アイ・アム・クルート『スカイ・アット・ナイト』(I Am Kloot / Hostess)

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 もう駄目だ。もう死にたい。というところが、ない。とどのつまり、ネガティヴな印象を打ち消してしまう音なのだ。歌の強さである。歌の存在感の広さである。決して過剰にポジティヴなわけではないが、歌声はトム・ウェイツやボブ・ディランなど大御所アーティストを彷彿させる。元リバティーンズのピート・ドハーティにも絶賛されているジョン・ブラムウェルの声が苦みを帯びて淡々とうたわれる。その様に悲しさがあり、暗さもあるのだが、歌はもちろんのこと、ギターもドラムも己の感情を抑制した音の全てが胸を静かに、しかし強く打つ。

 マンチェスター出身の3人組、アイ・アム・クルートが発表した5作目となる『Sky At Night』。プロデューサーにはUKで権威ある音楽賞「マーキュリー・プライズ」を受賞したエルボーのガイ・ガーヴェイ(彼はマッシヴ・アタックの新作にも参加)とクレイグ・ポッターを迎えた。メロディもまた素晴らしく、奥行きを十分作ったミックスも手伝い、神聖な森の中でどこからともなく聴こえてくるようで耳を傾けてしまうのだった。そして訪れる胸がすく気持ち。聖域を見付けてあぶり出してくれるようで何度も聴いてしまえる。ソロの、純粋なギター一本のみの弾き語りも聴いてみたくなった。声がアコースティックな感触にはまりにはまっている。

 演奏スタイルは弾き語りに近い。が、しかし、バンド・サウンドとして重心が座っている。幻想的でもドリーミーでもない。その目の前に立って音を奏でているような親密性がより自然に耳を音に傾けさせる。丁寧に選ばれたアコースティック・ギターの音色。残響音までしなやかに伸びていくストリングス。ドラムはあくまで丁寧だ。時にドラマチックに盛り上がる楽曲の構成が暗闇を思わせる音の空間にぽっと明かりをつける。ジャケットにあるような光が感じられ、ジョン・ブラムウェルもまたジャケットに映る木のように、か細くとも堂々と立っている姿が目に浮かぶ。

 木とは本来曲がりくねり、奇形であるが、アイ・アム・クルートは垂直な木なのである。それはひたすら天に向かっている垂直の木のように、偽りの弱さがないゆえ、とても強い。僕らは何気なく死にたいと、口にしてしまうことがあるが、その死にたいという言葉を太宰治と同じレベルで言える人間は少なく、ほんとうならば、弱さを口にできるのは、強く生きた者のみなのである。弱さを見せられる強さ、というものもあるが、アイ・アム・クルートは弱さを発露するのみではなく、弱さを抱えながらもジャケットに映る木のように強く立っている。彼らならビル・エヴァンスが鍵盤の上で亡くなったように、死の直前まで音を奏で続けるだろう。それは音楽が全てである音楽家としての強さなのだ。このバンドには、生きていること自体が強さを、または弱さを醸し出す姿勢がある。そんな本作に、妙に反省させられる。

(田中喬史)

*日本盤は9月8日リリース予定です。【編集部追記】

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