やけのはら『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』(Felicity)

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yakenohara.jpg ここまで清々しくて初々しくて、楽しいサウンドを滴り落ちるほど贅沢に取り入れた音楽も中々ないであろうよ。DJ、ラッパー、トラックメイカーなど、やけのはらの活動は多岐にわたり、近年はバンド、ヤングサウンズ(younGSounds)に参加。また、七尾旅人とともに「Rollin' Rollin'」を発表したことは記憶に新しい。ファースト・ソロ・アルバムの本作『This Night Is Still Young』は、「Rollin' Rollin'」のアルバム・ミックス・ヴァージョンを収録。同じく七尾旅人がヴォーカリストとして参加した「I Remember Summer Days」を収録し、ライヴで共演の多いドリアンがキーボード、アレンジとして参加している。
 
 大胆なまでの打ち込みを軸とするアルバムだけれどエレクトロニカ的な志向すら持つ七尾旅人と打ち込みの相性が良いのは必然で「Rollin' Rollin'」のアルバム・ヴァージョンも気持ちのいい仕上がり。もちろん淡々としていながらもチャーミングなやけのはらの声と電子音の相性も抜群だ。DJとして数々のイベントや、多数のパーティーに出演してきたやけのはら自身が言うように、ラッパーというよりはDJ的な視点で作られた本作は、間隔の広いヒップホップのリズムと、ころころ転がっているような電子音と涼しげなサウンド・エフェクトを中心に、女性のヴォイスや弦楽器、子供の声がサンプリングされている。さらには管楽器やエレクトリック・ギター、ボコーダーを使った音なども取り入れ、ドリアンがキーボードを鳴らすタイミングも絶妙だ。それらは夏の空気や海辺で人々がたわむれる雰囲気を描写する。様々な音、ジャンルが混じっているが、乱雑な印象はない。DJ的な視点で作ったというだけあって適材が適所で鳴らされ、必要最小限に音をとどめているがゆえにすっきりまとまり、それが本作の爽快な音に繋がっている。
 
 棒読みに近いラップは朗読とまではいかなくとも詩を読んでいる感覚に近く、過剰な主張や激動はない。韻を踏むことすらあまり意識していないと思える。まるで話しかけてくれているようで、そして詩的で、爽やかなサウンドということもあってリゾート・ミュージックとして聴こうと思えば聴ける作品だ。しかし、それだけで終わらないメッセージ性もある。

"俺達が見ている景色が夢だとしたら
最高にアホらしく笑えて スリル満点の夢にしよう
一瞬のまやかしだとしても 錯覚や幻想だとしても
信じていたいと思える何かを見つけたんです
この夏はきっと終わらないって なんとなくそう思った"
(「Summer Never Ends」)

 閉塞感に満ちていると言われる世の中にあって、何か面白いものを見付けようというメッセージ。その何かが、まさに『This Night Is Still Young』。それは都会の鉄の匂いをさえぎって香る。やはり清々しくて初々しくて、楽しい。

(田中喬史)

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