『コールドケース』海外ドラマ(CBS / テレビ東京・他)

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coldcase.jpg 日本で海外ドラマが盛り上がりを見せるようになって久しい。少し前まではビデオ/DVD化されるまで待つか、いつ実現するともわからないテレビ放送を待つかしかなかったが、最近は民放やケーブルテレビ等で最新の番組も本国とさほど時差なく見られるようになった。TVジャンキーであるロブ・ゾンビは「チャンネルの少ない国ではツアーをしない」と公言し、日本にもあまり来てくれないのだが(昨年15年ぶりにやっと来日してくれましたが)、「今は日本もチャンネル数が増えたんだよ!」と教えてあげたいくらいだ。

 次々と放送される豊作状態のドラマの中でも特に多いのがクライム・サスペンスだ。古くは『刑事コロンボ』から最近では『24 -TWENTY FOUR-』など、日本でも『古畑任三郎』や『相棒』といった数多くの作品が作られ長年に渡って愛されてきたジャンルだが、最近の作品で絶大な人気を誇る『CSI』シリーズのプロデューサーであり、数々のヒットドラマや映画を送り出しているジェリー・ブラッカイマーが手掛けているのがこの『コールドケース』。フィラデルフィア市警の殺人課チームによる犯罪捜査を描いたもので、本国アメリカでもかなりの高視聴率を叩き出してきた人気作品。なので海外ドラマファンであれば既にご存知の方も多いことと思う。

 「コールドケース」とは未解決事件のこと。筋書きとしては、過去の未解決事件(ここで扱うのは殺人事件)についての新たな証拠が見つかるとか、遺族が再捜査を依頼してくるといったきっかけから改めて事件を詳しく調べていくという展開で、毎回ほぼ同じ流れでどことなく淡々と物語は進んでいく。アメリカは殺人事件の時効がないため、どんなに古い事件でも依頼があったり解決の糸口が見つかったとなれば再捜査することが出来る。事件関係者や被害者遺族に再び会いに行き、過去の証拠や証言を検証しなおすという地道な捜査を描く中で、事件当時の回想シーンが必ず挿入されるのだが、それがとても秀逸なのだ。丁寧に時代考証を行い、映像の色合いや風合いによって空気感を再現し、どんな時代だったか、社会的背景に何があったか等が、当時の様子を知らなくても十分伝わってくるように作られている。1900年代前半から現代までの様々な時代が登場するが、それぞれの時代を表現するのに特に重要な役割を果たしているのが、音楽だ。

 事件のあった年代のファッションや流行、文化を映像で再現するとともに、当時のヒット曲やその頃にリリースされた楽曲を惜しげもなく使用しているため、見ている者は一瞬でその時代に連れていかれる。最後の時を過ごしたバーで、流行っていたディスコで、ドライブした車の中で、傍らのラジオから、古いレコードから、音楽たちは物言わぬ目撃者とでもいうように、事件と寄り添うように流れてくる。ごく一部を挙げるだけでも、ビリー・ホリディ、ルイ・アームストロング、ジョニー・キャッシュ、マイケル・ジャクソン、ブルース・スプリングスティーン、スティーリー・ダン、デュラン・デュラン、オアシス、ピクシーズ、スマッシング・パンプキンズ、リアーナ等々...、半世紀以上前からごく近年までの幅広く多岐に渡るジャンルから選曲された楽曲郡は、リストを見ているだけでもワクワクしてしまうほど。中にはキュアーやニュー・オーダー、スノウ・パトロールやカーシヴ、ダッシュボード・コンフェッショナル等の名前も。1話まるごとボブ・ディランやU2、ニルヴァーナといった回もある。
 
 思わぬ名曲に出会ったり、知っている曲であれば改めて良さに気付いたり、その曲を知った時のことを思い出して、いつどこで買ったか、誰と聴いたか、その当時自分は何歳で何をしていたか...とついつい自分と重ねてしまったり、というのは音楽ファンであれば理解できる感覚ではないだろうか。「○○年代」とだけ言われるよりも、音楽が流れることでいつ頃が舞台になっているかを想像しやすくなり、自分と重ね、時代の感覚を掴むことで自然と物語に入っていける。と同時に、映像作品において音楽がもたらす効果の大きさ、音楽の持つ時代を超える力、記憶を呼び起こす力の強さも実感することが出来る。

 この回想シーンと豪華な楽曲郡が当然ドラマの人気要素であるわけだけど、しかしこれは殺人事件を扱った作品である。素晴らしい回想シーンとともに、命を奪われた人達の埋もれていた真実が明かされていく物語なのだ。その真実とは、時に残酷すぎて目を覆いたくなるようなもので、時に被害者の尊厳を守り抜くような尊いものであるが、どんな真実が明かされたとしても奪われた命は決して戻らないということを嫌というほど見せつけられる。
 
 リアルタイムに事件を追うものと違って、スピード感があるわけでも過激さや派手さがあるわけでもない。既に起きてしまった事件を扱っているため、命が救われるケースもほぼ無い。後に残るのは、犯人逮捕の爽快感や安堵感ではなく、浮き彫りになった真実の重みと癒えることのない哀しみばかりだ。事件当時には語られることのなかった、哀しく残酷な真実。犯人のエゴや保身のため、あるいは誰かを守るためや気高いプライドによって隠されてきた真実。それを露わにすることで被害者が救われるのかはわからないし、誰も幸せにはならないかもしれない。けれど、真実が消えてなくなることは決してない。どんなに隠してもそこにあり続けるのだ。被害者遺族が「真実を知りたい」と訴えるシーンをニュース等で目にすることがあるが、このドラマを見ていると、ほんの少しかもしれないが、その切なる思いがわかるような気がする。

 物語のトーンは重くダークで、とにかく切なくやるせないエピソードが多い。これまで何度泣かされたことか(同じエピソードを字幕/吹き替えでそれぞれ見て、どちらでも泣いてしまったことすらある)。フィクションとわかっていながらもこんなに感情移入してしまうのは、もちろんその時々の時事問題を盛り込んだストーリーやリアリティを感じさせる音楽の存在も大きいが、同じような事件がどこかで起こっていても不思議ではないと思わせる、多くの問題を抱えた現代社会のせいでもあるだろう(中には実際の事件をモチーフにしたエピソードもある)。ニュースを見れば毎日のように殺人事件が報じられ、幼児虐待、DV、いじめ、増加する自殺者、リストラ問題、人種間の争いや差別、終わらない戦争、権力によって捻じ曲げられる現実、そんな暗い話題ばかり。これらの出来事が一体ドラマとどれほど違うのか。加えて日本には時効制度によって未解決のまま忘れ去られていった事件も多い。しかし例え忘れ去られてもそこには一人一人の人生があり、このドラマの登場人物と同じく、どんなに時が経ってもたったひとつの真実が明かされることを望みながら、今も哀しみを抱えて生きる人達が大勢いる。
 
 時効制度の問題だけでなく、死刑についての賛否、冤罪問題や少年犯罪の厳罰化、裁判員制度などの法制度をめぐる課題も多く、これからも議論は続くだろう。法とは時代に沿って変化していかなければならないし、何が正しいかという明確な答えが出ないとしても、何が悪で罪なのかを見極め、どんな命も奪われてはならないという根本的な「正義」が、ブレることなく貫かれる社会でなければならないはずだ。
 このドラマの大きな救いは、哀しみや後悔、絶望を描く中にもその「正義」が根底を流れているということ。「正義」なんて言うと大袈裟に聞こえるかもしれないが、決して押し付けがましくなく、説教臭くもない。メインキャスト達の中にそれぞれの思う「正義」が息づいていることが、わずかに垣間見えるだけだ。社会を変えたいとか、悪を裁き根絶させたいといった大きな理想を掲げなくとも、同じ目線を持つことは私たちにも出来るだろう。「命は尊い」と再認識するだけでも十分意味がある。
 
 いつの間にか引き込まれ、そんなことを考えさせられるうち、このドラマが段々とただのフィクションには思えなくなってくる。「ドラマだから」と割り切れないのは、本当は悲しいことかもしれないけれど。

 この作品はあまりに多くの楽曲を贅沢に使用しているため、著作権等の問題でDVD化が不可能だといわれている。興味のある方は日本で放送しているうちにぜひ見て欲しいと思う。一話完結なのでシーズン途中からでも、見逃した回があっても十分楽しめる(「楽しめる」という言い方は語弊がある、というぐらいに内容は重いですが)。
 
 本国ではシーズン7で打ち切りとなっているが、日本では現在シーズン2(テレビ東京)、シーズン4(AXN)、シーズン6(WOWOW)を放送中。

・テレビ東京(シーズン2) 土曜27:15 (第4土曜日は除く) 
http://www.tv-tokyo.co.jp/coldcase2/
・AXN(シーズン4) 月曜20:55/火曜15:30/金曜24:00/日曜14:55/日曜23:00/月曜16:30
http://axn.co.jp/program/coldcase/index.html ※
・WOWOW(シーズン6) 土曜23:00/日曜10:00
http://www.wowow.co.jp/drama/cold/ ※
※放送分までの全楽曲リストあり

(矢野裕子)

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