ブランドン・フラワーズ『フラミンゴ』(Island / Universal)

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brandon_flowers.jpg かつてデイヴィッド(キラーズのギタリスト)はとっておきのアイデアが詰まったテープを用意して、地元の情報誌に「バンド・メンバー求む!」の告知を出した。そのアイデアのなかには一瞬にして全世界を80年代ポップ・リヴァイヴァルの渦に巻き込んだ「Mr. Brightside」のデモも含まれていた。そして遂にリリースされたファースト・アルバム「Hot Fuss」は空前の大ヒットとなり、誰もが煌びやかでスケールの大きいシンセ・サウンドの虜になった。だがヴォーカルのブランドンは故郷であるラスヴェガスへの想いを断ち切ることができず、セカンドの「Sam's Town」では一転してアメリカン・ロックへの接近を試みた。歌唱法をブルース・スプリングティーンに似せて、リリックはより抽象的になった。彼らの代名詞でもあったシンセサイザーは少しばかり後退し、代わりにスタジアム・ロックの風格を獲得した。しかし、最も理解して欲しかったはずのアメリカでは不評だった。これにはブランドンも落ち込んだ。やはり自分たちのサウンドを変えるべきではなかったのか、と。しかし、その後彼らはスチュアート・プライスというプロデューサーと奇跡の出会いを果たし、セカンド・アルバムのアンセミックな感触はそのままに、ダンスの要素を再び全面に押し出して「Human」という一生ものの名曲を書き上げた。その「Human」を収録したサード・アルバム「Day&Age」は彼らの復活作として各国で大絶賛され、キラーズは名実ともに世界一を誇れるバンドになった。

 ふむ、これだけ見ればハッピーエンドの、素晴らしいバンド・ストーリーということになるだろう。だが、ちょっと待ってくれ。アメリカの雄大な大地の香りがプンプンしてくる「Sam's Town」はそんな簡単に失敗作で片付けられるべき作品では断じてない。現在のライヴでも盛り上がりまくるスタンダード・ナンバーを多数生み出しており、サウンドの広がりという点でも特筆すべきアルバムだ。これがなければサードの「Day&Age」は絶対ない。「Day&Age」はファースト回帰などではなく、「Sam's Town」の空気もたっぷり吸っている。なぜこれだけセカンドの重要性を説いているかというと、ブランドン・フラワーズのソロ作がこの「Sam's Town」で扱ったテーマと深く関係しているからである。アルバム・タイトルの「Flamingo」とはラスヴェガスの中心部を走るフラミンゴ・ロードにちなんでつけられており、大仰なシンセサイザーとどっしりとしたテンポが予感的な冒頭曲のタイトルもまた「素晴らしきラスヴェガスへようこそ」なのである。ブランドンはキラーズのアルバム用に書き溜めた楽曲を使って、もう一度ソロでラスヴェガスという街を「擁護」しようと心に決めた。そこがいくら悪名高い地であろうと、彼にとってはかけがえのないホーム・タウンであり、「Sam's Town」に失敗作のレッテルが貼られていることは我慢ならなかった。そう、だからキラーズは今でもライヴの最後にセカンドの「When You Were Young」をプレイする。

 長くなってしまったな。では、その肝心のブランドンのソロ作の内容はどうなのか。サウンド的にはキラーズと何ら変わりない。感触レベルではやはりソロ作の趣も感じ取れるが、あり得ないくらいどの曲もアンセミックで、私のようなキラーズ・ファンであれば間違いなく心の中で拍手喝采だろう。私なんかテンション上がり過ぎて一晩中踊り狂ったぞ。うわーまじで日本来てくれよー! って切実に願ったぞ。野心ムンムンで結構。童顔に髭で結構。実はシャイで結構。ハード・ロックに勘違いされるのも結構。日本で売れないのは駄目だけど。さて、ここまで読んでくれたあなた、是非このアルバムを手にとってくれ。両極端にあるはずのジャンル、アメリカン・ルーツとUK的キラキラが当然のように共存する最高のアルバムだ。何だかよく分からないし、説明できないからこそ、ブランドン・フラワーズというアーティストは、あるいはキラーズというバンドはあなたにとって生涯最高の音楽体験になる可能性を十分に秘めている。私は本気で言ってるんだ。聴いてくれ、この機会に。

 ブランドンはいまもラスヴェガスの地平線のはるか向こうを見つめている。そのハートは熱く熱く燃えている。

(長畑宏明)

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