JENNY AND JOHNNY『I'm Having Fun Now』(Warner Bros)

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jenny_and_Johnny.jpg リラックスして横たわる二人。淡く気怠げなトーンに加工されたジャケット写真。裏ジャケットでは二人は腰に手を寄せ見つめ合っている。キス5秒前のポーズ。二人の名義はジェニー・アンド・ジョニー。タイトルは『I'm Having Fun Now』。なるほど、ずいぶんお楽しみのようじゃないか。勝手にしてくれよ...。いやいや、仲良きことは睦まじきことかな。

 子役としてのキャリアがあったことも頷ける美貌の持ち主にして、世界的な成功も収めたバンド(日本では未だ地味な扱いだが...)、ライロ・カイリーの花形ヴォーカリストで最近はソロ活動も活発なジェニー・ルイスと、才能溢れるシンガー・ソングライターであり、ハンサムな顔立ちながらここ数年は少しポッチャリしてきたお腹もチャーミングなジョナサン・ライス。既によく知られているように、2005年にブライト・アイズのコナー・オバーストの紹介で知り合ったという二人は、お互いのソロ作品における共同作業や、ジェニーのツアー・バンドとしてのジョナサンのバックアップ(06年のフジロックや去年のサマーソニックでの来日にも彼はもちろん同伴している)などの過程で愛を育み、今ではUSインディー・ロック界を代表するベスト・カップルっぷりだが(※憎たらしい参考動画)、まさかここまでおしどり夫婦っぷりをアピールする作品がリリースされるとは(つうか、もう結婚しなさいよ)!

 僕は日常生活でライロ・カイリーのバンドTシャツを愛用しているような人間なのでここからはジェニー贔屓の目線で書かせていただくが、本作はほぼ全編において実に軽快なロック、それこそパワーポップと分類してもよさそうなほどの小気味いい演奏が鳴らされている。ルーツ・ロック回帰していたジェニーの過去二作に比べてサウンドはグっとモダンでエッジの効いた触感となり、昨年のジェニーのツアー(日本でのサマソニやその後の単独公演も、パワフルで本当に本当に素晴らしかった...)でも既に披露されていた「Just Like Zeus」などの楽曲も含め、アルバムを通して二人はデュエットし、パートを交換し合い、絶えず息の合ったハーモニーを重ねている(実際、この名義でのツアーにおいても、現在は本作から全曲と、ジェニーのソロ前作『Acid Tongue』収録の「Next Messiah」と、ジョナサンの07年作『Further North』収録の「What Am I Going to Do?」からなるセットリストが組まれているようだ。その二つの曲にはもともと二人が掛け合うパートが用意されており、要するに...ラブラブってことですね)。

 カリフォルニアチックな太陽の匂いとストイックなまでのシンプルさに支えられたこのポップネスは、前者はウェイヴス、ベスト・コーストといったオプスティミスティックな新興パンク勢、後者は初期REMを初めとする80年代USカレッジ・ロックにおけるバンド・サウンドや、彼女たち自身も交流のあるエルヴィス・コステロとそれぞれ近似性も指摘できるのかもしれないが、それよりは二人が互いのフィーリングを一致させ、長所を両立させながらノビノビと発揮できる理想的なスタイルが結果的にコレだった、というだけのことのような気もする。作曲に関しても二人の立場は平等で、むしろどちらかといえば本作からはジョナサンのソロ作のほうを強く彷彿とさせられる。最近のジェニーの嗜好やソングライティングにシンプル・ロックンロールな彼のスタイルが大きく影響を与えているのは『Acid Tongue』の時点で明らかだったし、このパワー・バランスも必然かもしれない。

 限定版ではCD・LP・EPの他にもカセットテープでのリリースまでされたようだが、たしかにカセットをデッキに突っ込んでドライブに出かけたくなるほどアッパーにさせられる(We're Having Fun Now! な)音楽だし、優秀なミュージシャン二人がタッグを組んだだけあってメロディ・センスも文句なし。今のところのライロ・カイリーの最終作『Under the Blacklight』における、バッキンガム/ニックス期のフリートウッド・マックにも譬えられたメジャー感溢れる端正なポップスからはずいぶん遠いところにきてしまったようにも映るが、しかし歌詞のほうは相変わらず鋭い切れ味もときおり垣間見せる。イーグルス「Hotel California」が告発したアメリカ/カリフォルニア幻想の崩壊から30数年が経過した「いま」の世界について歌っている「Big Wave」での、"living your life in the gray is the new American way"というフレーズから続けて描かれる、経済の不安定から個人的なインソムニアに至るまでの「アメリカの病理」を"大波がやってくる!"となぞらえてしまう辺りは、詩人としてのジェニーの健在ぶりを象徴するようである(楽曲自体はサーフ・ロックのマナーに忠実な軽やかさと爽やかなコーラスが印象的で、この味わいこそアメリカン・ロック!)。他の曲のリリックでも、随所に機知に富んだ箇所が見受けられるあたりはさすが。

 イチャイチャぶりをアピールするだけの作品とイタズラに揶揄するのがナンセンスな聴きどころの多い作品であり(でも収録時間は36分! 最高!)、「Switchblade」や「While Men Are Dreaming」などスローな楽曲の(ジャケの淡さに通じる)美しさも息を呑むばかり。もう一押しほしかったところもあるにはあるが、けっきょく最後はジェニーのスウィートで色っぽい歌声に毎度のごとく心をキュっと鷲掴みさせられてしまう(ジョナサンだって素敵よ)。それにしても、本作にはライロのメンバー、ピエール・デ・リーダーも参加しているし、メインでドラムを叩いているのは同じくライロのジェイソン・ボーセル(超余談だが、彼がキルスティン・ダンストと交際しているという噂は本当なんだろうか)。ファン心理としてはそろそろバンド名義の新作も恋しくなってきたが、各々がソロ活動にご執心なところを見ると「次」はもう期待しないほうがいい...のかな? The Electedも素晴らしかったギター弾きの色男、ブレイク・シュネットの動向についてもパッタリ話を聞かなくなったし...。

(小熊俊哉)

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