ニール・ヤング『ル・ノイズ』(Reprise / Warner)

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neil_young.jpg 僕は『The Bridge : A Tribute To Neil Young』というニール・ヤングへのトリビュート盤がお気に入りだった。このアルバムは、ニール・ヤングと奥さんが運営しているハンディキャップを持つ子供たちの支援施設へのチャリティを目的としたもの。参加していたバンドがとにかく豪華。ソニック・ユース、フレーミング・リップス、ニッキー・サドゥン、ピクシーズ、ニック・ケイヴ、サイキックTV(!)、ダイナソーJr.などなど。発売はグランジ前夜の1989年。ニール・ヤング本人は迷走の80年代を何とか切り抜けて、『Freedom』という傑作で「Rockin' In The Free Worldだろ!」と、再び声を上げ始めていた。

 20年後の今、ニール・ヤングの最新作『ル・ノイズ』が素晴らしい。プロデュースは、U2やボブ・ディランの名作を手がけ、最近ではブランドン・フラワーズのソロ・デビュー作にも参加しているダニエル・ラノワ。アルバム発売と同時にYouTubeにアップされた映像も必見だ。聖堂にも見えるバルコニーで、アルバム全曲を歌とギター1本だけで演奏するニール・ヤング。そして、ジャケット・デザインそのままの陰影を音像化するラノワのプロデュース・ワーク。フランス語っぽい『ル・ノイズ(Le Noise)』というタイトルは、訳すと「喧嘩」という意味もあるらしい。ノイズというには、繊細すぎるフィードバック。喧嘩というには、叫びから程遠い歌声が聞こえる。

 90年代を迎えた頃、ニール・ヤングはグランジの隆盛と共にシーンの最先端で活躍する。クレイジー・ホースを率いたファズの歪みと着古したネルシャツ、マーティンのアコギと美しいメロディは、パール・ジャムをはじめとする当時の若手バンドのリスペクトを一身に集めていた。ソニック・ユースを前座にツアーしていた時期もあった。どんなに分厚いフィードバックを轟かせても、その歌声だけは細く、時に頼りなさげ。それがどこまでもリアルで、僕たちの心を捉えて離さなかった。だけど、94年にカートがニール・ヤングの「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」の言葉を借りてこの世を去った。「錆びつくよりも、今燃え尽きる方がいい」。バカ野郎。

 『ル・ノイズ』はアート・ワークも音の粒子もザラザラでモノトーンだ。燃えカスみたいだ。錆びついちまったみたいだ。でも、あの歌声は今も変わらない。『ル・ノイズ(Le Noise)』ってタイトルは、プロデューサーのダニエル・ラノワ(LANOIS)のダジャレらしい。あんまり笑えないな。カートを失ったあとも、僕たちだってたくさんの時間を生きてきた。911、環境問題、経済不況、政治、戦争、人には言えない個人的なあれこれ。このアルバムの「LOVE AND WAR」という曲を聴いて欲しい。「愛と戦争を歌おうとしても、何て言ったら良いのかわからない」「間違ったコードで正義について歌った。それでもまだ、愛と戦争を歌おうとしている」。今ここにいて、声を出す。ノイズを増幅させる。あきらめてはいない。そう、まだ錆びついていないし、燃え尽きてもいないんだ。

(犬飼一郎)

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