モグワイ『スペシャル・ムーヴス/バーニング』DVD+CD(Rock Action / Hostess)

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mogwai.jpg もう既に役割を終えたバンドだと思っていた。しかし、やはり素晴らしい。役割うんぬんで語るバンドではない。CDとDVDの二枚組みの本作は現時点の最高傑作だ。95年にグラスゴーで結成され、サッカー選手ジダンのドキュメンタリー映画のサントラを手がけ、映画『マイアミ・バイス』に楽曲を提供したことでも知られるモグワイ。今年のメタモルフォーゼにも出演した。
 
 思えばスリントを敬愛するこのバンドは常にリスナーの期待と戦い続けてきた。神秘的なメロディから轟音へ。それは時としてマンネリと評されつつも、母語として彼らは守り続けた。エレクトロニクス・サウンドを取り入れようが、歌や朗読を取り入れようが、轟音だけは絶対に譲れない意地がモグワイにはあった。リスナーになんと言われようとだ。心臓を目の前に差し出す覚悟はあるのか? モグワイにはある。膨張した心臓が脈打つような轟音を、彼らは覚悟として鳴らす。いつ破滅するのか分からない。そんなぎりぎりの覚悟が宿った轟音は血が滴り落ちるほど生々しい生命力に満ちている。音の中でいくつもの音が動き、ざわめき、奇声をあげ、いまにも破裂しそうなまでに「生きて」いる。その音の前ではリスナーのマンネリという言葉はかき消される。心臓を差し出す覚悟はあるのか? 僕らにはない。
 
 90年代後半から00年代前半までのモグワイの勢いは凄まじかった。多くのフォロワーを生み、来日するたびにライヴは伝説とまで評された。特に初来日公演と03年の渋谷AXでのライヴの記憶は今でも頭にこびりついている。巨大な化け物と向かい合わされたような迫力。音に飲み込まれる感覚。音圧が皮膚に当たり、すれ傷になりそうなほど圧倒的な音のかたまりが全身にのめり込む。時間が止まり、やがて訪れる放心状態。音に打ちのめされるという言葉が似合うライヴをやるのはモグワイだけだ。作品も発表されるたびに話題となり、マーキュリー・レヴのデイヴ・フリッドマンをプロデューサーに迎えた2nd『Come On Die Young』はストーリー性に富んでいて、モグワイのメロディ・メイカーとしての素質も浮き上がらせ、なおかつ轟音の破壊力も美として昇華させた傑作だった。続くテクノ的アプローチを見せた『Rock Action』も、一音が持つ美を徹底的に突き詰めた『Happy Songs For Happy People』も素晴らしく、その後二作のアルバムも同様、モグワイだからこそ鳴らせる生命力が宿っていた。

 彼らは決して音楽シーンに便乗することも、音楽性を曲げることもしなかった。それは何かへのアンチではなく、自分達のスタンスを信じているが故の強さであり、モグワイはいつだって裸なのだ。裸の自分をためらいなくリスナーにぶつける。まるで死を恐れず暗闇に飛び込むように。死をも覚悟している轟音から生命力が溢れ出す。そして音の中から再び聞える。心臓を差し出す覚悟はあるのか?
 
 本作は09年の4月27日から29日にわたって行なわれたブルックリンでのライヴを記録したものだ。モグワイは何も変わっていない。いや、いままでの音楽性をさらに深く追求し、これ以上のものはない、というところまできている。彼らと似た音楽性を押し出すバンドは多いが、たとえ同じことをやっていようが、モグワイには遠く及ばない。まさに彼らの意地が、覚悟が、そして裸の姿が詰まっている。新旧の楽曲がまんべんなく並ぶ本作だが、ひとつのストーリーとして聴こえるから不思議だ。それは映画のサントラを手がけたこともあるのだろう。「Mogwai Fear Satan」の次が「Cody」だなんて、素晴らしいじゃないか。それだけで泣けてくるのに、哀感をも大切にするメロディが聴き手を惹き込み、そして轟音が泣き叫ぶように鳴っている。ライヴ盤にもかかわらずエレクトロニクス音を導入した楽曲も生々しさを失わぬまま効くべきところで効いている。興奮と哀感が交互に訪れ、笑顔と涙でぐしゃぐしゃにされてしまいそうだ。そしてより迫力が増した轟音が体の奥まで入り込む。モグワイを聴く事とは音との一体化なのだ。その中毒性は凄まじい。メロディ・メイカーとしての資質も本作で十二分に発揮されていて、それは轟音の中にまで入り込み、多種多様の音が轟音の中で動いている。メロディすら、じっくり聴かせる作品になっているのは「モグワイ=轟音」というステレオタイプなイメージの払拭を狙ってのことだと僕は思う。ついついアーティストに固定したイメージを持ってしまうことがあるが、本作を聴くだけでもモグワイは轟音のみのバンドではないと分かる。メロディがしっかりしているからこそ、過去のバンドとしてモグワイは終わらないのだ。
 
 そしてヴィンセント・ムーンとナサナエル・ル・スクアーネックが監督を務めたDVDが素晴らしい。ライヴ映像中心だが、映像作品と呼べるもので、モノクロで映し出されるその映像はライトなホラー感があり、メンバーのギターを弾く指使いや、眼球の動きや汗まで見えそうなアップを多用することで臨場感を重視し、モグワイの世界観ではなく、メンバーそのものに焦点を当てている。それゆえ、生々しく、アングルの編集も絶妙で、最前列でライヴを観ているような疑似体験が味わえる。モグワイのライヴといえば照明も見物のひとつではあるが、あえてモノクロにし、遠くからの映像をほとんど削いだことで彼らの野性的な魅力が毒々しいまでに映し出されている。観ている間は心拍数が上がりっぱなしだった。すなわち、興奮する。もしモグワイを聴いた事がないリスナーがいたら、まず本作を手に取ることを薦める。そしてDVDを観てほしい。仮にDVDだけだったとしても買う価値は十分ある。呼吸困難になりそうなほど、このDVDは化け物じみている。CDを含め本作は、モグワイが表現者として常に前進していることを示している。脈をうつ音楽は確かにあるのだ。

(田中喬史)

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