ナターシャ・アトラス『写し鏡』(Rice)

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natacha_atlas.jpg ベルギー・ブリュッセル生まれで現在はワシントンD.C.在住。モロッコ、エジプト、パレスティナ、イギリス人の混血、そして音楽のルーツは北アフリカやらインディア、アラビックという既にその存在自体がミクスチュア(死語と言わないで~)な彼女の2010年最新作。キャリアはもう20年くらい経つ大ベテランの彼女のバイオをおさらいするのもなんだが、イギリスでエスノ・ダンス・ミュージック・グループ、トランス・グローバル・アンダーグラウンドで活動していた彼女のイメージが強烈で、彼女のソロ作品の多くはリズミカルで踊れるサウンドが特徴。

 然し、コンテンポラリなR&B風にもチャレンジしたりと現代音楽への融合を試みてきた彼女だが、08年にリリースした『アナ・ヒナ』でルーツに立ち帰るように披露したアコースティックな作風に続き、今作もエレクトロ・サウンドは控えめに、ジャズ風味のピアノとエスニックな生楽器が織りなすオーケストレイションにしっとりと音を耳で感じ取れる。ストリングスは重厚にアブストラクトなベースを作り出して、艶やかに情感たっぷりに歌い上げるのだから、うっとりしない手はない...。

 ただ、前作に続いてのアコースティックな編成とは前述したが、アラブの歌謡曲中心で構成されたものとは違って、今作ではアラブ古典やオリジナル曲の他にもニック・ドレイクやフランソワーズ・ハーディの曲をナターシャ風にカヴァーしてみせたり、全編に渡りワールド音楽とジャズ、そしてダーク&ポップに彩られているのである。そしてインターミッションを随所に設け、作品全体を通してまるで映画や演劇を鑑賞するような楽しみ方を提示し、コンセプティヴな作りを感覚出来るのだ。

 そのコンセプトの元は、インドの詩人ラビンドラナート・タゴール(インド国家の作詞作曲者でもある)の詩にインスパイアされたという辺り、日本にも馴染みのある彼の哲学の片鱗にも音楽を通して触れられるし、そんな東洋の神秘がまた西洋から届けられるというこのミラクルと言うかミステリーを存分に楽しんでほしい。溢れ出るアシッド・フォーク勢とは全く違った夢見心地を味わえる。

(田畑猛)

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