SQUEEZE『Spot the Difference』(Xoxo)

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 "きみがぼくのベッドを直してくれた 指のあとが残っている
 これが愛、なのだろうか 冷静になればなるほど
 愛とはたやすく見つけられるもの そう、それが愛というものなのだから"
 (「Is That Love」)

 「シンプルにいい曲を書く」人たちというのはいつの時代も(一部を除いて)冷遇されてしまうようで、00年代以降に80年代ニューウェイヴは散々再評価されているのに、その当時に「80年代のレノン/マッカートニー」と賞賛された、クリス・ディフォードとグレン・ティルブルックを擁するスクイーズの日本での扱いに、後追い世代の僕はいつもこっそりむくれていた。素敵な曲ばっかりなのに!(とはいえ、日本におけるNW再評価のきっかけのひとつとなった、音楽評論家の小野島大氏監修による「UK New Wave Renaissance 2004」シリーズの一環で、彼らにとって三枚目のアルバム『Argy Bargy』が再発されたことには今でも本当に感謝している)

 音楽ファンがひときわ愛する映画『ハイ・フィディリティ』の原作者であるニック・ホーンビィも文学界のディフォード&ティルブルックを目標にしてきたというし、初期のブラーもマーク・ロンソンもリリー・アレンもカサビアンも、いわゆるイギリス臭い大御所ミュージシャンやバンドの大半は彼らの影響下にあるといっても過言でない。アメリカにおいても、ファウンテインズ・オブ・ウェインはモロだし、エイミー・マンのアルバムにもかつてクリスとグレンは参加し(『I'm with Stupid』、最高!)、ディアハンターも昔、自身のMySpaceで音楽性が結構異なる彼らの名前を挙げてリスペクトしていたり(彼らのブログの過去ログを読み返すとわかるが、ブラッドフォード・コックスは相当の英国ロックオタク)、つい最近だとシンズがもっとも有名な曲のひとつ「Goodbye Girl」をカヴァーしている。こんな話をしだしたらキリがない。それほど彼らは偉大で、優れた曲をいくつも残している。

 バンドの解散後もグレンとクリスは00年代に各自ソロ名義で秀逸な作品をいくつか残してきたが、このたび何度目かの再結成を果たし、そしてバンド名義としてはなんと12年ぶりに発表されたのが本作である。

 『Spot The Difference』、「間違いを探せ」と題された本作は往年の名曲をバンド自らの手で再録したアルバム。で、間違いを探そうにも、冒頭の疾走感溢れる「Another Nail in My Heart」からラストの「Up The Junction」に至るまで、基本的にオリジナルのアレンジに恐ろしく忠実であるのが特徴だ。当時アメリカでも大ヒットした「Tempted」もご丁寧に当時と同じくポール・キャラックがヴォーカルを担当しているし、「Slap and Tickle」の時代を感じさせるイントロのチープなキーボード・サウンドもうまい具合に再現されている。メイン・ヴォーカルを務めるグレンの歌声もそれほど衰えてはいない。一見後ろ向きな所作にも見えるが、ファースト・アルバムのプロデュースを担当したヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルから、名作『East Side Story』でのエルヴィス・コステロとデイヴ・エドモンズ、さらに後期の作品に至るまでの音を今になってわざわざ完コピするというのは、たとえばと元XTCのデイヴ・グレゴリーがビートルズの「Strawberry Fields Forever」を宅録で完全再現したのと似た、英国バンドらしい極端さと捻くれたユーモアも感じさせる。その反面、曲順の滑らかさに「ベスト・ヒットをうまい具合にまとめているなぁ」と感心していたら、単純に収録曲をアルファベット順に並べていただけだった! というテキトーさもまたいい。今もバンドがそれだけ勢いに乗っているということだろうし、音の方からもそれが伝わってくる。

 こうして聴き返すと彼らのもつメロディの豊潤さとポップの奥深さに改めて唸らされるわけだが、間違い探しを原典抜きで行うというのもヘンな話なので、未聴の方々には(先述のジョン・ケイルのプロデュースによるファーストはバンドの魅力を正確に伝えきれていないし、超兄貴みたいなジャケもややダサいのでひとまず後回しにして)二枚目の『Cool For Cats』から時代順に聴いてみることをお薦めしたい。それこそ今でいえばニュー・ポルノグラファーズ辺りのファンの琴線にも触れまくるフックをもつ尖った、いかにもニューウェイヴなパワーポップ集である『Cool~』から、その次々作である(当初はポール・マッカートニーもプロデュースを手掛けるという話があった)『East Side Story』のもつ「うた」の魅力に至るまでの流れは感動的だし(この流れはポストパンク時代の流行の変遷を先取っていたといえるかもしれない)、ブリット・ポップの勃興で再評価されることとなる80年代後半~90年代の作品も聴き応えがある。また、クリスが手がけてきた小粋で味のある歌詞の魅力については、かねてからグレンの来日公演をサポートしているミュージック・プラントのブログ「Song by Song」にタイコウチ氏による素晴らしい対訳が紹介されているので、そちらをご参照いただければ。

 ちなみに、グレンはLove Hope and Strengthという、山登りを通じてガン撲滅のための寄付を募る団体に参加しており(他の参加ミュージシャンも凄いメンツ!)、富士山でのトレッキングのためにただいま絶賛来日中。一方、バンドのほうはアメリカではチープ・トリックやイングリッシュ・ビートとツアーを周り、そして11月からはイギリスに戻ってライトニング・シーズと...って! なんかどの組み合わせも(ちょっと世代を感じるけど)豪華...。日本にもそれでぜひ来てほしいですよ?

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