アイ・アム・クルート

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I AM KLOOT

曲の主人公たちは、夜空を見上げながら、多くの場合は
まだ答えを探している段階で、結論まで至っていない


現代きっての吟遊詩人...もしくは孤高のソングライターと評されてきたジョン・ブラムウェル率いるバンド、アイ・アム・クルート。2001年にウィー・ラヴ・ユー・レコーズからファースト・アルバムをリリースした頃は、キングス・オブ・コンビニエンスやコールドプレイらと並ぶ「ニュー・アコースティック」勢のひとつにカテゴライズされていた。彼らはマンチェスター出身。当時その町で話題になっていたアーティストにたとえるなら、バッドリー・ドローン・ボーイに通じる部分も。当時クッキーシーンに掲載されたインタヴューで、ジョンはこんなふうに語っている。

「ソングライティングを始めたきっかけのひとつは、ブレヒトの『Mack The Knife』(注:クルト・ワイルが作曲を手掛けた『三文オペラ』劇中歌)。あの曲は、まるで自分の一部のように思える。泥棒や、くず拾いや、ヤクザものが、一斉に迫ってきて、うなったり、ささやきかけてくる。俺は、伝統の中でいつの間にか埋もれてしまい、あまり顧みられなくなった音楽を現代によみがえらせたい。棍棒や、銃や、レンガをかざして。そういった曲は、松葉杖をついているか、車椅子に乗ってやってくる。以前、俺のことを、病気によるひどい内股のジーン・ヴィンセント(注:波乱の人生を送った50年代のロックンローラー。露悪的だが真摯な"うた"を不自由な身体で歌いつづけた故イアン・デューリー、も彼に捧げる『スウィート・ジーン・ヴィセント』という曲をやっていた)と形容するレヴューを見たけど、すっげえ気に入ったよ(笑)」。

あれから、もう10年近く。その志向性にふさわしい渋みや年輪も身につけたアイ・アム・クルートが、明らかに最高傑作と思える5作目のオリジナル・アルバム『Sky At Night』を完成させた。同じマンチェスター出身の盟友エルボーのメンバーがプロデュースを担当している。日本にはあまり情報が広く行きわたっていないようだが、エルボーは本国では相当の人気バンドだ。そして、これまでイギリスやヨーロッパで着実に評価を高めてきたアイ・アム・クルートの道程を祝福するかのように、『Sky At Night』は全英トップ20に迫るヒット・アルバムとなり、マーキュリー・プライズの「2010 Albums Of The Year」にも選ばれてしまった。いや、そんなことより、あるビッグなアーティストがこんなふうに語っているという事実のほうが、アイ・アム・クルートの魅力を日本のロック・ファンに伝える手段としては、より適確なのかもしれない。

「ジョン・ブラムウェルは、この10年でこの国が生み出した、最も優れたソングライター4人のうちの1人である」(ピート・ドハーティ)

アコースティックかつソウルフルな魅力にもあふれた『Sky At Night』は、なぜ「深遠でありながら同時にポップであり、不思議な軽やかさ...風通しのよさを感じさせる」のか? その「塩梅」の秘密に少しでも迫るべく、ジョンに聞いた。

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こんにちは。お元気ですか?

ジョン・ブラムウェル(以下J):元気だよ。このアルバム(『Sky At Night』)の話で、あちこちジョークを言ってまわってて、忙しいけどね(笑)。きみは?

ありがとうございます。元気なんですけど、日本はむちゃくちゃ暑いです...(注:この電話インタヴューは、日本で言うところのお盆前におこなわれた)。先週はフジロック・フェスだったんですけど、たしかあなたたちは数年前(注:2001年に)それに出たことがありますよね。

J:うん、そうだね。素晴らしい旅だったよ。でも、1日半しか日本にいられなかったんだ。イギリスからすごい時間をかけてわざわざ行って、ギグを1本だけして、すぐ帰る、みたいな。すごく変な感じがしたよ。すごく遠くて全く違った文化のところに行って、あっという間にホームに帰るって、すごく奇妙な経験だった。

質問作成者は、そこであなたたちのライヴを見て、すごくいい時間をすごした記憶があるそうです。あれから日本には来たことあるんでしたっけ?

J:いや、あれがたった1回の訪問。ヨーロッパはずっと周ってるんだけど、なかなか日本にまで行く機会がなかった。でも来年は行けるといいな...。

そのときはファースト・アルバムが出た頃だったと思うんですが、その前のシングルやアルバムで、公園のベンチに座ったり寝転んだりしている老人や浮浪者の絵をシリーズ的に使っていたことが素晴らしいと感じていました。なんというか、そういう「誰にも共通する人間の悲しさ」が、どうしようもない人間愛とともに、実に巧みに描かれているというか...。そんな部分が、新作『Sky At Night』では、また最高に発揮されていると思います。こんな意見について、どう思いますか?

J:そうだね、そういうふうに表現してもらって、すごくうれしいよ。このアルバムの曲は、ロマンスと静寂と信念について歌っているものが多い。別にアルバム全体がそういうテーマに基づいているってほどではないんだけどね。多分、俺はこのアルバムで、ここ8、9年ずっと走りまわっている生活から、立ちどまってみたんだろうと思う。ずっと止まらずに走り回っていたからね。去年このレコードを作ったわけだけど、レコードを作ることになってやっとマンチェスターに帰って、そこでやっと自分自身を振り返り、そうした自分をアルバムの中に反映させることができるようになったんだと思う。自分の生活を反映させているっていうか。曲の主人公たちは、夜空を見上げながら、多くの場合はまだ答えを探している段階で、結論まで至っていない。夜空を見上げながら、いろいろと頭に浮かぶ考えを歌っているようなものが多いんじゃないかな。

えー...、ご自分の反映、という発言の後では聞きにくい質問なのですが、『Sky At Night』の歌詞には「酔っぱらいのダメ男だけど、基本はすごくピュア」なイメージがあると感じました。それはあなた自身の反映...なんですかね?

J:(爆笑)! 避けられないね(笑)。曲を書いていたら、その中に自分自身が反映されていくのは避けられないよ。もちろん、想像力の部分もあるよ。自分自身のちょっとした要素はあるけど、実際今でもそういう暮らしを送っているかといったらそうでもない。前はずっとそうだったけどね(笑)。だからそういう曲を書くことができたんだ。経験から。実際の曲は、夜出かけた経験を発展させて、想像力の世界で起こることが多いと思う。何か人生に欠けたところがある...といったような感覚...。まぁ、朝の3時にバーにいる人間は、何か欠けてるからそんなところにいるわけだけど(笑)。でもそういう経験が、ソングライティングに生かされているっていうのも事実さ。それに、俺たちの文化では、飲んだくれることにもロマンがあるんだよ(笑)。とにかく、ここ2、3年で俺の生活も相当変わったけどね。『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』って映画からも、結構インスピレーションを受けたんだ。ワインを飲みながら映画を見てたんだけど、それがどこか心理的に影響した部分もあると思う。エディット・ピアフみたいなストーリーを書いたような。あれは、素晴らしい映画だよ。

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アイ・アム・クルートの歌世界を、他に、たとえばトム・ウェイツのそれと比較することは可能だと思いますか? もちろんヴォーカルの感じは全然違いますけど...。

J:たくさんいいソングライターは世の中にいるし、トム・ウェイツはそのひとりだと思うよ。それにそういういいライターとは常に比較されてるしね(笑)。

あなた自身は彼のファンだったりします?

J:好きな作品もあるよ。『Swordfishtrombones』なんかは、すごく好きなアルバム。でも、特に大ファンってわけではないかな...。ライヴは最高だし、彼も面白い人だと思うけどね。あと、アイ・アム・クルートに関して、レナード・コーエンやニック・ケイヴなんかも、よく引き合いに出されるんだけど...、俺自身はアズテック・カメラやエルヴィス・コステロなんかが好きだね。俺はずっと子供のころから歌ってきたし、ミュージカルみたいな音楽や、シナトラみたいな音楽も好きなんだ。本当にいろんな音楽に触れながら育ってきたんだ。

なるほど。ピート・ドハーティが、あなたを高く評価しているようですね。この事実に関して、あなたはどう思いますか?

J:すごくうれしいことだよ。彼がまだリバティーンズを始める前のバンドと一緒に、ロンドンで一緒にギグをしたこともあったんだ。アイ・アム・クルートは、結成したばかりだったな...。そのころから、彼はずっとファンでいてくれたんだよ。彼とはもう何年も会ってないけど、メディアで見る彼のペルソナは、俺が知ってる彼の姿とはずいぶん違う。彼はすごく頭がいい男だった。英語や詩への造詣が深くてね。すごく知性的な男だと俺は感じていた。

ですよね...。『Sky At Night』に話を戻せば、アナログ盤でいえばA面にあたるであろう(笑)5曲目までの流れで、もう完全にノックアウトされてしまいました。歌詞をじっくり吟味しながら聴いていたら4曲目「Lately」~5曲目「I Still Do」あたりで本当に泣いてしまったという...。たとえば4曲目の、どこか重いとも言える(しかし、決して重苦しくはない形で歌われている)感覚について説明していただくことは可能ですか?

J:アルバムの多くの曲は、月や星みたいな、夜に関することについて書かれている。そしてこの曲は、不眠症について歌った歌。眠れなくて、頭に次々と浮かんでくるいろんな考えについて歌ってる。ギター・ソロがすごくいいね。歌詞といい感じでリンクしてて。全然眠れなくて、一体自分が何を考えてるのか分からなくなってくるようなイメージ...。悪い夢を見てしまい、目が覚めて何も悪いことがなくても、そのイメージに追いかけられているような...(笑)。

ところでキンクスはお好きですか?

J:大好きだよ! 素晴らしいバンド。レイ・ディヴィスはちょっと変わった人だけど、偉大なソングライターだと思う。彼もまた、自分の姿を反映した曲を書く人だよね。歌詞も最高だし。

『Sky At Night』というアルバム・タイトルと、それに直接つながるような1曲目「Northern Skies」の歌詞もいいですよね。ご存知かどうかわかりませんが、ザ・キンクスに「The Big Sky」という曲があって、「でっかい空があれば、もう他はどうでもいい気持ちになる」みたいなことが歌われています。でも、それはあくまで青空っぽいけど、こちらは夜の空...。こんなたとえについて、どう思いますか?

J:たしかに、さっきもちょっと言ったけど、このアルバムはもう8、9年走り続けてきた人間が、足を止めて夜空を見上げてみたって感覚のアルバムなんだよね...。それは多分、誰もが毎日やろうと思えばできる当たり前のことなんだ。だけど、その中には銀河があって、実際今この瞬間には存在していない星からの光がある。毎日見る当たり前のなかに、実はそういうことが含まれているんだ。そういうものをちょっと考えて理解するようなヒントになればいいね。星、空、花...、自然の中に、すごい「美」が含まれている。...とか言ってるけど、俺は別に、ヒッピーじゃないからね(笑)。

(笑)今回のアルバムは、エルボーの中心人物ガイ・ガーヴェイと、そのキーボード奏者であるクレイグ・ポッターがプロデュースを手がけてるんですよね。あなたたちと彼らは、もともと友達同士なんですよね?

J:うん、もう15年は知ってるね。彼らがマンチェスターのロード・ハウスってクラブで働いていたころに知り合ったんだ。俺たちはナイト・アンド・デイってクラブで働いてたんだけど。すごく長い間知ってるし、俺たちの音楽をよく理解してくれている。そしてそれを出来る限りいい形で引き伸ばしてくれたよ。すごく理想的な形で、レコーディングできたと思う。まぁ、曲は全部書きあげてはいたからね。でも彼らはすごく励ましてくれたし、何度テイクを取り直しても、嫌な顔せずに付き合ってくれたよ。ストリング・アレンジも手伝ってくれたしね。すごく愛情に満ちたレコードになったと思うけど、だからこそ...自分では2ヶ月ぐらい聴いてない...聴けなかったんだ。そろそろ一回聴きなおした方がいいかな(笑)。

(笑)今日はありがとうございました。是非また日本に来てください!

J:うん、すごく楽しい取材だったよ。日本に行ったときにはまたフェイス・トゥ・フェイスでインタヴューを...というか、きみやみんなに会いたいね。

是非ファンと交流してください(笑)。

J:そうだね。一杯やりに行きたいな(笑)!


質問作成、文/伊藤英嗣
取材、翻訳/中谷ななみ



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アイ・アム・クルート
『スカイ・アット・ナイト』
(I Am Kloot / Hostess)
9月8日発売

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