トキモンスタ『ミッドナイト・メニュー』(Listen Up / Art Union)

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tokimonsta.jpg 音が古い。いや、悪い意味じゃなくて古い音をどのように新しく聴かせるか、ということに意識的だと思えるエレクトロニカを鳴らすトキモンスタことジェニファー・リー。フライング・ロータス率いるデイデラスやガスランプ・キラーが所属するレーベル、Brainfeederの紅一点。LAを拠点に活動するコリアン・アメリカンの彼女の『Midnight Menu』、これはもうやっちゃった者勝ちみたいなところがある。音の質感自体は古いエレクトロニック・サウンドに琴や韓国伝統音楽を大胆に取り入れ、「マイナス×マイナス=プラス」、みたいな、「古いサウンド×古いサウンド=新しい音」という具合に音楽を構築し、ひょいと自然に差し出された音に、嗚呼、これは気持ちがいいや、となって新しいとも感じてしまう。もちろん古けりゃ悪い、新しけりゃ良いってもんでもないのだが、エレクトロニカにアジアの古き音楽性を取り入れることは誰かがやりそうでやらなかったことではある。キワモノ的と言ってしまえばそれまでだけれど、いやいや、ファースト・アルバムならキワモノ的でもいいじゃないか。逆に流行に忠実な作品がファーストならばむずむずするよ。
 
 童顔、眼鏡女子という、もうそれだけで萌え要素たっぷりな彼女。眼鏡を外しても美人。どうせなら顔写真をジャケットにした方が売れるんじゃないか、などと、余計なお世話を言いたくなってしまったけれども、「リスナーの為に音楽作ってるわけじゃない」という旨の発言は、ツンとして媚びない彼女の姿勢を端的に表している。そう、傲慢でいい。匿名性の高いエレクトロニカにルックスは関係ない。いや、ちょっとあるけど...。エレクトロニカは売れない音楽であるわけだし。4千枚売れれば大ヒットらしいし。でもツンとしていながら綿菓子のような甘さが口の中で溶けていく。そんなふうに感じられる本作はやっぱり女の子だなあと思わせる。理詰めではなく、あくまで感覚で作っていると思える本作は過剰にアート志向でもなく、複雑でもなく、とにかく大音量で聴けば最高だろうな。フジのフィールド・オブ・へヴン辺りで鳴っていたら、さぞ気持ちいいであろうという音に溢れる。しかもポップなこの音楽はけっこう売れる作品なんじゃないかなと、これまた余計なことを言いたくなった。音がとっても緩やかで、奇をてらっていないのです。だからいい。ボーズ・オブ・カナダから哀感を抜き取ってスウィートにしたようなエレクトロニック・サウンドは何かに誘惑されているみたい。その何かはちょっとだけセクシャルな甘くて酸っぱい恋の味というやつで、いや、まあ、その、かなり、萌える。それはさておき。
 
 ツンとした彼女であるが、しかし、音楽そのものは実にリスナー・フレンドリー。ビートの弾力は柔らかく、ヒップホップ的であったりランダムだったりと、工夫があり、メロディとビートをはっきり別けた音楽性はその両方が同時に耳に入ってきて少しだけ混乱しながらも、こりゃあトリップ感が心地いいや、という、混乱が心地の良さに繋がるパラドックスが良いじゃないか。さらには先に記したようにアジア伝統音楽の要素が強調された音が鳴る。「韓国伝統音楽の深みを知った」と言う彼女が鳴らすその音は奥が深くエキゾチックで神秘的。やはりその伝統音楽の奏でと、音楽性が相反するエレクトロニカと同時に雄弁に鳴らされているところが本作の良さで面白く、コリアン・アメリカンの彼女にとって自分の中に流れている血には逆らえないところもあったのだろうさ。そりゃもう否応なしに。
 
 そもそも本作以前に創作されたアルバム以外の作品が、ジャジー・ヒップホップと捉えられていたことに嫌悪感を露にしていた彼女が別の新たなサウンドを創作しようとしたのは必然で、多くのリミックスやプロデュースで知名度とともに実力を上げ、現在はLAに限らずアジアやヨーロッパまでツアーを周り、ハドソン・モホークと共演する予定もあるとかないとか。唯一無二とまではいかなくとも、ビート・ミュージックとしても面白い。そんなこんなでこの作品、とても気持ちがいいんです。ゆらゆらと揺らされるんです。良作です。

(田中喬史)

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