ベル・アンド・セバスチャン『ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~』(Rough Trade / Hostess)

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b&s.jpg拝啓 ベル・アンド・セバスチャン様

 グラスゴーはもう秋の装いでしょうか?待ちこがれていた新作『Write About Love ~愛の手紙~』を聞きました。前作の『The Life Pursuit』が2006年だから4年ぶりとなるのですね。オリジナル・アルバムとしても通算8枚目だなんて、デビュー作の『Tigermilk』でさえついこの間に思えるのに、なんだか時の経つ早さを感じると共に、こうしてまた素敵な新作を聞けることをうれしく思います。それにしてもタイトルからして「Love」だなんてすごくストレートな表現で最初に聞いた時からどんな作品なんだろうとドキドキしていましたが、その名のとおり愛と優しさの溢れたアルバムで、改めて音楽の持つ「愛」の力に気付かされた気がします。

 アルバムの1曲目、今年のフジロック・フェスティバルのステージでもいち早く披露されていた「I Didn't See It Coming」のピアノとドラムのみのイントロから、サラ・マーティンの凛とした声でファースト・ラインの「Make me dance, I want to surrender」という歌詞が流れてきたときに、古い友人に出会ったような懐かしさと、その友人の新しい一面を見るような興奮を感じました。長く会いたかった友人に久しぶりに会ってみたら以前にも増して素敵になっていた、そんな感じです。

 その「I Didn't See It Coming」は後半になるにつれエレクトロ.ポップなアレンジが色濃くなりますね。それは、スチュアート・マードックのポップ・スターさながらのヴォーカルが印象的な「Come On Sister」でのキーボードや、同じくフジ・ロックでも聞けた「I Want The World To Stop」でのビートとマイナーなコード進行、スティーヴィー・ジャクソンによる「I'm Not Living In The Real World」のコーラス・ワークあたりにすごく顕著なのですが、これは前作同様にロサンゼルスンのスタジオで行なわれたレコーディングでプロデューサーをつとめたトニー・ホッファーとのコラボレーションの成果でしょうか。そうしたエレ・ポップさは流行のものというよりもむしろ80年代的なものも強く感じられます。もしかすると前述の1996年のファースト『Tigermilk』のプロデューサーだったアラン・ランキン、ひいてはアソシエイツなどの80年代のサウンドへのオマージュ/原点回帰といった意味合いもあるのかもしれませんね。スロー・テンポの「Calculating Bimbo」や、息が止まりそうなくらい繊細なアコースティック・サウンドが美し過ぎる「Read The Blessed Pages」など、初期~中期にベルセバ・サウンドを象徴するかのようなバラード曲を含め、アルバムからどこか懐かしさを感じられるというのはそうしたサウンド部分によるところも大きいのだと思います。
 
 もちろん最初に書いたようにアルバムには懐かしさだけでなく、新鮮さも同居していると思います。それはストリングス/ホーンの洗練されたアレンジなどにも感じられますが、中でも一番の驚きだったのが、ノラ・ジョーンズのゲスト参加です。前作と今作の間にリリースされていたスチュアートのソロ・プロジェクト『God Help The Girl』でも多数のゲスト・女性ヴォーカルが参加していましたが、グラミー賞も受賞したジャズ・シンガーである、あのノラとはびっくりです。でもそのスチュワートとのデュエットとなっているメロウな一曲「Little Lou, Ugly Jack, Prophet John」でのノラの力強くも優しい声は、ベルセバのサウンドに自然にとけ込んでいてその参加に納得するとともに、優れたポップ・ソングにおいてはジャズやソウルなどそのアーティストが(ともすればメディアに)分けられているジャンルに関係なく、その魅力が伝わりスタンダードに響くものなのだと改めて感じました。

 続くタイトル・トラック「Write About Love」にゲスト参加している、映画「17歳の肖像」で各国の映画賞を受賞していたイギリス新進女優キャリー・マリガンの初々しいヴォーカルもとても新鮮ですね。また、この2曲もそうですが、同じくスチュワートがこれから制作する映画のサウンド・トラックという位置づけだった『God Help The Girl』を経ているからなのかもしれませんが、今作は歌詞にストーリー・テリングなものが多く、以前のアルバムにも増してそれぞれのラヴ・ソングに自分の個人的な恋愛の経験や想いを重ね合わせた情景が思い浮かびます。特にアルバムの本編ラストを飾る曲「Sunday's Pretty Icons」(日本盤は「Last Trip」と「Suicide Girl」の2曲がボーナス・トラックとして収録されています)で最後に歌われる「Every girl you ever admired/Every boy you ever desired/Every love you ever forgot/Every person that you despised is forgiven」という福音のような響きの歌詞は、アルバムを象徴するかのように、そこで歌われてきた様々な愛の形とそこから思い起こされる自分の想いを、まるでハッピー・エンドのように祝福してくれていてしばらく涙が止まらないほど感動的でした。

 そうした懐かしさと新鮮さが溢れ、「愛」を感じさせてくれるアルバムですが、思えば、こうしたバンドとファンの関係も恋愛に似ているのかもしれませんね。うまく言えませんが、このアルバムでは今までの作品以上にバンドとのつながりを感じると共に、作品で表現されているその「愛」が自分の気持ちや感情の深い部分に根ざしていくような気がします。そして、それはとても素敵なことだと思います。ほんとうに美しいグラスゴーからの愛の手紙を届けてくれてありがとう。また日本で会えるのを楽しみにしています。

                                               敬具

(安永和俊)

*ただいま「ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~」コンテスト開催中! 詳細はベルセバ日本オフィシャルサイト及びdigital Convinienceブログのこの記事をご参照ください。ベルセバ愛に満ちた↑の手紙も、英語に訳して本人たちに直接見せてあげたい!【編集部追記】

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