ピン・ミー・ダウン『ピン・ミー・ダウン』(Animalized / Hostess)

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pin_me_down.jpg このアルバム、踊れます。って、そりゃそうですよね。何と言っても、この英米混合2人ユニットのギターを担当しているのは、かのラッセル・リサックなんだから。「誰?」と言う方はクッキーシーンをお読み下さっている皆様方の中には少ないとは思いますが、もう一度おさらいをすると彼は、現在、活動休止中の英国発ニューウェーヴ・リヴァイヴァル・ムーヴメント(最早、この言葉自体が過去のものになってしまった感すらあるが)を先導したブロック・パーティにおいて、その特徴的なアシンメトリー・ヘアーを振り乱して一心不乱にテレキャスターをかき鳴らしていたギタリスト。そのラッセルが米国のミレーナ嬢と組んだのが、このPin Me Down。

 ブロック・パーティのフロントマンのケリーがソロ活動を活発化し、そのサウンドが肉体的でありながら彼のウィットさも随所に垣間見えるダンス・ミュージックに傾倒したものだったのに対し、彼らPin Me Downは同じくダンス・ミュージックでありながらも、打ち込みのリズムに、ニューウェーヴと言うよりもポスト・パンク色がきいたラッセルの鋭利なギター・サウンドで隙間無く埋められたソリッドなサウンド。その彼のギター・プレイの上にのるミレーナの歌声とのコンビネーションは相性バッチリで、その挑発的な歌詞も相まって、踊らずにはいられないだろう。ラッセルのギターは、ブロック・パーティと言う時代を代表する大きなプロジェクトからいったん離れる事で、久し振りに童心に戻った子供のように自由奔放に鳴らされているのも、微笑ましい。
 
 もう一つ、特筆すべき点は、彼らはかのフランス発のエレクトリック・ダンス・ミュージック専門レーベル、キツネ所属バンドである事だ。確かに、彼らのサウンドはどこか北アイルランドのツー・ドア・シネマ・クラブのような鋭角で突き刺さりながらも、どんどん高揚していくような手法の曲も多い。一曲目の「Cryptic」は過去のキツネのコンピレーションである『Kitsune Maison Compilation 5』に収録された経緯もある。

 とにかく踊れて、高揚できるサウンドの彼らだが、僕はもう少し、奥行きを感じたかったと言う感想を抱いたのも本音であることを蛇足ながら書いておこう。さすがに、ブロック・パーティのような世界を期待するのは野暮であろうが、踊れる、アガれる以上のビジョンも見せてほしかったと言う思いもある。ラッセルのギターは決して、ブロック・パーティでしか活きることない訳ではない。ところが、彼のそのクールながらエモーショナルなギター・スタイルは、ケリー・オケレケの隣でかき鳴らされている時が、やはり際立つのだとも思えてしまう。しかし、だからこそ彼ら、Pin Me Downがこれからどんなビジョンを僕たちに見せてくれるのかもゼヒ期待していきたいだろう。

(青野圭祐)

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