ゴールド・パンダ

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GOLD PANDA

歌詞とかヴォーカルがなくても、"曲"ってものを作りたいんだ


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UKイースト・ロンドン出身、シャイな人柄とハートウォーミングな音楽性で現在、話題沸騰中のエレクトロ・ミュージシャン、ゴールド・パンダ。

過去にリリースされてきたEP(日本ではこれらのEPを纏めた独自企画盤『Companion』も)や、ブロック・パーティやリトル・ブーツなど大物たちのリミックス・ワークでじわじわとその名前を浸透させてきた彼だが、先ほど発表された待望のフル・アルバム『Lucky Shiner』で遂にブレイク。エイフェックス・ツインとなぞらえられたり、「ポスト・ダブステップ世代の俊英!」みたいに持て囃されたり、DOMMUNEや朝霧ジャムにも出演したりと、にわかに周囲は盛り上がりを見せているが、本人はいたって謙虚。

インタヴュー中も実にマイペースであっけらかんとしていて、ジョークも飛ばすし、ナーディな佇まいも併せて非常に共感。かわいい!

内省的でセンチメンタルな作風となったアルバムのことを中心に今回は話を聞いてみた。すでによく知られているように、若いころに日本滞在の経験もあり日本語検定二級も取得済みの彼。話を聞くだけなら通訳いらずの語学力にも驚いたが、インタヴューの行われた畳の間に座る姿が恐ろしいほど場に溶け込んでいてまったく違和感がなかったこと。そして、機材や楽器を巧みに操る指先が、男性とは思えぬほど綺麗で思わず見入ってしまったことを最初に付記しておこう。


うわ、クランプス(注・ガレージ・ロック/サイコビリーといったジャンルのパイオニアであり、30年以上の活動歴を誇る、見た目も超オカルトな伝説のバンド)のTシャツ着てる...(笑)。お好きなんですか?

ゴールド・パンダ(以下G):うん、好き好き。でも彼らには最近興味を持ち始めたんだ。最近っていっても10年くらい前からの話だけどさ(笑)。はじめは二、三曲しか知らなかったんだけど、ライブ・アルバムを聴いてから一気にハマった感じかな。

へー。あなたとクランプスって妙な組み合わせ。ロックとかもやっぱり聴かれるんですか?

G:うんうん。ありとあらゆる音楽が好きだよ。

 

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photo by Masao Nakagami

そうなんですか。さて、『Lucky Shiner』ですが素晴らしい作品だと思いました。ハッピー/サッドな音楽性で、IDMスタイルやエレクトロニカのミュージシャンというよりは、黄昏たシンガー・ソングライターの作品集を聴いているようで...。こういう感想についてどう思いますか? 

G:そういうふうに言ってもらえるのはとても嬉しい。エレクトロニック・ミュージックって、やっぱりビートが中心だし人間的な感情とかってあまり入ってこないものだよね。でも、僕は歌詞とかヴォーカルがなくても、"曲"ってものを作りたいんだ。ヴァースやコーラスだとか、始まりから終わりまでの流れというものをとても意識している。

アルバムの初めと終わりを「You」という曲で挟んでいたり、「Before We Talked」と「After We Talked」という曲が入っていたりしていますよね。すでに何枚もアルバムを作れるだけのトラックをあなたはストックしているそうですけど、その割にこのアルバムには物語性というかコンセプトが垣間見える気がしました。

G:最初に「You」を作ったんだけど、この曲を作っているうちに、だんだん自分に近い人、関係する人のことを改めて強く意識するようになったんだ。そこからコンセプトが固まっていって、あとの曲も...たとえば「Before We Talked」と「After We Talked」は亡くなった僕の親友についての曲だし、ほかの曲も友人や家族とかと関連しているね。

そういったコンセプトと向き合って表現することがこのアルバムを制作するきっかけということですね?

G:うん。まあそれもあるけど、キャリアを積むためにもそろそろアルバムを出さなければいけないタイミングだったから。それで熱心に制作に取り組んで、結果的にさっき話したような作品になったのはとてもいいことだと思ってるよ。

あなたが過去にリリースしてきたEP(及び、それらの楽曲を収録した日本独自盤『Companion』)の曲と比べて、とても音が整理され、美しさも今まで以上に強調されている印象を受けました。そういったことと、先ほど話していたパーソナルな視点/テーマとは何か関係があるのでしょうか。

G:アルバムに収められた音はとてもシンプルだよね。EPのときは方向性がバラバラでいろんな曲が入ってたけど、今回はひとつのテーマからひとつの作品を作るというのを自分に課したところがあるかな。テーマっていうのはさっき話したようなことも含めて。そういったことがベースにあったから、作業はすごく早く進んだよ。どんどん曲が生まれていった。

冒頭であらゆる音楽が好きと話してましたが、今回のアルバムを制作中に特に聴きこんだり影響を受けたりした作品はありますか?

G:サイキン(日本語で)? そうだな...。Raster-Notonってドイツのレーベルや、アメリカの12Kからリリースされている作品はとてもミニマリズムが強くて、パッケージのデザインもいつも最高だし、どれも質が高いと思う。あとはイギリスのエレクトロニカ・レーベルだとBorder Communityのことをとても信頼している。ネイサン・フェイクにジェームス・ホールデンやルーク・アボット、彼らのことを強くリスペクトしているよ。

なるほど! 個人的にはルーク・アボットが最近リリースしたアルバム(『Holkham Drones』)からもあなたの作品と少しだけ似た空気を感じました。これまでの作品を聴く限りでは、あなたの音楽がよく見かけるような"ポスト・ダブステップの騎手"みたいに評されるのは不思議だったし、ちょっと的外れかな? と正直思っていました。でも、今回のアルバムにおける"シンプル"な美しさは、最近リリースされたスクリーム『Outside The Box』におけるダブステップのポップ化ともちょっとリンクしているような気がして、そういう意味では"ダブステップ界のなんとか"みたいに評されるのもそこまで違和感がないのかも、とも思ったり。そういった、シーンへの繋がりは意識していますか?

G:うーん。よく比較されるけど、その辺りの人たちと僕の作品はあまり関係ないと思うけどね。彼らが自分の作る音楽を好きだとも思えないし。僕は立派なシンセサイザーも持ってないし、プラグインの使い方とかもわからない。長年ずっと同じやり方で音楽を作ってきているけど、(ダブステップのような)ベース・ミュージックに僕がフォーカスを当てることはこれからもきっとない。好きだけどね、ダブステップ。とんでもない音楽だとは思うよ。ジョーカー(注・ブリストル出身でダブステップの代表的な大物DJ/プロデューサー)って知ってるでしょ?

ええ。

G:彼みたいにヘヴィーな音楽をやる人といっしょにライブすると、自分がえらく場違いに思えるんだよ。ジョーカーの音は「シュコー、ホワンホワンホワンホワン!」、僕のは「ティンティンティンティン(高い声で小刻みに)」。Fuck is this(笑)!

あはは(笑)! で、今さっきご自分で言われたように、あなたの音楽の魅力のひとつはチープな楽器を用いたローファイなサウンドにあると思います。楽曲ごとに用いた楽器についていくつか解説してもらってもいいですか?

G:オーケー。「Parents」では叔父さんのギターを使った。プロが使うようなのではぜんぜんなくて、ナイロン弦の安物だね。僕はギターをロクに弾けないし。「Same Dream China」ではカリンバ(注・アフリカ発祥の親指ピアノ)を弾いてる。マーケットで男の子が売ってたのを8ポンドくらいで買ったんだ。「You」では古いインドのレコードをピッチを上げ下げしながらサンプリングしたし、「Vanilla Minus」では日本のトラディショナルな弦楽器(琴?)を演奏している。「Snow & Taxis」でも10枚くらいレコードをサンプリングして、あとローランドのTR-808というドラム・マシーンも使ってる。

おお、TR-808!

G:(アルバムのミキシングを担当した、シミアン・モバイル・ディスコの)ジェイムス・ショーのスタジオに置いてあったんだ。彼がスタジオを留守にしているとき、僕はそれを使って「チッチッ」ってスネアのサウンドを打ちこみ、ジェイムスが音をチューニングしたりピッチをいじったりした。そういう作業でもMIDIの類は一切使わなかった。それなのに、アルバム制作では「Snow & Taxis」が一番コストがかかったよ。高価な楽器はそもそも持ってないし、僕にはたぶんいらないんだと思う(笑)。「I'm With You But I'm Lonely」ではカシオのSA-20ってキーボードを使ってるけど、ザッツ・センエン(千円)!

安っ(笑)!

G:ハハハ。あとは、その曲でもカリンバを使ったかな。「Before We Talked」と「After We Talked」ではヤマハのエレクトーンを弾いている。ニヒャクエン...クライ(笑)。イギリスでは古い教会とかでよく用いられていたんだけど、そのうちどこも使わなくなっちゃって。で、eBayに山ほど流れていったんだけど、大きい楽器だし持ち運びが大変だからか買い手がぜんぜんつかなくいんだよね。それでメチャクチャ安い値段で入手したってわけ(笑)。エレクトーンはパーカッション機能が少しイカれてたんだけど、割れた音を強調したり逆に利用してリズムを作ってみたりもした。いろいろ楽器は使ってるけど、メインはやっぱり古いレコードのサンプリングかな。

photo by Masao Nakagami

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『Lucky Shiner』というよくできたアルバム・タイトルがあなたの祖母の本名から取られた...というエピソードにも少し驚いたんですが、「Parents」という曲はやや物哀しいギターの響きが印象的です。あなたにとって両親とはどういう存在だったのですか?

G:Idiot...ってウソウソ(笑)。とてもラブリーな存在だよ。家族とはとても仲がいいんだ。まあ...、それ以上のことはちょっと言葉にしづらいな。お母さんには半分インドの血が流れていて、お父さんは典型的なイースト・ロンドンの男。コックニー訛りがヒドいんだ。うん、そんなところだね。

「Marriage」は曲調がけっこう明るいですよね。結婚についてはポジティブなイメージを抱いているんですか?

G:僕はまだ経験してないから理解できないところもあるけど、両親や祖父母はいまだに仲良くいっしょに付き合っているし、たぶん永遠にその関係を保っていくんだろうと思う。今の世の中はそういう関係性が少し変わっちゃって、離婚も再婚もふつうになってきているけど、家族を含めた僕の周りはみんな幸せな結婚生活を送っている人たちばかりだから、僕も結婚にはハッピーな印象をもっているよ。

部屋に籠って音楽を作り続けることがあなたにとってのアイデンティティのひとつである...と聞いたのですが、そんなあなたにとって、ライブで人前で演奏するというのはどういう意味を持つのでしょう?

G:うーん...ライブってやっぱり難しいよ。恥ずかしいし、終わったあといつもお客さんに謝りたくなる(苦笑)。僕みたいな音楽を作っている人間には、ライブで魅せるというのはとっても困難。でも、プロモーションとか、人との繋がりを生んだりという点では有意義だと思う。セットアップにいろいろ手を加えたいんだけど、今は時間やお金に制限がある状態だから、なかなかそこまで手が回らないんだよね。

アルバムには「You」のほかに「I'm With You But I'm Lonely」という曲も収録されていますよね。あなたの曲を聴いたり、今までこうして話を伺ったりしてみて、紅茶とパンダが大好きなあなたは自分の世界観をとても大切にしている人だと思いました。そんなあなたにとって"You"とはどういった存在なのですか?

G:「You」は前に付き合っていた彼女をテーマにした曲。すごい大切な存在だったけど今はもう別れちゃった(苦笑)。歩みを共にし、いっしょに成長してきた。だから一番最初の「You」はポジティブだし、最後の「You」はフェードアウトして終わっていく。「I'm With You But I'm Lonely」という曲は、自分には"この人しかいない"という人といっしょにいても、いろいろな事柄が絡んできて、うまく相手自身や自分の気持ちに対してストレートに向き合えないことを表現してみたつもり。

ふむ...。そういったパーソナルな作品に仕上がったわけですが、今後の方向性はどうなりそうですしょう? 本を書いたり映画を撮りたいなんて話も聞きましたが。

G:本や映画を作ることには軽い気持ちで取り組みたいね。執筆活動ができるほど自分が頭がいいかは疑問だけど、書いてみたいという気持ちはたしかにある。逆に、音楽や曲作りにはもっともっとシリアスに今後も向き合っていきたいと思ってる。もう30歳になるからね(笑)。真剣にがんばるつもり。

そういえば、パンダのどこが好きなんですか?

G:色! 白黒の動物が好きなんだよ。まあ、自分で名付けといてあまりゴールドにもパンダにも詳しくないからなんだか申し訳ないよ(笑)。


2010年10月
取材、文/小熊俊哉
撮影(2点目、および3点目)/ん

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