ザ・ヴァセリンズ

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THE VASELINES

聴いたらすぐに「これはヴァセリンズだ!」って
思ってもらえるようなアルバムを作りたかったんだ


ニルヴァーナのカート・コバーンが憧れたことでも知られる80年代の伝説的グラスゴー・バンド、ヴァセリンズが奇跡の再結成を行ない、さらになんと21年ぶりとなるセカンド・アルバム『Sex With An X』をリリース! ミュージシャンとして成長しながら、当時と変わらないエネルギッシュな作品を作り上げたバンドの中心人物のユージン・ケリーとフランシス・マッキーの2人に、待望の新作で目指したサウンドについて聞いた。

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Photo by Wattie Cheung

新作『Sex With An X』はこれぞヴァセリンズというサウンドに仕上がっていますね。プロデュースは20年前のデビュー作『Dum-Dum』と同じジェイミー・ワトソンを起用していますし、ここまでヴァセリンズのサウンドを再現することに強いこだわりを持っているのは何故ですか?

ユージン・ケリー(以下E):みんなが聴いたらすぐに「これはヴァセリンズだ!」って思ってもらえるようなアルバムを作りたかったんだ。だから当時と同じジェイミーにプロデュースを頼むとはいいアイデアだと思ってね。彼がいてくれたおかげで僕らは自分たちの演奏に専念することができたんだ。彼は新作のサウンドがローファイであまり過剰に作り込まれてないガレージ・ロックっていう僕らのスタイルからかけ離れないようにいい仕事をしてくれたと思うよ。

フランシス・マッキー(以下F):最初からすごくそれを意識してたってわけでもないのよ。でも2人とも20年前と同じようにテープで音源を録音したかったの。だからその以前と同じレコーディングの方式が、ヴァセリンズっぽさを出しているのかもしれないわね。

新作は20年前と変わらぬヴァセリンズの音楽スタイルが貫かれていますが、同時に新鮮さも感じます。この20年間であなた達2人もそれぞれミュージシャンとしてのキャリアを積んできていますが、そういった経験は今作を作るに当たり、どのような影響を与えていると思いますか? また80年代当時のバンドと再結成後の今で一番違うと思うことはなんですか?

E:20年間スタジオで数多くの経験を積んだから自分たちのサウンドに自信を持てるようになったことは確かなはずさ。今では、自分たちが気に入らなければ、ちゃんと他の人にノーって言えるからね。僕らは2人とも声に深みが出てうまく歌えるようになったと思うし、ソングライターとしても20年前より成長していると思う。けれど、今回ヴァセリンズの曲を書くことには全く難しさを感じなかったのも事実だね。

F:もちろんソロ・キャリアでの経験っていうのは、このアルバムの作業を進めるにあたって大きな助けになっているわ。2人も自分たちのやっていることにより自信を持っているし、私は確実に歌うことに対して当時より楽しさを感じているわね。そうした違いは経験から得られたものだわ。あと私の歌声は当時よりかなり低くなっているから、そこが大きな違いかもしれないわね。

レコーディングは13日間という短い期間で終了したそうですね。どの楽曲もシンプルで勢いがあり、アルバム全体の雰囲気もエネルギーに溢れていると感じました。レコーディングに当たって心がけたことは何かありますか?

E:短い期間で早くレコーディングを行なって、そのエキサイティングさとエネルギーをアルバムに閉じ込めたかったんだ。スタジオに入る前にしっかりとデモ音源を作って、すべての準備を整えていたからね。短い期間でレコーディングできたし、スタジオではセッションの最後のヴォーカル入れに専念することができたよ。

F:1日に2曲レコーディングしなきゃいけないっていうタイム・リミットがあったのよ。急ぎ過ぎに聞こえるかもしれないけど、そのエネルギーをそのままレコーディングしたかったの。スタジオでのほとんどの時間は、いいヴォーカル・テイクとギター・サウンドを録るために費やしていたわ。

今作はサブ・ポップからのリリースとなりますが、サブ・ポップは90年代にコンピレーション・アルバム『The Way Of The Vaselines』をリリースしていましたし、あなた達もサブ・ポップの20周年記念ライヴに出演するなど、繋がりの深いレーベルだと思います。今回Sサブ・ポップからリリースすることになった経緯は?

F:レコーディングが終わって彼らにアルバムを送って、気に入ってくれるかどうか聞いたのよ。ラッキーなことに彼らが気に入ってくれたってわけ。

アルバム・タイトル『Sex With An X』の意図するところは? 本作の楽曲の多くは男女の関係について歌われているものが多いですが、今作を作るに当たってテーマやコンセプトなどあったのでしょうか?

F:タイトルは軽い冗談みたいなものよ。ユージンと私は再び一緒にバンドをやることになったわけだけど、それはちょっと昔のボーイフレンドの元に戻るみたいな感じがあったのよね(実際2人は80年代のバンド結成時にはカップルだった)。だから、そうしたテーマがアルバムのあちこちで出てきたのは確かだわ。でも、もちろん全部フィクションでの話よ(笑)!

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新作にはゲスト・ミュージシャンとしてベル・アンド・セバスチャンのスティーヴィー・ジャクソン(ギター)とボビー・キルディア(ベース)、1990sのマイケル・マッゴーリン(ドラム)という地元グラスゴーのミュージシャンが参加していますね。彼らとのレコーディングはどうでしたか?

E:参加してくれた3人はずっとライヴで一緒にやってくれていたからそのままレコーディングも一緒にやりたいと思ったんだ。みんなとても才能のあるミュージシャンで素敵な人たちだから、一緒にやれてほんとうにうれしく思うよ。彼らは僕らのサウンドをすごく理解してくれて、プロデューサーのジェイミーと同様にヴァセリンズっぽい音を作るのに協力してくれたね。

「I Hate the 80s」は今作の中でも最もポップでキャッチーな曲で印象に残ります。「80年代はクソだ」と歌ってますが、あなた達にとってヴァセリンズとして活動していた80年代とはどんな時代だったのでしょうか? 本当にクソな時代でしたか?

E:これはノルタルジアと当時を振り返って「80年代はよかった」なんていう人たちについての曲なんだ。80年代っていうのは、他のどの時代とも同じでいい時期も悪い時期もあった10年だよ。僕らは当時はすごく若くて、世界を変えるには自分はなんてちっぽけな存在なんだろうっていうような、その年代で誰もが感じるようなフラストレーションを持っていたよね。

F:そうよ。80年代の私たちは若過ぎて、お金がなくて、お金を持てる見込みもなかった。コントロールも失っていたわ。だから、80年代なんてほんとうにクソよ(笑)。

アルバムの最終曲「Exit The Vaselines」(日本盤にはボーナス・トラックを2曲収録)は意味深なタイトルですが、歌詞を見るとヴァセリンズとして活動していくに対するポジティヴな決意表明なのでは?と思ったのですが、いかがですか?

F:アルバムの最後は楽観的な感じで終わりたかったの。曲には悲しい響きがあるけど、アルバムの中でも気に入ってる曲なのよ。そうした意味深な雰囲気をそのままにしておけるでしょ。

新作の制作開始に当たり、ティーンエイジ・ファンクラブのフランシス・マクドナルドがマネージメントを担当していますね。彼との仕事はいかがですか?

E:フランシスはよくしてくれてるよ。僕たちはアルバムをリリースするのに必要なすべてのことを仕切ってくれる人が必要だったからね。彼がいるおかげで、僕らは正気でいられるんだよ(笑)。

F:彼はほんとに助けになってくれてるわ。物事をきちんと進めたり、こうしたインタヴューに答えることができるのも彼がいるおかげよね。彼がいなかったらあたしたちはとっくに空中分解してるわね。

ヴァセリンズの曲名からバンド名を付けたダム・ダム・ガールズのように多くの若いバンドがヴァセリンズからの影響を口にしています。彼らはあなた方の子供くらいの年齢ですが、そうした若いバンドから憧れられるのはどういった感じですか?

E:ダム・ダム・ガールズは素敵なバンドだね。でも彼女達や他の若いバンドのサウンドに僕らからの影響を聞くことはできないな。自分自身の音楽を他の誰かのサウンドから感じることは不可能だと思うよ。ただ、過去20年間に僕らの音楽を聞いてくれた人たちがバンドを始めて素敵な音楽を作ってくれているのはうれしいことだよね。あと、誰かに憧れられるってのはいつだって気分のいいものさ。

グラスゴー・バンドの多くはユーモアのセンスを持っていると思いますが、中でもヴァセリンズはそうしたユーモアを、歌詞においてもサウンドにおいても最も強く持っていると思います。あなた方はそのユーモアをとてもうまく音楽に取り入れていると思いますし、それはヴァセリンズの大きな魅力な一つとなっていると思います。この点についてはどう思いますか? またグラスゴー生まれであるということは、あなた方の音楽にどういう影響を与えていますか?

E:ユーモアを曲の中に取り入れるっていうのは僕らにとって重要なことだね。でも同時にみんなが僕らのことをコメディー・バンドだなんて思わないように、やり過ぎないようにも注意しているよ。グラスゴーの人たちっていうのはそうしたユーモアをすごく持っているし、またそのユーモアで自分がやっていることにうぬぼれないようにしていると思うね。僕らはずっとグラスゴーに住んでいるし、そうしたユーモアも含めてそれは当然僕らの音楽に強い影響を与えているよ。

F:グラスゴーにいるととてもダークなユーモアのセンスが付くものよ。なぜだかは分からないけど。もしかすると、冬に全く日の光がなくて、夏には多過ぎるっていう気候的なものからくるのかもしれないわね。

もうすぐバンドはイギリスとアメリカで長いツアーに出ますね。再結成後、2度の来日も含め多くのライヴを行なっていますが、古いヴァセリンズの曲を演奏することでなにか新しい発見はありましたか? 新作と共にまたの来日も多くの日本のファンが期待していると思います。

E:確かに新作が出るけど古い曲もたくさん演奏してるよね。単純に楽しいよ。新作に参加してくれてたスティーヴィーとボブの2人はベル・アンド・セバスチャンに戻ってしまって残念ながらもうツアー・メンバーじゃなんだけど、今の新しいツアー・メンバーもいい感じだからツアーに出るのが楽しみだね。

F:当時はすぐ解散しちゃって曲を演奏する機会がほとんど持てなかったから、実際は今始めてライヴで演奏しているようなものなのよ。だからこうして今、当時の曲をちゃんと演奏することができるのはうれしいわ。そうね、またぜひ日本にもライヴに行きたいわね。


2010年9月
取材、翻訳、文/安永和俊
質問作成/川名大介

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