黒田隆憲の場合は...

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 今年は3日目のみの参戦。

 日曜日。朝8時に自宅を出て、宿にチェックインしつつ会場に到着したのが12時50分頃。まずはレッド・マーキーに直行し、すでに始まっているイエーセイヤーをPAブースの真後ろで眺める。久しぶりに感じるフジロック独特の雰囲気や、レッド・マーキーの音の響き方、轟く歓声に圧倒されてしまい、あまり集中して観ることが出来なかったが、タイトなドラムとトライバルなパーカッション、高揚感を煽るシンセのシーケンス・フレーズにサイケでソウルな掛け合いヴォーカルと、まさに今のブルックリンを象徴するステージングは、確かに観ているだけでピースフルな気分になる。まさに苗場の空気にピッタリだ。

 終演後、レッド・マーキー横のオアシス・エリアでモツ煮ごはんを食べながら、漏れ聴こえてくるアルバータ・クロスを聴く。「若いくせに渋いロックを奏でる連中だ」と昨年のコーチェラ・フェスティヴァルで観たときから気になっていたが、ジョン・レノンの「Steel And Glass」åのカヴァーが流れてきたときには流石にのけぞった。

 昼食後はグリーン・ステージをふらつきながら、ドノヴァン・フランケンレイターを観る。2004年にファースト・アルバムがリリースされたときは、かなり夢中で聴いていたのだが、ここ数年はちょっと遠ざかってしまっていた。しかし、こうやって大自然の中で聴くレイドバックした彼の楽曲は、やはり格別。終始ゴキゲンな笑顔を見せながら歌うドノヴァンに、こちらの頬も緩むしビールも進む。

 そうこうしているうちに15時40分、グリーン・ステージではヴァンパイア・ウィークエンドの演奏が始まった。カラフルなギンガム・チェックの半袖シャツに半ズボンという出で立ちのエズラ・クーニグ(ヴォーカル、ギター)、リッケンバッカーのベースをゴリゴリと弾くクリス・バイオが、ステージ狭しと走り回る。バンドのキーマンであるロスタム・バトマングリは、コロコロと転がるようなオルガンや、宙を漂うようなメロトロンの音色で楽曲を包み込む。クリストファー・トムソンが叩くドラムは信じられないくらいローポジションにセッティングされていて、それもあってかタメの効いた独特のグルーヴが体を揺らす。ルックス、ステージング、アレンジ、楽曲、全てが小気味よく飄々としていて、良い意味での学生ノリを残しているところも好感が持てる。何より、グリーンに集まった大勢のオーディエンスを踊らせているのだから大したものだ。これまでの2枚のアルバムからバランス良くチョイスされたメニューだったが、やはりシンプルなキメや覚えやすいリフの多いファーストの曲の方が盛り上がっていた。

 今日の目当ての1つであるダイアン・バーチを観る前に、「一目だけでも」と思ってレッド・マーキーへ戻りバッファロー・ドーターを観戦。筆者が駆けつけたときにはちょうど「All Power To The Imagination」が始まったところで、サポート・ドラマーの松下敦(元ズボンズ、現ZAZEN BOYS)含め、全員が赤い衣装を身にまとって演奏するさまは、身震いするほどカッコ良い。最後まで観ていたかったが、続く「Two Two」の途中まで浴びてフィールド・オブ・ヘヴンへ移動することに。

 黒いロングドレスにブラウンのチューリップハット、大きなロザリオのネックレスを身に着けたダイアン・バーチが登場したのは18時頃。まるでローラ・ニーロのように地声とファルセットを巧みに使い分け、キャロル・キングやジョニ・ミッチェルを彷彿させるような珠玉の楽曲を堂々と歌いこなす彼女はもちろん魅力的だが、バンドの面々も素晴らしい。テレキャスターを抱えたギタリストは小型アンプをフルテンで鳴らし、アルバム『Bible Belt』よりもアグレッシヴなプレイでオーディエンスをグイグイと引っ張る。バンド・リーダーと思しきトランペット奏者は、バカラック風の涼し気なリフから、ソウルフルな熱いソロまで思いのままに吹きこなす。彼らがしっかりと脇を固めているからこそ、ダイアンの存在もより輝きを増しているのだろう。ホール・アンド・オーツの名曲、「リッチ・ガール」のカヴァーではコール&レスポンス、「Valentino」ではハンド・クラップと"オーディエンス参加"のコーナーも押さえつつ、名曲「Nothing But A Miracle」ではしっかり泣かせ、とにかく密度の濃い60分だった。

 本日の一番の目当てであるベル&セバスチャンまで時間があるので、取り敢えずグリーン・ステージまで戻ることに。話題のアトムス・フォー・ピース、個人的にはそれほど大きな関心はなかったので、ステージから最も遠い斜面に腰を下ろしてぼんやり眺めていた。が、「Harrowdown Hill」のイントロが流れ出した瞬間、頭をガツーンと殴られるような衝撃が。まるで野生動物のような肉体を、ムチのようにしならせながらベースを弾くフリー、彼に煽られ暴走し踊り狂うトムの姿が大画面モニターに映し出される。掛け値なしにカッコいい!続く「Cymbal Rush」での凄まじい高速スラップには、思わず開いた口がふさがらない。ジョーイ・ワロンカー、ナイジェル・ゴドリッチ、マウロ・レフォスコによる腰の据わったアンサンブルが、トムとフリーのパフォーマンスをより引き立てている。「これはとんでもないものを観ている」という興奮で体が震えているのが分かる。

 トムの弾き語りが始まり、ようやく気分が落ち着いてきたのでレッド・マーキーへ移動。ベルセバへ向かうまでの少しの時間、エールを観た。彼らのライヴは2001年にサマソニで観て以来だから実に9年振り。とにかく驚いたのは、駆けつけたオーディエンスの怒濤の歓声。エールってこんなに人気があったのか! それからローの音圧。「暴力的」と言っても過言ではないほどの迫力で、これまで彼らに対して描いていた"オシャレでクール"なイメージが、ひっくり返るほどの衝撃だった。後日、彼らを「今年のベスト・アクト」に挙げる人が多かったのも頷ける。

 急いでホワイト・ステージへ。セットを見ると、背後に金色と赤色のカーテンが垂らされ、ほぼ一列に楽器類が並べられている様は、まるで一昔前のジャズ楽団のようだ。キーボードの黒い背面に貼られた「ベル&セバスチャン」の白ロゴに、「ついにこの日が来た!」という実感がより強く胸に迫る。先ほどからパラパラと降り出していた雨もいよいよ本降りとなるが、そんなこと気にしちゃいられない。22時を過ぎ、遂にメンバーが現れた。挨拶もそこそこに、冒頭からいきなり新曲「I Didn't See IT coming」をやるところがいかにも彼ららしい。以降は近年のアルバムを中心に、初期の曲を織り交ぜつつ12曲を演奏。個人的にはもう少しだけ初期のナンバーを聴きたかったが、彼らの場合は1曲たりとも捨て曲がないので後はもう"好みの問題"としか言い様がない。途中、オーディエンスの中から男女2名ずつをステージに上げて踊らせたり、たまたま飛んで来た甲虫(ビートル)をネタに「涙の乗車券(Ticket to Ride)」のカヴァーをやったりと、今思い出しても思わず頬が緩んでしまうような、素敵なファン・サーヴィスを随所に散りばめた素晴らしいステージだった。

 いつの間にか止んでいた雨も、ベルセバが終わった途端にまた一段と強く降り出した。気力も体力も使い果たした筆者は、そのままパレスへ直行。明け方近くまで友人と打ち上げた。今年も沢山の友人、音楽との素晴らしい出会いをありがとう、フジロック!

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