SALYU「Life」CDS (Toy's Factory)

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salyu.jpg ご覧のサイトはMUSICAではありません。紛れもなくクッキーシーンのサイトでございます。--------そんな前置きも必要なぐらい、違和感のあるチョイスかもしれない。しかし、クッキーシーンの読者こそSalyuを聴くべきだ! と、今こそ声を大にして言いたいのです。7月に発売された七尾旅人の傑作アルバム『billion voices』にて、「one voice (もしもわたしが声を出せたら)」と「検索少年」の2曲で美声を響かせていたので(七尾のレコ発ライヴにもスペシャル・ゲストとして飛び入り)、そこではじめて彼女の存在を認識したリスナーも多いだろう。ワンマンではジェフ・バックリィやジョニ・ミッチェルなどのシンガー・ソングライターから、ビートルズやU2といったロック・バンドまで幅広くカヴァーすることも有名で、その歌唱力の素晴らしさはもはや説明不要。

 本作「LIFE」は彼女にとって14枚目のシングルであり、恩師である小林武史がプロデュースを務めた、"真夏"の季節感と疾走感溢れる、太陽のように眩しいポップ・ソングだ。カップリングの「CURE THE WORLD」は、自ら書き下ろしたという歌詞にflumpoolやYUKIの諸作で知られる百田留衣が曲を乗せた、切ないバラード。こちらはラジオや映画などで多くの音楽を手がける、マルチ・アーティストのトベタ・バジュンも編曲に名を連ねている。初回限定盤には、今年3月にリリースされた3rdアルバム『MAIDEN VOYAGE』に伴う春の全国ツアー最終日の模様を収めたダイジェストDVDが、通常盤には3つ目のトラックとしてSalyu×国府達矢が12thシングル「EXTENSION」以来およそ1年ぶりのタッグを組んだ、散文的で変拍子なピアノ・ソング「タングラム」がそれぞれ収録という、どう見積もってもダブル買い必須のニクい演出。

 自身初のブラス・セクションを導入したという表題曲の「LIFE」は、本人も認める通りまさに"新境地"と断言できる(ジャケット撮影では水着にまで初挑戦)。レインボー・カラーのウィッグをまとった女の子たちがサーフィンに繰り出すというミュージック・ビデオからも窺えるように、サザン・オール・スターズやTUBEもかくやの軽快なサマー・チューンに仕上がった。どこまでも突き抜ける高音ヴォイス、ギターとストリングスとピアノが幾重にも絡むオーケストラルなアレンジ、ポジティヴでまっすぐな歌詞......まるですべてがSalyuの味方をしているかのよう。前述のツアー・ファイナルで小林武史を招いて初披露されたのだが、幻想的なリリィ・シュシュ時代より彼女を追い掛けているファンからは「Salyuらしくない」との否定的な意見も多かったこの曲。おそらく、そんなことは本人がもっとも強く自覚していただろう。メジャー・フィールドにおけるポップスの歌い手としての意識、アーティストとしての脱皮。それは、「うた」が"大衆性"を獲得するための第一歩に他ならない。

 「色んな物差しが/この世界にあるよ/私のはかり方は/あなたとふたりのバランス」という一節は、近年の「会いたいよ/出会えてよかった/生まれてきてくれてありがとう」などと臆面もなく歌う、自己憐憫と承認欲求にまみれた数多のJ-POPナンバーを軽々と突き放す。というか、Salyuの音楽性を「J-POP」とカテゴライズしてしまうのは、あまりにも安易だ。国内屈指のシンガー・ソングライターである安藤裕子が、最新アルバムにあえて『JAPANESE POP』という衝撃的なタイトルを名付けたように、ケータイで音楽が消費され、違法ダウンロードが横行し、平成生まれのお仕着せアイドル達が蔓延る日本のマーケットに対して、Salyuや安藤、あるいはSuperflyの越智志帆など昭和生まれのアーティスト達は危機感を抱き、本気で抗っている。そんな彼女達が、古き良き時代の音楽への愛情とDIYスピリットを糧に、我々の元へ「うた」を取り戻そうとしている姿には興奮を禁じ得ない。それは、冒頭の七尾旅人だけでなく、山本精一のようなアンダーグラウンドが根城の男性アーティストまでもが、新作で「うたもの」へ回帰したという事実とも間違いなく共振する。

 Salyuはインタビューでよく自分の声を「楽器」と表現している。だからメンテナンスが必要なのだと。そう考えると、本作「LIFE」から迸る陽性のヴァイブは、心身ともに充実のコンディションであることは想像に難くない。「この宇宙(そら)はLIFE(ライフ)の先にある/心に描いてみたいな」--------そう、これは日本の音楽の未来であり、大きな希望。秋には今年2回目の全国ツアーが決定しており、早くも次のアルバム制作にまで取り掛かっているという。かつてなくワーカホリックな彼女の最新モードを、再びステージで目撃できるのが楽しみだ。

(上野功平)

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