PERFUME GENIUS『Learning』(Matador) 

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perfume_genius.jpg かつてマーキュリー・レヴはアルバムのタイトルに『見捨てられた者の歌』と名付けた。幻想感に満ちた音楽性を『全ては夢だ』と言い切った作品もある。しかしその二枚は残酷なほど美しく、神々しく、憧れに似た、ある種の救いがあった。崇拝の対象に成りえるほどに。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズともよく比べられるシアトル在住のマイク・ハドレスのソロ・ユニット、パフューム・ジニアスによるデビュー作『Learning』を聴くと、僕は約十年前の作品であるマーキュリー・レヴの、先に記した二枚が条件反射的に頭に浮かぶ。絶望に泣いているような歌声とオーケストレイションを施した神聖な奏で。かすかに存在する浮遊していくような甘美な響き。共通するところがあると思う。
 
『Learning』に貫かれているのは圧倒的に押し寄せてくる哀しみ。水滴を思わせるピアノとささやくような歌声を軸に、か細く、あてもない救いを求めるように音が悲壮感を帯びて広がっていく。悲壮感と、ほんの少しの暖かさがあるのは彼がドラッグ漬けの日々から立ち直り、母親のベッド・ルームでレコーディングされたということもあるのだろう。苦しみを背負った本作は美と狂気の紙一重に位置するパーソナルな作品だ。
 
 マーキュリー・レヴの前述した二枚と違いは音に荒さがあることや使う楽器など、目指している具体的な音楽性はもちろんのこと、本作に憧れることはないし、威厳高くあるわけでもない。崇拝の対象にもならないと僕は思う。パフューム・ジニアスも崇拝されたくないんじゃないか。だって僕らも、彼も、何の" Learning"も得ていないのかもしれないのだから。この作品は彼にとって過去の自分との決別だと僕は思う。その決意を、ちいさい文字で綴った手紙のような音楽。それは美しい詩のようなもの。
 
 もうアーティストを神格化する時代じゃない。少なくともパフューム・ジニアスは自分の手で、音楽によって立ち直り、美を学んだ。「You Will Learn To Survive Me」と彼は歌う。僕らもまた、この音楽を手掛かりに、自分の手によって学ぶべきなのかもしれない。幻想的で、いまにも消え去りそうな歌声なのに、確かな血がかよっている。全ての人に届いてほしいと強く願う。

(田中喬史)

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