犬飼一郎の場合は...

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サマソニ前夜

 サマソニ迷走中? そんな一抹の不安もよぎる開催前のあれこれ。キッスのヘッドライナー発表とその直後の白紙撤回、ロック・イン・ジャパン・フェスとの日程の重なり、そして続々と豪華ラインアップがアナウンスされるフジロックの勢い。

 毎年多くのリピーターを迎え入れ、さらに新しいファンも生み出し続けているフジロックは、今や「夏フェス」という概念を超えて日本を代表する夏の一大イベントへと成長した。ライブはもちろん、壮大なロケーション、行き届いた運営とファンのマナーなど、すべてがかけがえのない体験。素晴らしい夏が約束されている。一方、サマーソニックは東京/大阪というアクセスの良さを活かした都市型フェス。気軽に行けることがメリットだけど、お目当てのアーティストが出演しないとなれば、「今年はパスかなあ」というデメリットにも直結しやすい。ファンにとっては「行く/行かない」の選択が気軽にできる、というところも魅力のひとつ。だから、ちょっとした皮肉も生まれる。もしもキッスがヘッドライナーだったら、僕は間違いなく行かなかった。

 結局、キッスの穴は充分すぎるほどの存在感でスティーヴィー・ワンダーが埋めて、2日目の大トリを飾ることになる。初日のヘッドライナーにはJAY-Zがアナウンスされて、懸念されていたラインアップも何とか出揃い始める。イールズ、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、スティーヴィー・ワンダー、ピクシーズが発表された時点で、僕は今年も行こうと決めた。

 そして、サマソニ前夜。改めてタイムテーブルを見直してみた。お昼前のハーツ(The Hurts)から深夜のフリーベース(Freebass)まで、自分なりのスケジュールはあっさり決まった。でも、ワクワクドキドキは少なめ。「せっかくだから見ておこう」レベルのバンドが多かったのが正直な気持ち。興奮して眠れなかったフジロックの前夜とは大違いで、僕はベッドに入って電気を消すなり、ぐっすり眠ってしまった。加護亜依がJAZZるなんて、知らなかったよ。

8月8日/1日目

 ロック・イン・ジャパン・フェスのチケットが早々に売り切れたことは、みんなが知っている。サマソニは...? 僕は金曜日に余裕でチケットを購入した。「ちょっと心配だなー」と思いつつ、幕張メッセに到着。良かった! リストバンド交換所も会場も去年と同じくらいの混み具合だ。ほっとひと安心しつつも、今度は自分の体調が心配。フジ・ロック3日目のマッシヴ・アタックのライブで雨に打たれること約2時間。感動の身震いが3日も続いた頃、ようやく風邪をひいていることに気付いた。まずは、予備知識ほぼゼロでソニック・ステージのハーツへ。無難なエレ・ポップ。この時間帯にしては、まあまあな動員。頑張れ! でも、僕は2曲で退散。

マッカビーズ:マウンテン・ステージ
 高いポジションでホロウボディのテレキャスをかき鳴らすサウスポーのギタリストが最高! 曲にもっとメリハリがあれば、いいのにな。

トゥー・ドア・シネマ・クラブ:ソニック・ステージ
 もうこの頃からはお客さんも増え始めて、「サマソニだなー」という気分が盛り上がってくる。CDで聞くよりも、タイトでラウド。かなり良い!「I Can Talk」の「アッオッアアオ! アッオッアアオ!」がやっぱり印象的。この後、デルフィックを見るつもりが発熱でダウン。フードエリアで休憩しつつも、焼き肉臭にやられて行き場を失う。

パッション・ピット:ソニック・ステージ
 見た目はイマイチだけど、ステキなダンス・ミュージックを鳴らす5人組。ファルセットは絶好調なんだけど、僕が絶不調。でも会場は数年前のスーパー・ファーリー・アニマルズの時のように、ハッピーな雰囲気に包まれていた。キラキラしたシンセとファンキーなグルーヴに酔いしれる。ベスト・アクトのひとつ!

アーハ:ソニック・ステージ
 年末に解散を決めているらしく、このステージが日本での最後のライブとのこと。終盤、1stアルバムの曲や007の「The Living Daylights」あたりから、会場は一気にヒート・アップ。そして、出ました! 「Take On Me」。アーハは良くも悪くもこの1曲で多くの人の記憶に残るんだな、としみじみ。他にもたくさん良い曲あるのにね。

リチャード・アシュクロフト&ジ・ユナイテッド・ネイションズ・オブ・サウンド:マウンテン・ステージ
 さて続いては、リチャード師匠の新プロジェクトに期待! 丸刈りで精悍さを増したリチャード。でも、最後に「Bitter Sweet Symphony」をやるなんて! せっかくのライブの印象が吹っ飛んだ。いま鳴らすべきサウンドが良いだけに「結局、ヴァーヴかよ」と僕は思った。ファン・サービスなんていらないから、もっと前進して欲しい。

スマッシング・パンプキンズ:マウンテン・ステージ
 ここで決断の時。もともと僕はイールズ目当てだったのに、会場の異様な熱気に押されてマウンテンにいることにした。僕はスマパン直撃世代。でも、そんなに思い入れはなく、ライブも今回が初めてだ。隙き間なく鳴らされるフィードバック、手数の多すぎるドラム、手堅いベースとサイド・ギター。繊細さはなく「1979」でさえ、重く響いていた。踊れない、だけど叫ぶわけでもない。轟音の中で、大群衆の中で僕はひとりぼっちになった。「今夜」はそうやって過ぎて、「今日」は終わって行く。僕には、その先にあるものが見えなかった。

 この後、ソニック・ステージのオービタルを遠目に眺めつつ、ペイヴメントを待つ。でも、スマパンで体力を使い果たしてしまったらしい。アタリ・ティーンエイジ・ライオット、フリーベースは無理かな。やがて和気あいあいとペイヴメントが登場するも、僕は完全にダウン。「Cut Your Hair」が鳴り響く会場を後にした。イールズはどうだったのかな?


8月8日/2日目

 何とか体調が持ち直して、さあ2日目だ! この日はスティーヴィー・ワンダー、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、ピクシーズが楽しみ。お昼すぎ、ポカリスエットを飲みながらサーファー・ブラッドが演奏中のソニック・ステージに到着した。

ファンファーロ(Fanfarlo):ソニック・ステージ
 トランペットやバイオリン、マンドリンをプレイしながら、東欧風のポップ・ソングを鳴らす。アーケイド・ファイアというよりもザック・コンドンのベイルート(Beirut)をもっと骨太にした感じでカッコいい! マイク・スコットのウォーター・ボーイズを思い出したり。曲調に誤摩化されないヴォーカルの歌唱力も大したもの。素晴らしい!

ダーウィン・ディーズ:ダンス・ステージ
 80sのファッションでばっちりキメたメンバー4人が颯爽と登場。スパイク・ジョーンズが監督したファット・ボーイ・スリムの「Praise You」みたいなダンスが楽しい! エレクトロ・ポップと宅録ファンク(?)がいい感じで混ざり合うサウンドでパーティは盛り上がった。でも、ギタリストは男だったんだね。ずっと女の子だと思ってた!

バンド・オブ・ホーセズ:ソニック・ステージ
 ソニック・ステージに移動して、ドラムスを見ながら軽く休憩。そして、ステージからちょっと離れた位置でバンド・オブ・ホーセズの演奏を楽しんだ。ニール・ヤングやウィルコを連想させる雄大でキャッチーな楽曲とステージ後ろにセットされたスクリーンの映像が美しくシンクロする。本当にいい声だ。いつかマリン・ステージの星空の下で見てみたいと思った。

ホール:マウンテン・ステージ
 BRMCまでのんびりしようかと思っていたけれど、やっぱりホールを見ることにした。1曲目はストーンズのカバー「悪魔を憐れむ歌(Sympathy For The Devil)」。これがまったく予想以上にカッコいいのでビックリした。ギタリストは元ラリキン・ラヴのミッコ・ラーキンなのかな?バンドの演奏はこなれていない感じで、コートニーの声も嗄れている。調子っぱずれなリッケンバッカーをかき鳴らし続ける黒いワンピースのビッチ。彼女はもう、ロックンロールにすら愛されていないのか?セレブでもなく、ゴシップ・クイーンでもないその姿。僕は久しぶりにパンクを見た気がした。そして、アコギ1本で歌われたレナード・コーエンのカバー「Take This Longing」に涙。「私の舌からこの憧れを、私が手にしたすべての孤独を取り去って欲しい」と歌われる瞬間にすべてがあった。未だにグランジと形容されてしまう音楽、拙い演奏技術を超えてゆくエモーショナルな瞬間。僕は本当に感動した。

ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ:ソニック・ステージ
 ホールに感動しすぎたせいで、ちょっと遅刻。「Ain't No Easy Way」に間に合った! 新加入の女性ドラマー、リアはタイトでキレがある。僕はドラマーの交代に賛成だ。最終曲「Whatever Happen To My Rock 'n' Roll」まで一気に突っ走る。ギターとベースのセッティングはどうなっているんだろう? エフェクターとアンプを見せてもらいたい。轟音なのに、まったく耳が疲れない。最高に気持ち良かった!

スティーヴィー・ワンダー:マリン・ステージ
 さあ、次はいよいよスティーヴィー・ワンダーだ! フジロックでの雨ざらし、昨日の発熱と今年のフェスはボロボロだったけれど、この頃には完全に快復! スタンド席を何とか確保してスティーヴィーの登場を待つ。やがてスタジアムの照明が落ちて、ハーモニカの音が海風に乗って響き渡る。スティーヴィーの登場だ。ファンキーなハーモニカのリフから1曲目の「My Eyes Don't Cry」へ。そして「Stay Gold」の美しさに涙。僕は映画『アウトサイダー』を見て、初めてこの曲を知ったんだ。その後も名曲/ヒット曲を連発して、ちょうど9時にライブは終了。ありがとう、スティーヴィー!

ピクシーズ:ソニック・ステージ
 ありがとう、スティーヴィー...9時きっかりに終わってくれて。メッセへ猛ダッシュして、なんとかピクシーズに間に合った。ZEPP東京で見た再結成後の初来日ライブは本当にカッコ良かった。ハゲ男3人、デブ全員という風体になってしまったけれど、この日もサウンドはキレキレ! 僕は「Planet Of Sound」から合流。「Debaser」「Where Is My Mind?」「Gigantic」から最後の「Here Comes Your Man」まで、やっと大声で歌うことができた。最高! ニール・ヤングのカバー「Winterlong」もプレイしたと後で知って、ちょっと残念だったけれど。

 レディオヘッドのまさかの「『Creep』解禁」やオアシスの「ザ・ラーズ1時間待ち&大合唱」、フレーミング・リップスの「人間タマ転がし」みたいな伝説の夜にはならなかったけれど、本当に素晴らしい音楽を全身に浴びることができた。終わってみれば、開催前の不安もしっかり解消。参加しているファンもみんな笑顔だった。海外フェスも含めたブッキングや日程の調整、やっぱり安くないチケット代、新しいファンを開拓するため(?)の無茶とも思えるアーティストの起用などなど、サマソニには気になることがあるのも事実。でもやっぱり、サマソニは楽しい! 来年はキングス・オブ・レオン、R.E.M.あたりをぜひ!

(犬飼一郎)

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