ロックス『メモワール』(Rough Trade / Hostess)

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rox.jpg エイミー・ワインハウスやアデル、ダフィといった、オールド・マナーのシンガーはUKでヒットを飛ばしている。やはりモッズの伝統がある国、ソウルやブルースといったブラック・ミュージックをルーツとしたサウンドはウケるのだろう。

 このロックスも、その流れを汲んだ2010年の注目株。毎年、その年のヒットを予測するBBC SOUD OF 2010にもノミネートしている。本名ロクサーヌ・タタエイという名の21歳は、ジャマイカ人とイラン人のハーフで、幼少のころからロンドンのミュージカル劇団に所属しステージに立ってきた実力派。待望のデビュー・アルバム『Memoir』も質の高い内容に仕上がっていた。そして、何より上記のシンガーたちより、最近ではコリーニ・ベイリー・レイなんかに近いような、記録や記憶より、耳の奥にずっと残る感じ、そんな印象を受けた。

 ジェイZやアリシア・キースを手がけたアル・シャックスがプロデュースし、ローリン・ヒルやメアリー・J・ブライジ、シャーデーなどをフェイヴァリットに挙げるセンスが前面に押し出されている。楽曲においては、シングルとなった「No Going Back」や「My Baby Left Me」といったキャッチーなトラックはあるものの、全体的にはダウンテンポのしっとりとしたメロディと歌声が際立つ。モータウンやソウル、レゲエなどをベースにしたサウンドもとても美しい。華々しくヒットチャートのトップを駆け上がることはなかったのが残念だが、このロックスはジワジワと人の心を捉えていくタイプのシンガーなのだろう。

 筆者は幸運にも、一夜限り行なわれた彼女の日本でのステージに立ち会うことが出来た。アコースティックのみのセットで、伸びやかで可憐な声にはしばし聞き惚れてしまった。失恋をテーマにしつつ、悲しみを提示するだけではない強いリリックのように、まだまだシーンに生き残って欲しいと思う。今後の期待を感じさせる逸材だ。

(角田仁志)

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