スマイルラヴ『ライヴ・アット・Gok サウンド』(Self-Release)

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smilelove.jpg 時々思い出す。夏の空気がぼんやりと横たわり始めたころ、コーカスのライヴを観るために缶ビールを片手に立っていた僕の前をするりと横切り、前座としてステージに立った4人組のことを。その4人組は何気なく歌い、何気なくドラムをベースを、そしてギターを奏でた。その笑顔のようなやさしさを持った演奏は苦労して考えて創出されたというより、どこからか自然に自由に湧き出てきたというおおらかな雰囲気があった。僕にはその演奏が、音楽性うんぬんではなく、何か、あるひとつの、重要なことを雄弁に語っているかのように思えた。
 
 スマイルラヴ(smilelove)のオフィシャル・サイトでフリー・ダウンロードできるその日のライヴ音源を聴くたびに、僕は再び思い出す。コーカスやルミナス・オレンジでも活動している川上宏子がリーダーを務めるスマイルラヴのライヴのことを。その人懐こさが窺える名前が付けられたバンドは、個性というものが何かをゆったりと、朗らかに、そして雄弁に語り出す。僕らの意識は常に感情の中にいる。それが人を動かせ、立ち止まらせる。その連続の中に住み、いままで生きてきた中で出会った人々、そして選んだ選択の総和が個性なのだと、音が、歌声が語っていると僕には思えた。時代は変わったと言われる。価値観も常に変わり続ける。だがどんな時代であっても、このバンドの個性というものだけは、まるで青春の空気を身にまとうように醸し出される。スマイルラヴはそれを知的な理解に訴えず、概念にたよらず、埃をはらうくらい簡単に音にしてしまう。その音楽は、口に含んだビールの苦みをやわらげた。辺りの無秩序な制約がほどけていく音楽。

 装飾を薄くした音楽性はペイヴメントを彷彿させる。複雑性の一切を排除し、シンプルなフレーズがループする。音楽を通して演奏者の感情の昂ぶりや哀愁が真っすぐ胸に程よく当たり、やがて染み込み、不思議なくらいあっさりと消えていく。感情の移り変わりが季節の移り変わりと同じくらい自然に表れ、気が付くとまた別の楽しみの心地として浮かび、消え、また浮かんでは消えていく。ある人はスマイルラヴの音楽とともに眠るであろう。聴きながら街を歩くであろう。空を眺めるであろう。この音楽は、聴き手が音を受け入れる準備を必要としないのだ。準備などしなくとも、そっと、静かに、そして明るく、音が聴き手を受け入れる。
 
 聴いていると、音楽とは、楽器や楽譜によって成り立っているわけではなく、アーティストが吸い込んできた空気や見てきた風景によって出来あがるのだと思えてくる。音楽は理屈じゃない、とまでは言わない。しかし時として、感動は理屈を超える。笑顔に理屈がいらないように。このバンドはそんな説得力を持っている。人間は不変ではないが、スマイルラヴの笑顔のやさしさを感じる音、それだけは変わらない。たぶん、ずっと変わらない。

(田中喬史)

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