VARIOUS ARTISTS『MP3 Killed The CD Star?』(Maltine)

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mp3_killed_the_ cd_star.jpg 日本においては、まだまだDJのみで生活していくのは厳しい。DJの文化的価値や地位が認められているヨーロッパでは、スーパースターDJなんて呼ばれる存在もいるし、その中の一人であるティエストは、オリンピックでもプレイした。しかし、日本では大きな興行収入を得られるイベントやパーティーは少ないし、そもそも、DJという肩書きへの世間的評価も低い(そういう意味では、興行として成り立ってないとも言える)。そんななか、イベントやパーティーの主催側から、「DJをDJだけで食わしてやろう」と頑張っている人も出てきたと思うし、その動き自体は良いと僕も思う。DJだけで食わせてやるためには、当然DJのギャラを上げなきゃいけない。そのギャラを上げるためには、興行収入を増やさなければならない。そして、興行収入を増やす手段として目立つのが「イベントやパーティーの大衆化」だと、僕は思う。

 僕なりに、いろんなイベントやパーティーに行かせてもらって思うのは、「面白いDJ」よりも、「盛り上げるDJ」を数多くブッキングしたイベントやパーティーが多いということ。「盛り上げるDJ」というのは、良い意味で客を裏切るプレイよりも、なるべく客のニーズに応えるプレイをするDJのこと。もちろん、DJの本質は、エンターテイメントであるし、盛り上げることが悪いとは言わないけど、「イベントやパーティーの大衆化」によって、「面白いDJ」(つまり、ときにはファンの批判なども受けながら、常に前を向いて、変化することを恐れない向上心と勇気を併せ持ったDJのことだ)が、「盛り上げるDJ」が増えすぎることによって、なかなか日の目を見ないことが多い。主催者側からすれば、客の入りが計算しにくいDJをブッキングするのには躊躇してしまうし、たとえ出演させたとしても、時間的に人が少ない22時や23時に配置して、結果、多くの人の目に入ることは、少なくなってしまう。良くも悪くも、盛り上げ重視のイベントやパーティーには、音楽的教養に優れた人は少ない。普段熱心に音楽を聴かなかったり、頻繁にクラブへ遊びに行かない人も来てくれるから、ナイトライフの入口にはいいけど、その分音楽的な面白さや冒険的な試みはどうしても減ってしまう。僕がそんな最近の傾向に疑問を持っていたのは、隠しようのない本音である。

  先日、宇都宮で開催されたクラブ・スヌーザーに行ってきた。クラスヌって、僕にはどちらかといえば盛り上げ重視の「みんなで盛り上がろうぜ!」というパーティーなんだけど、結構好きで何回か行かせてもらっている。でも、好きになれない部分もある。盛り上がることを強要してくる雰囲気になることも多くて、そういうことを求めてくる客も多い。実際一人で踊っていたら、やたら絡んできたり、なぜか突き押してきたりする客が何人か居て、「初の宇都宮開催だし、盛り上げよう!」とするのはいいけど、一人で居るから盛り上がってないと決め付けて、半ば強引に輪に入れようとするのは迷惑。まあ、「俺は俺の踊りを踊ってるんだ!」と言ったら、「すいません」と引き下がって行ったからいいけど。一体感は、「生みだすもの」ではなく、「生まれてくるもの」だから、「自分の踊り」を踊ればいいと思う(タナソウの「Born Slippy」と「Strings Of Life」のマッシュアップで踊り狂いました。そして、タナソウはDJ上手い)。

 話が逸れたな。僕はここ一年意識的に、地方のイベントやパーティーに遊びに行っている。そして、そのイベントやパーティーに来ている客に、「どんな音楽を聴いているの?」と訊いて回っている。すると不思議なことに、イベントやパーティーが流している音楽以外の音楽を好む人達が、予想以上に多かった。はっきり言って、「分断化するクラスタとかないんじゃない?」と思わせるほど、音楽的知識や幅広さがあった。それが一回や二回だったら偶然で片付けられるけど、それがここ一年ずっと続いたから、「最早偶然ではないのではないか?」と思い始めていた。そしてそれは、宇都宮でのクラスヌで確信に変わった。宇都宮という場所は偶然だけど、僕が知る限り、クラスヌに来る客は、音楽の好みが偏っている傾向がある(まあ、スヌーザーがやっているんだから、スヌーザーが取り上げるアーティストやバンドが好きな人が集まるのは、当然といえば当然か)。だけど、ここ最近のクラスヌに集まる客の音楽的な趣味の幅広さは凄い。スヌーザーが大嫌いであろうアーティストやバンドを好む人もたくさん居たし(ちなみに、宇都宮ではミューズが好きな人がいました)。よく、「リスナーには、もっといろんな音楽を聴いてほしい」みたいな発言をするアーティストもいるけど、僕が思うに、リスナーの準備は既にできている。あとはアーティスト(そして、そのアーティストを押し出すレーベルやメディアも)が、リスナーをもっと信用して、好き勝手やって、冒険心溢れる音楽をたくさんやってくれたら、日本の音楽シーンも、もっと面白くなりそうな気がする。「それぞれの分断化するクラスタを無理やり横断しよう」としなくても、リスナーの足枷は外れている。どこへでも行けるのである。

 そして『MP3 Killed The CD Star?』は、アーティスト側から発せられた自由の宣言だと思う。『MP3 Killed The CD Star?』は、マルチネ・レコーズにとって初のフィジカル・リリースで、それまでは、すべてのリリースを無料ダウンロードで配布していたという太っ腹なネット・レーベルである。しかも『MP3 Killed The CD Star?』はちょっと凝った仕組みになっていて、一応ミックスCDなんだけど、ミックスされているオリジナル音源をダウンロードするためのコードが記されたカードと、そのダウンロード音源用のCD-Rが同梱されている。

 参加アーティストはマルチネ・オールスターズといった感じで、Quarta 330やパジャマパーティーズにTofubeatsなど、まさにマルチネを知るにはうってつけのアルバムになっている。僕が特に好きな曲について書いていくと、まずはパジャマパーティーズの「MP3」。音はまんまヒップ・ハウス。セカンド・サマー・オブ・ラブ期の音が好きな僕としては、かなりツボ。でも、歌詞がたまに「えっ?」となる部分があってそこが気になるけど、それを補って余りある熱がある。Gassyoh「Scandinavia」も素晴らしい。ディープ・ハウスなんだけど、ベースが鳴り始めた瞬間から「グッ」と引き込まれる。美しい。あとはTofubeatsのヴォーカル・ハウス「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」も!

 他にも三毛猫ホームレスやokadadaとか、ダブステップ以降の音や、少し先の未来の音も鳴っていて、本当に素晴らしい曲が揃っている。要は、全部良いんですよね。すべての曲に、アーティストそれぞれの思いや熱が詰まっていて、昔親父とお袋に聞かせられた、セカンド・サマー・オブ・ラブ期のミックステープを思い出した。そして、「これが俺達の音楽だ!」という強すぎる主張もない。本当に軽やかというか、上の世代や、他のクラスタを寄せ付けない近寄りがたさというのがない。それは、彼等自身が、tomadによるライナーノーツから引用すると、「クラスタからクラスタへと自由に闊歩する」からだろう。つまり、彼等のほうから、リスナーの元へ出向くのである。そして、「面白そうな所には何処にでも行け」なのである。さらに彼等は、自らその「面白そうな所」を作り出している。その作り出した「面白そうな所」に、既に準備ができているリスナーが集まりつつある。僕と同世代や、その下の世代は、すべて自ら捜し求め、作り出す。それは反骨精神とかいうよりも、純粋に「楽しいから」という思いが、突き動かしているのではないか?

「楽しいところがなければ、探そうじゃないか。探してもなければ、作ろうじゃないか」、『MP3 Killed The CD Star?』からは、そんなアーティストとリスナーのポジティブな声が聞こえてきて、僕は嬉しくなる。ここにあるのは、そんな時代の最先端を行く若者達の行進する姿である。そして、その行進と共に鳴らされているのは、紛れもないソウル・ミュージックである。

(近藤真弥)

*近日中(1週間〜10日以内くらいかな?)には、この3月におこなったマルチネ・レコーズ主宰者tomadのインタヴューを「同人音楽」コーナーにアップする予定です。【編集部補足】


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