ふたりで。「このジャケットいいよね」っていって。

Kimonosっていったら、当然...(笑)。

L:音はあまり好みじゃないけど。

僕もそんなにはスパークスに入れこんでないけど...。ちなみにスパークスってゲイの人にすっごい人気があるらしい。本人たちもそうだったのかな? 僕はあんまりアーティストの私生活に興味がないんでよく知らないし、彼らが実際どうかってことは、あまり重要じゃない気もするんですけどね。じゃあ最後に、Kimonosってつけたときの感じっていうか、「こんな感じで決まった」っていうのを教えていただけますか?

L:ちょうど私がこの(ジャケットに使用した)美人画を使いたいと思っていて、で、話していて、原宿のジミヘンとかいうカレー屋みたいな(正しくは『Hendrix Curry Bar』。ビクター・スタジオの近くにあるようです)...ビクター・スタジオに行ってたときかな。そのあと私が「こういう絵があって...」って、手元にその絵はなかったんですけど、これともうひとつ、山川秀峰っていう美人画家の「三人の姉妹」っていう絵があって、とにかくこの感じが我々の音楽に非常に合ってると思うし、「アートワークに使ったらどうだろう?」って話をしてて、で、その絵が手元にないわけですから、「こういう絵なんですよ」と、で、「こういうテーマが表れていて...」って説明するじゃないですか。「こういう絵で、こういう車があって、3人の女性が立っていて、みんな着物を着ていて...」って"キモノ"って言ったときに向井さんが「お! キモノ。これはいい名前だな」と言って、で、そっからずっとグループ名を考えてたんですけど、"キモノ"が一番気分に合ってて。そしたらkimonoというバンドがもういまして、アイスランドかどっかに。けっこうちゃんとやってる。よくわかんないんですけど、アイスランドとカナダのノーヴァ・スコシアかどっかをメンバーが行き来しながらあの寒い地域で活動していて。「kimonoはもういるか。じゃあKimonos」でって"s"をつけて。そんな感じです。

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 最後も、実に興味深い話だった。アイスランドといえば北欧の小国だが、大昔スコットランドやアイルランドから移住したケルト系の人たちも少なからず住んでいる。そして、カナダのノーヴァ・スコシアといえば、その名(「新しいスコットランド」)のとおり、ケルト系がベースとなった州だ(ちなみに、その州都ハリファックスはアメリカのジョージア州アセンズのような学生都市で、90年代にはスローンというグッドなバンドを輩出している)。

 LEO今井の活動の裏にあるスタンスや、その言葉は、彼の音楽同様、実に知的好奇心を刺激してくれる。(地下にマグマのような激情を秘めつつ)表面上はクールな彼も、それなりに楽しんでくれていたのではないか。ユニット名の由来を聞いたあと、インタヴューのしめくくりは、こんな感じだった。

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バッチリです。ありがとうございました。

L:え? もう終わりですか?

終わりです。

L:OH(笑)!

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 ちなみに「インタヴュー起こし」を担当してくれた平澤"トラサク"良子氏によれば...。

「LEOさん、誰かに話し方が似てるなあと思ったら、あれでした、野球選手のイチロー。言葉を丁寧に選びながら話をするところとか、そっくりです。声も似てるかなあとか。どうでもいい感想、失礼しました(笑)」。

 イチローといえば、西洋で活躍する東洋人。LEOも海外生活が長かった。そこでしっかり「自分」というものを見つめてシリアスにがんばっているから、そうなるのかもしれない。そして、そんなLEOが実践する「東洋と西洋の融合」という行為にも、強い説得力が生まれる。

 向井秀徳という素晴らしい相棒とともに、彼らの音楽は、また一歩新しい地平を切りひらいた。


2010年11月
取材、文/伊藤英嗣
撮影(2〜4点目)/ん

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