SARAH BLASKO『As Day Follows Night』(Dramatico / Universal)

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sanah_brasko.jpg とても、とてもいいルックス...。美しいジャケットに心底惚れ惚れする。憂鬱げに視線を逸らしながらも、バックに陣取るキラキラした色合いをした幾何学模様のおかげでポジティブな気分も演出した、秀逸なバランスを保ったデザインだろう。

 簡単にスノッブと一蹴しづらくさせる想像力をかきたてるのは、この「夢見る女の子」ポーズを支える手の配置だろうか。たとえば同じポーズをとっているカメラ・オブスキュラ『Let's Get Out of This Country』と比較すると一目瞭然だが、人間の関節の構造からすると腕の角度がややおかしい。肩の描写を意図的に省くことでこのジャケットのファンタジーは成立しており...可憐さをアピールしておきながらも、いざ腕をほどくと(カルトな人気を今でも誇る、カナダ出身ながらヨーロッパに思い焦がれた退廃的耽美派SSW)ルイス・フューレイの『Sky Is Falling』みたいなろくろ首が間違えて出てきそうで、このアルバムが一筋縄でいかないのであろうことを予感させているようだ。

 本作はシドニー出身のサラ・ブラスコ(Sarah Brasko)の自身三枚目となるアルバムである。本国オーストラリアでは既に昨年の時点で発表されて爆発的な人気を誇っていたそうで、それもあってようやく今年8月にヨーロッパやアメリカでリリースされ、日本でも入手しやすくなった。

 音のほうもジャケットやそういった評判を裏切らない、折り紙つきの素晴らしい内容になっている。陰りをもったオーガニックなオーケストラ・サウンドとピアノの旋律に、ロリータ・ビョークとでも呼ぶべき彼女の歌声に耳を傾けていると、アルバムのタイトルどおりに夜を想起させられる。眠れない夜の夢見がちな妄想を形にしたような。プロデュースを手掛けたのは"口笛ソング"で日本でもお馴染みピーター・ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリング(Bjorn Yttling)で、録音はストックホルムで短期間のあいだに行われたようだ。ビヨーンのプロデュース・ワークといえば本作とも少し似た音楽性のリッケ・リー(Lykke Li)もそうだし、これまたカメラ・オブスキュラの近年の傑作『My Maudlin Career』での印象的なストリングス・アレンジも彼の仕事。本作でも多少メロドラマ的ですらある大胆なアレンジ・ワークを見せつつ、暗さ一辺倒には陥らない舵の取りぐあい、洗練のされ方はスウェディッシュ・ポップに通じるものもあるし、サラもきっと抱いているであろうヨーロッパ的な世界観への憧憬もうまく表現している。この音が大ヒットするというのは羨ましい話ですね、オーストラリア。

 いい意味で浮世離れした、ある種のアンニュイさとピュアネスはエル・ペロ・デル・マー(El Perro Del Mar)に通じるものがあるなぁ...と思ったら既に彼女とツアーを一緒に周っていたり、「Over & Over」という曲でアウトロの節回しにトーキング・ヘッズの「Road To Nowhere」のそれをさりげなく引用したり(跳ねる曲調にも少し通じるものが)、既に発表されていた本作のデラックス・エディションではボーナス・ディスクとしてアニー・ホールやサウンド・オブ・ミュージックの楽曲に、ザナドゥのカヴァーが収録されていたりと、ポップスとその歴史に対して敬意や愛情を思わせるトピックに事欠かないのも好印象。一級品のメロディが書けるのも頷ける。最近はホリー・スロスビー(Holly Throsby)やサリー・セルトマン(Sally Seltmann、元ニュー・バッファローにしてファイストの大名曲「1234」の作曲者。こちらも今年リリースされた『Heart That's Pounding』もソングライティングが冴えまくった傑作!)といった同郷の優れた女性SSWたちとレコーディングに取り掛かっているそうだ。リヴィング・シスターズもそうだが、こういう仲良しっぷりは大歓迎。今後の活動にも期待がもてる。

(小熊俊哉)

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