ザ・ブックス『ザ・ウェイ・アウト』(Temporary Residence / P-Vine)

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books.jpg コンスタントに無難な良作を作っていくアーティスト。それに対し、駄作も発表するけれど、とんでもない傑作も生み出してしまうアーティスト。どちらが魅力的かと言われたら僕は迷うことなく後者と答える。が、しかし、00年にニューヨークで結成し、プレフューズ73とも関わりがあり、9月にはオール・トゥモローズ・パーティーズへの出演を控える2人組、ザ・ブックス。彼らは僕にとって前者であった。箱庭的なフォークトロニカを実に上品に作り、これからも無難に良作を発表していくのだろうなと思っていた。そこにきてこれだ。『The Way Out』。約5年振り、4作目となる本作に、無難なところはなく、大暴投覚悟の勢いがある。
 
 まるでiPodをシャッフルで聴いているようなヴァリエーション豊かな楽曲の数々。初期のフォー・テット的なサウンドが現れたかと思えばポエトリー・リーディングもある。ダンス・ビートを強調し、やりたい放題やらせてくれとばかりにサンプリングしまくった曲もある。その予兆は前作からも窺えたが、まさかここまで出してくるとは思ってもいなかった。DJシャドウ的かと言えば違う。プログレ的かとも一瞬思ったがそれも違う。アクフェンの『My Way』を彷彿させるところもあるが別物だ。などと思っていると綺麗な歌ものも混じっているから捉えどころがないのだが、逆にその捉えどころの無さが興奮を沸き起こす。アコースティックなサウンドにファンクやロックの要素をぶち込んでいるところなど、アコースティックにこだわってきた彼らにとって新境地と言えるだろう。
 
 例えば「I Didn't Know」や「A Cold Freezin' Night」はまさになんでもあり。ずたずたにカットアップされた女性や子供の声がファンキーなベースとヴィブラフォン、エレクトリック・ギター、チェロと絡み合い、やがて音は膨れ上がり、意識がひゅんと飛んでしまうトリップ感がある。「I Am Who I Am」の、ノイ! のビートとドリルンベースが混じったような低音は体にずっしりくるし、吹き飛ばれそうな勢いだ。
 
 この変化は、フォークトロニカと呼ばれる前作(ブライアン・イーノにも絶賛された)が、彼らにとってひとつの極点であり、彼ら自身が満足しきった作品だと感じたからではないだろうか。そうして満足感に浸らず、新たな音楽性を提示する姿勢は音楽家としての高い志しがあってこそ。ただ、どんなに破天荒な楽曲であろうと、彼らの核にあるアコースティック・サウンドが持つ温もりへの愛情が窺えるから、暴力的なところがないゆえ構えず聴ける。アルバム冒頭で語られる「新しい始まりへようこそ」という言葉どおり、ザ・ブックスが表現する新しいサウンドに飛び込んでほしい。


(田中喬史)

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