ATLAS SOUND『Bedroom Databank Vol.1』(Self-Released)

|

Atlas_Sound.jpg 人生を「生きている」人は、かならず「このまま死んでしまおうか」と思うことがあるはず。まあ、「死んでしまおうか」は言いすぎだとしても、自暴自棄になってすべてを放り出したくなる瞬間はあるはずだ。そんな状態から抜け出すための方法は人それぞれだとは思うけど、僕の場合やはり音楽を聴くという方法を選んでしまう。そこで、アッパーでハッピーなものよりも、べス・ギボンズやニック・ドレイクのような、ダウナーで悪魔的な魔力を持った歌声を聴いてしまう。励ましよりもトリップを求めてしまうのだ。

 ディアハンターにしろアトラス・サウンドにしろ、ブラッドフォード・コックスの才能を評価する理由としては、主にメロディや様々な音楽的要素を混ぜ合わせるそのセンスに焦点が集まっていたように思う。しかし、今回自身のブログにてVol.1~4までリリースされた『Bedroom Databank』シリーズでは、彼の「言葉」が存分に味わえる。歌詞としてだけではなく、音から自分の心に浮かび上がる風景としての「言葉」もあるし、何より『Bedroom Databank』シリーズそのものが、ブラッドフォード・コックスの「言葉」で紡がれる物語であって、だからこそ感動的ですらある。ベッドルームという狭い空間から、ここではない無限大なる世界へ。その世界において僕達は、何をしても許される自由な存在へと変貌する。

 そしてもうひとつ重要な点として、ブラッドフォードの歌声そのものが挙げられる。僕は彼の歌声が大好きなんだけど、何故歌声が注目されないのか不思議でならない。よく、「ドラッグをやらないでドラッギーになりたいなら、アトラス・サウンドを聴けばいいのに」なんていう馬鹿げたことを聞く。そんな言葉を吐くなんて、愚か者以外の何者でもない。アシッドは目の前の視点を変えるし、エクスタシーは多幸感と恍惚を味わえる。そして、ブラッドフォード・コックスの歌声は、未知なる興奮を教えてくれる。
 
 音楽というのは、理屈ではどうしても説明できない「ナニカ」があると思うし、ブラッドフォード・コックスはその「ナニカ」をもっとも多く含んでいる者のひとりだと思っている。もちろんブラッドフォード・コックス自身いろんな音楽を聴いているだろうし、だからこそディアハンターで見せてくれる目まぐるしい音楽性の変化があるわけだけど、彼の歌声には、理論や知識なんかを無効にしてしまう不思議な力がある。こんな書き方はレヴューとしてズルイというのは承知しているし、評論としては意見がないと言っているようなものかも知れない。だからといって、彼の歌声に対し付け焼き刃の言葉を並べても、それは嘘になってしまうし、やはり僕にとって、掴み所がない魅力と不思議な力があるということになる。それらが、未知なる興奮に繋がっているのだと確信している。

(近藤真弥)

retweet