ワン・リング・ゼロ『アズ・スマート・アズ・ウィー・アー 』(Barbes / Moorworks)

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One_Ring_Zero.jpg 先日、アメリカ人とカラオケに行った。僕はせっかくだからと思って、レディオヘッドの「Creep」とピクシーズの「Debaser」を披露した。「みんなで歌おう!」って盛り上がるはずだったんだけど...。はっきりと「歌詞が暗い」と言われた。「せめてガンズにしてくれ!」とのこと。もともとオルタナ好きじゃない人だったのかもしれない。でも、その時に"曲調/ノリ"ではなく、歌詞の内容を指摘されたことに驚いた。普段、聞き流してしまっている歌詞もある。好きな曲の歌詞を知って、気持ちが揺さぶられたり、新しい発見をすることもある。歌にしてはいけない言葉なんてないと思っている。あれこれ考え込んでも仕方がない。歌おう! "I'm A Creeeep! I'm A Weirdoooo!"  いつもより歌詞が心にしみる。そんな夜があった。

 歌詞と曲。ロックやポップ・ミュージックでは、切っても切れない大事な要素。そこに大胆なアプローチを仕掛けて、アルバムを1枚作り上げたバンドがいる。ニュー・ヨークを拠点に活動するワン・リング・ゼロ。2004年リリースの5thアルバム『As Smart As We Are』は、なんと総勢17人の現代作家とのコラボレーションによるもの。作家たちが歌詞を手掛け、バンドが曲を作るという手法で制作された。そして今、対訳/解説付きの国内盤が登場! 参加した作家陣を見てみると...ポール・オースター(!)、デイヴ・エガーズ、マーガレット・アトウッドなどなど。読書好きなら、ちょっとは聞き覚えのある名前ばかりのはず。バンドよりもむしろ、作家の知名度のほうが高いような...。ところで、ワン・リング・ゼロって、どんなバンド?

 ワン・リング・ゼロは、ヴァージニア州リッチモンド出身のマイケル・ハーストとジョシュア・キャンプの2人が中心となって結成された。2人はもともと楽器メーカーのホーナー社に勤めていて、マイケルはハーモニカ、ジョシュアはアコーディオンの技師だったそう。ある日、ドイツのホーナー本社から"クラヴィオラ"という楽器のプロトタイプが2人のもとに送られてきた。"クラヴィオラ"は、見た目がアコーディオンみたいで演奏方法はピアニカに近いという珍しい楽器。"クラヴィオラ"に魅せられた2人は、この楽器を使ったバンドの結成を決意する。バンドは99年に1stアルバム『Tranz Party』をリリース。その後、活動の拠点をニュー・ヨークのブルックリンへと移す。彼らはリーディング・イベントへの参加などを経て、多くの作家と交流を深めていった。そんな出会いの数々がこの『As Smart As We Are』制作のきっかけになったという。ニュー・ヨークっぽくて、素敵な話。映画『スモーク』(ポール・オースター原作/脚本)の1シーンが目に浮かぶ。

 イントロダクションに続いて、ポール・オースター作詞による、やさぐれ感たっぷりの「いかした男のブルース」でアルバムはスタート。いきなり「シンシナティに罪(Sin)はねぇ」 と、ダジャレを飛ばす! 歌わず、楽器も弾かない作家たちの"プレイ"とワン・リング・ゼロとの共演に耳を澄まそう。懐かしくも不穏なメロディにヴィオラやピアノ、トランペット、テルミンなどの音が重なり合う。フランケンシュタインが登場して、うんうん悩んだ挙げ句に「ドクター、あんたのせいだ!」と叫ぶ。アーロン・ナパーステクという作家の歌は、なんと英語による俳句。愉快なポルカの「観葉植物のすべて」も傑作だ。「植木鉢はいつしか金色に変わった/葉っぱはしかし、枯れてきた」だって。子供のコンプレックスを歌う「厄介な宿命」やゴキブリたちが居場所を知らせる「水」など、歌詞にぴったりのポップで奇妙な曲調も楽しい。本を読むというよりも、怪しげなサーカス小屋に迷い込んでしまったみたい。そこで垣間見るちょっと不思議な日常/非日常のあれこれ。後期ビートルズや『Swordfishtrombones』~『Franks Wild Years』の頃のトム・ウェイツを思わせる音世界。

 最後に、このアルバムに参加した作家を少しだけご紹介。ポール・オースターは、有名すぎるから省略ということで。「リタ・ゴンザロの亡霊」を作詞したデイヴ・エガーズは、映画『かいじゅうたちのいるところ』でスパイク・ジョーンズと脚本を共同執筆。01年に日本でも出版された『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』は、うちの本棚にもある。マイラ・ゴールドバーグは、後に映画化された小説「綴り字のシーズン」が有名。ザ・ディセンバーリスツ(The Decemberists)は、その作品にインスパイアされて「Song for Myla Goldberg」という曲をリリースしている。他にもデニス・ジョンソン、リック・ムーディなど、国内でも作品が出版されている作家ばかり。村上春樹、村上龍、吉本ばなな、町田康(もともとやってる)、山田詠美あたりの作家がいっぺんに日本のインディーズ・バンドに歌詞を提供したら、どうなるだろう? そんな想像も楽しい。ポール・オースターが好きな人、他の作家の名前にピンと来た人はぜひ。逆に、このアルバムを気に入ったら、参加している作家を見つけてみるのも楽しいはず。素敵な出会いと発見がたくさん詰まった最高の1枚だから。

(犬飼一郎)

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