ミステリー・ジェッツ『セロトニン』(Rough Trade / Hostess)

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 『NME』が勝手にネーミング付けをした「テムズ・ビート・シーン」は根付かなかったが、そこにはイメージの罠もあるとは思っている。

 例えば、ジル・ドゥルーズは、モーリス・ブランショを参照しつつ、ニーチェのアフォリズムの麗しさは、「外との関係」に由来するものだ、と述べた上で、「内部」という概念については、魂や意識の内部であろうと、本質や概念の内部であろうと、結局は、いつも哲学の原理となっており、哲学の様式をなすということは、外部との関係がそのなかでいつも疎外され、なんらかの内部によって、内部の中に解消されているということだとしたら、ニーチェの概念は反対に、思考やエクリチュールを外との直接の関係のうちに築いているとも言う。そもそも、美しい「何か」とは額縁に収められたその線が、よそからやって来るということであり、その線が額縁の枠内で始まるのではないということがわかり、そしてそう感じる瞬間を差し、強度の線は額縁の枠の外からやってくる、ということも含む。

 また、そういうコンテクストで言うならば、芸術とは外部の強度と「接続」されるものであり、芸術とは外部からやって来た強度に横断されてしまうものである。となると、テムズ・ビートの故郷と言えるイール・パイ・アイランド(-トゥイッケナム)というトポスは、多様な外部からの諸力がやってきて交錯し横切ってゆくような場所として機能しており、ボヘミアン的要素が強い訳で、芸術が横断し易い磁場を提供していたと言える。

 過去にしても、イール・パイ・アイランドは有名な場所で、様々なロック・レジェンドが訪れつつ、THE WHOがレコーディング・スタジオを作ったりしている。なお、テムズ・リバーの小島のイール・パイ・アイランドとロンドンを繋ぐ橋のロンドン側がトウィッケナムで、全くロンドン「ではない」ムードが漂う。当時では、解散したLARRIKIN LOVE、JAMIE T、THE HOLLOWAYS、MYSTERY JETSを始めとして一連の音に共通するものはトラディショナル・フォーク、スキッフル、ケルト・ミュージックへの憧憬であり、要はヒッピームーヴメントの共振という側面性「だけ」で言えば、近年のフリーフォークに近似値を描いていた。また、リリックは明確にワーキング・クラスとしてのシビアな吐露とデカダン的な文学要素の強い内容に終始し、「ストーリーテリング」の様相も強くあり、僕自身は、ここをシーンとして「名づけてしまう」ことには抵抗感があったものの、それぞれのサウンドスタイルも近いものの、スピリチュアリティ、アティチュードは「一貫」していたとは思ったし、ランボオ的な無為さを感じたが、周知のように、「シーン」としては隔絶した形を取った。

 そこでの生き残り組にして、ロマンティックにサイケなロックを求め続けているMYSTERY JETSのサードアルバム『Serotonin』がなかなか面白いことになっている。XTC、10cc、ELOなどの名前を挙げてもいいだろう極上のメロディー・センスとサイケデリアはセカンドより更に推し進められて、しかしながら、ネオアコやアノラック的なムードとは疎遠なのが面白く、今回、ラフ・トレードから出るという意味含めて、どうにも麗しいまでのオルタナティヴィティを発揮している。

 プロデューサーにビートルズやロキシー・ミュージックとも仕事をしてきたクリス・トーマスを選んだ時点で、僕にはジェームス・フォード、エロール・アルカンと渡ってきた彼等の迷走の気配も感じたのだが、これまでで一番、ボトムの落ちた音になっているのは功を奏したと言え、シンプルに締まっている。ファースト時点では、ブレイン・ハリソンの父親が混ざっていたのもあり、どうにもヒッピー的な雰囲気が漂っていたが、セカンドでは意識的に4人の音としてファーストの自分たちを対象化してみせた。ヒットした「Two Doors Down」の80年代のMTV全盛時代に流れていてもおかしくない、キラキラした旧さは、「新しかった」。

 そして、日常生活、恋愛から、うつ病や神経症などの精神疾患(無論全てではない)に至るまでの影響があるとされる「セロトニン」というキーワードをアルバム・タイトルに付与して、更にファンタジーを曳航させた。これをして三部作と称しているだけに、彼等が描いてきた軌跡を総括するような鮮やかな作品になった。次への橋渡しとしても、期待が出来る。いつの時代でもこういったロマンティックな音楽とは、「外部」を内部化しながら、内部から外部への横断を試みる。

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