フラン・ヒーリィ『レコーダー』(Wreckordlabel / Hostess)

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fran_healy.jpg 思えばトラヴィスのアルバムをボロカスに貶したレビューなんてこれまで一度も目にしたことがない。他のバンドもコールドプレイやキーンには文句を言うことはあるけれど、トラヴィスにその矛先が向けられたことは、あまりない。というかそのケースを私は知らない。トラヴィスのメロディにはどんな偏見や先入観の介入も許さない凛とした佇まいがある。「こりゃ、悪いわけがないよね」とついつい全面肯定してしまう魔法の力が働いている。ロクでもない人生でも最高のユーモア・センスとシンガロングできるコーラスがあればそれなりのものに見えてくる。トラヴィスのメロディは基本的にメランコリックだが、ふっと笑ってしまう気の抜け方が大好きだ。たぶん私以外のファンもそこが好きなんだろうと思う。

 そのトラヴィスのフロントマンであるフラン・ヒーリーのソロはブランドン・フラワーズのソロほどバンド・サウンドに傾倒しているわけではないが、アコースティックに振り切れたというわけでもない。そして「Selfish jean」や「Flowers in the window」のようなハッピーなヴァイブに満ち溢れているわけでもなく、内向的といえば内向的だ。だが、これは紛れもなくトラヴィス・サウンドである。おそらく特別にバンドとの差別化を図って制作されたアルバムではないだろう。だってトラヴィスの新作を聴くような気持ちで聴いたら、普通に良いアルバムだったから。シングルの「Buttercups」なんかは前々作の「The boy with no name」のどこかに紛れ込んでいてもたぶん気付かない。そういえばこの曲のビデオは、フランが車のなかでやたら女性に花束を投げつけられる、っていう内容なんだけど、最近こういうの多くないですか? まさに強い女性と情けない男子、というか。マルーン5の「Misery」もそうだったし、ブランドン・フラワーズの「Crossfire」もそうだった。まあ、男はいつだってその役回りだよね。スレンダーな女の肩に手を回して、プールだ、車だ、シャンパンだ、のマッチョなビデオに対するアンチとしては、かなりおもしろい。

 アルバムの話に戻します。まあ、鉄板ですから、フランの声は。ソングライティングも絶好調です。ポール・マッカートニーとニーコ・ケースが参加しています。でもそんなたいそうな参加の仕方ではありません。付け合せの野菜みたいなもんです。あと「Holiday」は「Sing」を彷彿とさせます。ボーナス・トラックにはハーツみたいな興味深い路線の曲が収録されているので、日本盤がおススメです。

(長畑宏明)

*インタヴューはこちらに掲載されています。【編集部追記】

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