ハルカ・ナカムラ『Twilight』(Kitchen.)

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haruka_nakamura.jpg 静かな風に揺られ、小雨の冷たさを感じながら微妙に景色が移り変わる。聴いた途端、そんな心地になる奏でに心を奪われた。坂本龍一や高木正勝などに絶賛されている東京在住の日本人アーティスト、ハルカ・ナカムラ(haruka nakamura)。良質なアンビエント・サウンド、エレクトロニカをリリースしてきたレーベル、Kitchen.から約2年振りに発表したセカンド・アルバム『Twilight』、それは室内音楽的でいて、なおかつ手作り感覚の味がある。「陽が沈んでから夜が来るまでの淡く美しい、その時間へ捧げる」と本人が言うように、ピアノを中心とした演奏が眠りに落ちるほど自然に、聴き手の気持ちを夕日が沈む儚い瞬間の中に導いていくアンビエント・サウンドだ。


 鍵盤に水滴を丁寧に落としているようなピアノの奏で。残響音にも気持ちが込められたサックス。やさしいドラムの音色がリズムとしてではなく、ぽっかり空いた心の隙間を肯定するように鳴っている。瞬間的に演奏の表情が変わることはなく、季節が移り変わるほど、気付くか気付かない程度に表情が変わっていくから聴き手も微妙な感情の揺れを体感できるから面白い。ジャジーでありながらもクラシック的な香りがする演奏からエコーがかけられた女性ヴォーカルの、妖しく魅惑的な歌声は可愛らしくもエロティック。過度な主張や激動はないが、ピアノ、サックス、ドラム、ギター、そして歌声が穏やかに絡み合い、夕方から夜までの物語を紡ぎ出す。そのストーリーを貫いているがゆえ、演奏にぶれがなく、音の世界観に包まれてしまう。だがその世界観は哀しみの色を帯びているのだ。


 人は出会い、わずかに理解し合い、多く誤解し合い、無数に邪推しあう。無垢な美しさの中にも日常における違和感が存在し、「The Light」での歌声は清涼感に満ちているのに孤独も同時に紡ぎ出す。日常の喜びと同時に哀しさも含んでいるのだ。この音楽を聴くことは現実逃避には成りえない。本作はフィクションではないのだ。ありのままの生活を切り取った本作は胸に刺さるところもある。音楽に吸い寄せられ、音の中に身を置き、清々しさを感じ、また、涙しそうになりもした。
 前作は本作より装飾されていたが、装飾を脱いだ本作は、前作以上に親密で、裸の姿を押し出したと言っていい。それはとても孤独な音、そして姿だ。しかし音楽を聴くこととは孤独を慰めるためだけにあるのではない。時と場合によっては孤独だからほっとすることもある。音楽はもともと人々が団結するために生まれたが、その本来の意味から離れ、儚さと孤独を提示する本作を聴くと、孤独というひとりの時間が、とても尊く、必要なものだと感じられる。


 「陽が沈んでから夜が来るまでの淡く美しい、その時間へ捧げる」という、音による風景描写が心理描写に繋がった本作。それは感性豊かな者ではないと決してできない。嘘のない感受性を聴いてほしい。

(田中喬史)


*最初にアップされた原稿では、ハルカ・ナカムラを女性と誤解した部分がございましたので、訂正した原稿をあらためてアップさせていただきました。大変申し訳ありませんでした。【8月12日追記】

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