ヴァセリンズ『セックス・ウィズ・アン・エックス』(Sub Pop / Traffic) 

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vaselines.jpg 全然音沙汰のなかった友達が20年ぶりに姿を現して「やぁ」なんて言ってくる。しかもその友達は全然変わってなくて、なにやら最近新しいことを始めたという。それがまた最高にかっこいいことだったりする。このグラスゴーのポップ・デュオ、ヴァセリンズが届けてくれた21年ぶりのセカンド・アルバム『Sex With An X』は、例えて言えばそんなアルバムだろう。

 ユージン・ケリーとフランシス・マッキーにより結成されたバンドは、80年代後期に3年だけ活動し、同郷のパステルズのレーベル〈53rd and 3rd Records〉からシングル2枚と〈Rough Trade〉からのデビュー・アルバム『Dum Dum』1枚を残して解散。その後、有名なニルヴァーナのカート・コバーンによる一連のカヴァーと「世界中で一番好きなバンド」という発言による90年代の再評価はあったものの、ユージンとフランシスはそれぞれユージニアスやサックルといった自身のバンドやソロ活動を続けヴァセリンズが再結成されることはなかった。そんな2人が地元のチャリティー・イヴェントをきっかけに再結成を行なったのは(ちなみにイヴェントを企画したのはフランシスの妹だそう)2008年のこと。続く2009年には初来日となった〈サマー・ソニック〉と〈ブリティッシュ・アンセムズ〉で立て続けに日本のファンの前でライヴを披露してくれ、それだけでもファンはびっくりだったのだが、まさか新作まで作ってくれるとは、本当にうれしい驚きだ。そして、その新作『Sex With An X』にはこれぞヴァセリンズ!というサウンドが詰まっていて、さらなる驚きと喜びに満ちている。

 アルバムを聞いて一番に感じるのは、彼らが当時のヴァセリンズの音を忠実に再現しているということだ。それは、プロデューサーをファースト・アルバムと同じジェイミー・ワトソンに依頼していることや、当時と同じくテープによる録音方法をとっていることなどからもあきらかなのだが(これらレコーディングの経緯についてはヴァセリンズのインタヴューに詳しいのでぜひそちらで彼らの生の声も聞いて欲しい)、パンキッシュなギターが爆発する一曲目の「Riuned」から、グラスゴー印のキャッチーなメロディーラインにシンプルでエネルギッシュなギターをメインにしたインディ・ロックというヴァセリンズのサウンドを構成する要素が詰まった楽曲が並んでいて、この20年のブランクはいったいなんだったのか?と驚いてしまう。もちろんそれは懐古主義的な意味合いではなく、20年経ったこの今も、彼らが当時と変わらぬロックへの初期衝動を心の内に秘め続けてきたということの証明に他ならない。一口に20年っといってもそこには大きな時代と環境の変化があるはずなのだが(子供が生まれていれば成人してしまうほどの時間の流れだ)、その中においてユージンとフランシスの2人が音楽へのピュアな想いを失っていないことが、この新作を聞くと強く感じられ、またそのピュアさがカートらを魅了した彼らの大きな魅力なのだと気付かされる。
 
 とはいえ、人が全く変わらないわけはなく、アルバムでのもうひとつの驚きは、彼らがそのピュアなヴァセリンズのサウンドを、自分たちの20年のキャリアでさらに磨きをかけているということだ。ともすれば特に演奏とプロダクション面においてヘタウマ/ローファイ的だった彼らだが(当時のグラスゴー・バンドはほとんどそうだった)、その20年の経験からくる自分たちの目指す音への自信とミュージシャンとしての成長で、プロダクション面においての音の完成度は当時とは比較にならないくらいに向上している。それは、ゲストとして参加しているベル・アンド・セバスチャンのスティーヴィー・ジャクソン(ギター)とボビー・キルディア(ベース)、1990sのマイケル・マッゴーリン(ドラム)という地元グラスゴーのミュージシャンの功績によるところも大きいだろう。再結成後のツアー・メンバーともなっていた(現在はベル・アンド・セバスチャンの2人はツアー・サポートからは離れている)彼ら若いミュージシャンが加わることによって、よりサウンドにはフレッシュな響きが加わっている。特に昨年の〈サマー・ソニック〉でのライヴでも感じたことだが、収録曲の「Overweight But Over You」や「Mouth To Mouth」あたりでのスティーヴィー・ジャクソンの唸るギター・プレイはこの新生ヴァセリンズのサウンドの大きな要素となっていて、魅力的だ。
 
 そうした新旧2つの軸からなるヴァセリンズのサウンドが詰まった作品だが、やはり中心にあるのはユージンとフランシスの歌声だ。時にユニゾンで時にハーモーニーで重なる2人のヴォーカルからは、ヴァセリンズとして音楽を作り歌うことへの楽しさと喜びがダイレクトに伝わってくる。再結成だけであれば古い曲だけを演奏することも可能だし、実際そうしているバンドも多い。けれど、彼らはこの新作を作ることによって、音楽を作る楽しさを再び手に入れたのではないかと思う。そしてその音楽の楽しさというものは、いくら年月が経っても色あせることはないものだろう。

 冒頭の例えに戻ろう。その20年ぶりに会う友達としばらく話をしていたら、きっと自分の中にもなにか変わらないものが宿っていることに気付くはずだ。そして忘れていた当時の楽しい気分が戻ってくるのではないだろうか。そうした気持ちと楽しさをこのヴァセリンズの新作でぜひ感じてみてほしい。

(安永和俊)

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