THE LIKE『Release Me』(Downtown)

thelike.jpg パッとジャケットを見た限り、どこからどう見ても2010年のアルバムとは信じがたいデザイン。スウィンギン・ロンドン? モータウン? 即座に想起させられるのは麗しの60年代ポップス黄金時代。フランス・ギャルもビックリなメンバー4人のルックス偏差値のハイスコアっぷりも、彼女たちのとっている決めポーズも、どれもいちいち素晴らしい。出来ることならCDでなくアナログ盤で所有して部屋に飾りたくなる。

 しかし一方で、メンバー各々の衣裳に≪LIKE≫とゴシック体で書いてしまうセンス。これはとても2010年の気分を感じさせる。うまく言えないけど、たとえばOK GOの最近出したPV(「This Too Shall Pass」)がとても今っぽいというのと同列の意味で今の気分。

 どんなレコードも基本的にそうだが(例外もままあるが)、ジャケットは音を裏切らない。とはいえ大半は《ジャンル的には》裏切らないという程度の話でしかないなかで、見た目に対する期待を裏切らないどころか大いに上回るクオリティーの作品となるとイマドキ随分珍しい。ロネッツからダム・ダム・ガールズまでに通じる甘酸っぱい疾走感をもった、ジャケットの世界観そのままの60年代マナーなガレージ・ポップがアルバムのほぼ全編で展開されているが、特筆すべきは楽曲のテンションと完成度が異常なまでに高いこと。そして、先述のとおりで音のほうもこの手の意匠を貫きながら強く「今」を感じさせるところも目を惹く。

 プロデューサーがマーク・ロンソンというのも興味深さに拍車をかけている。広義の意味でのポップスに関して、過去から現代に至るまでの抜群の教養と応用能力をもつことで知られる人物だ。彼のもっとも有名なプロデュース・ワークであろうエイミー・ワインハウスの『Back To Black』で披露されたソウル~R&Bから多岐に渡るブラック・ミュージックの引用/咀嚼と現代的解釈に基づいたアプローチが、本作ではそのままガールズ・ポップに品を変えて応用されている。とろけそうなバブルガム・ポップ的コーラス・ワークを始め、ツボを押さえた匠の技が目を見張る。

 バンド側もしっかり彼の仕事に応えている。メロウでときおり歪まされる音色が白昼夢のようですらあるオルガンのフレーズや、モッズ・バンドやリバプール・サウンドからインスパイアされた(というか拝借スレスレ)であろうソウルフルなベース・ライン(楽曲でいえば特に「Narcissus In A Red Dress」辺りに顕著な)の存在感は格別だが、弾いている二人はどちらも新メンバー。間違いなくこの路線を貫くためのメンバーの入れ替えで、彼女たちは劇的なまでに活躍している。

 楽曲のもつ現代性をより引き立たせているのは彼女たちのもつ先天的なセンス。そもそも、このバンドの音楽性はかつてぜんぜん異なるものだった。バンビちゃんジャケが愛らしかった4年前のファースト・アルバム『Are You Thinking What I'm Thinking?』は、適度な攻撃性が心地よく、売れる要素としての人懐っこく大味な「ヌルさ」も併せもった(これは誉め言葉)メインストリーム向けのオルタナ・ロックで、まったくこんなにレイトバックしてなかった。そんな出自でもある彼女たちの紡ぐメロディ・ラインは、特にサビにおけるフックの捻り方において、60年代ポップを気取るにはどうにも垢ぬけすぎているが、何度聴き返しても飽きさせない享楽性を楽曲に孕ませている。収録曲全体でも随一の疾走感を誇る「Trouble In Paradise」辺りはもはや完全に、いい意味で「フツーのインディ・ロック」。うわべの模倣の完成度と隠せない地の部分の強固なまでの不一致、オールド・タイマーなノリと今っぽい気分の衝突が、楽曲にアンバランス且つワン・アンド・オンリーな推進力をもたせている(この辺は、アークティック・モンキーズの前座も含めて長年ツアーを回った成果もあるかもしれない。実際、アレンジの装飾を抜きにしても、前作と比べてサウンドがとてもタフだ)。

 そして、この手の志向を標榜するバンドの多くが陥りがちな内向的オタク性とも、最近のバンドでいえばザ・ドラムス辺りがもっている過去の音楽への病的なまでの郷愁と執着心とも本作は無縁だ。あくまで「ただ何となく好きだからノリでやってる」というスタンスが心地いい(別にオタク系バンドが悪いとは言わない。むしろ大好き...だけどね)。

 この辺の根の軽さは、彼女たちのセレブリティなバックグラウンドから起因する余裕から生じているのかもしれない。元々、オリジナル・メンバー三人は著名なミュージシャン/プロデューサーの娘たちで(シャーロット・フルームのみ前作リリース後に脱退。彼女はあのミッシェル・フルームの娘...)、本作に収録されたシングル曲「He's Not A Boy」のあまりに浮世離れしてスウィンギンなPVを撮影したのがコッポラ・ファミリーであるGia Coppolaで。名だたる大物バンドとツアーを回っていたり、先述のマーク・ロンソンとドラマーのテネシー・トーマスは過去に付き合っていたり。そのテネシーは「HOT FUZZ」「ショーン・オブ・ザ・デッド」で日本でも知られる映画監督、エドガー・ライトの新作「Scott Pilgrim vs. The World」にも女優として出演しているそうだ(これは素晴らしい。というか早く観たい!)。

 話が逸れたが、そういった今も昔もある程度の天真爛漫が許される環境にいたからこそ、リカちゃん人形的着せ替え気分で選んだ今回のモードがたまたまコレだった、というちょっとした趣味性でしかない確固たる芯の不在が逆に痛快でもあり(とはいえ、親が親だけに過去の音楽への聴き込み方もまた半端ないレベルだろう)、全く頭デッカチにならない風通しのよさを生む要因となっている一方、次回は次回でまったく違うことをしそうでありつつ、バンドが今回選んだ進路を突き進む為には容赦なくメンバーを入れ替え、適材適所でVIPを据え、見た目から演奏に至るまで選択したモードを徹底する意志の強さも逞しい。ユニークなバランス感覚をもったバンドだと思う。

 そういう意味で偏ったジャンル物の落し込み方として、ピペッツ(こちらもフロントマン全員総入れ替え後、初の新譜がもうすぐリリース!)やラッキー・ソウルにもたしかに近いが、それ以上に『エクスターミネーター』までのプライマル・スクリームのノリを少し思い出した。当たり前の話ではあるが、ここまで極端なコスチューム・プレイが誰にでも許されるわけがないのだ。にしても、フロントマンのZ・バーグ始め各メンバーはすっかりハマリすぎている。可愛い。超可愛い...。

 いずれにせよ、本作に関してはあまり小難しいことを考えず、出来るかぎりの爆音で聴き、音楽に合わせて踊りまくるのが正しい鑑賞法だろう。ほぼ全曲クラブ・ユースに耐えうるし、YouTubeで観た限りライブも物凄そうだ(どうか来日を...)。ポップスの旨みと軽みを今一度思い出させてくれる、本当の意味での感動作。

(小熊俊哉)

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