ジェームズ・ユール『ムーブメント・イン・ア・ストーム』(Moshi Moshi / Imperial)

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jam.jpg 困っちゃうんだよなホント。こんなに良いエレクトロ・ポップスを作られてしまうと、(エレクトロニカ・ファンの僕としては)エレクトロニカはもはや大衆音楽として働いていないのかな、なんて、思ってしまう。というのも、Chees Clubからデビュー7inchシングル「NO SURPRISE」をリリースし、絶賛されたイギリスのジェームズ・ユール(彼はジャケットのイラストそっくり)。親日家でもある彼が<Moshi Moshi Records>から発表した本作『Movement In A Storm』は、エレクトロニカだろうとテクノだろうと、ハウスだろうとトランスだろうと、結局のところ全部文字通りの意味でポップじゃないか! という具合に、ぱぱっと手品みたいな手さばきでポップな部分を選り抜く。そして誰もが楽しめるエレクトロ色満載のポピュラー・ミュージックにしてしまう。
 
 冒頭の「Give You Away」からして気持ちいい。4つ打ちを上品に響かせ、抑制されたジェームズの歌声と女性ヴォーカルのコーラス、そして破綻のないメロディが、ただのダンス・ミュージックではなく寝起きに聴いても心地いいであろうポップ・ソングとして息をしている。2曲目の「Crying For Hollywood」だって4つ打ちの上に乗るアコースティック・ギターの音色がソフトで良い。思わずほほが緩んでしまう。クラブではなく太陽の下で聴きたいエレクトロニック・ミュージックなのだ。
 
 しかしエレクトロニクス音のみで語れるアーティストではなく、彼のメロディはセンス抜群である。仮にハー・スペース・ホリデイが浮遊感を目指したとしたら、ジェームズ・ユールはたとえギター一本と歌声でも真っすぐ胸に響く甘美で地に足がついたメロディを奏でられるシンガーソングライターだ。ニック・ドレイクから多大な影響を受けた彼のメロディはゆったりと、しかし哀感を含んでいてたおやか。その様がもっとも窺える楽曲は4曲目の「Foreign shore」だろう。するりと染み込み、感情の温度を下げられてしまう演奏の素晴らしさ。彼のシンガーソングライターとしての誇りの高さを感じた。ジェームズ・ユールのMySpaceのジャンル名に「フォーク」という文字があるのも納得できる。
 
 それにしてもエレクトロニクス音の使い方が本当に巧い。これはテクノかエレクトロニカなのか、なんていう議論が起こらないほど自分のものにしてしまっている。良い意味でジャンルへのこだわりがないのだ。もしかしたらエレクトロニック・ミュージック界も、様々なジャンルを同列に見立てるアーサーラッセル的な、つまりはジャンルによる区別がさほど重要ではないところまで来たのかもしれない。それを「ムーヴメントは激動の中」というアルバム・タイトルが物語る。でもタイトルとは裏腹に、踊ってよし、鑑賞してよしのかわいいサウンド。ただしジャケット同様、お酒はあまり似合わないです。ビスケットかじりながら聴きたい感じ。そんなところもかわいい。

(田中喬史)

 

*日本盤は7月21日(水)に Imperialよりリリース予定。スペシャル・エディション版はデビュー・アルバム『ターニング・ダウン・ウォーター・フォー・エアー』をカップリングしたスペシャル・プライス盤となっている。【編集部追記】

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