CEO『White Magic』(Modular / Sincerely Yours)

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ceo.jpg 本作はタフ・アライアンス(The Tough Alliance)という、つい最近まで活動していたスウェーデンのポップ・デュオの片割れ、Eric Berglundのソロ・プロジェクト始動後最初のアルバムである。

 タフ・アライアンスは本当に愛すべきグループで、M83辺りを≪エレクトロ・シューゲイザー≫の先鋒と位置付けるなら、彼らの音楽性を言い表したジャンルはまさしく≪エレクトロ・ネオアコ≫。ワム! やギャングウェイ、スクリッティ・ポリッティに通じるポップ極まりない陽性の青臭いメロディと、80年代終盤~90年代初頭のマンチェスター・サウンドからの色濃い影響やトロピカルなムード(それこそ今のシーンの流行を先取りしたような!)に、アヴァランチーズのもつ現代性も兼ね備えたバレアリック・シンセ・サウンドがとても心地よい高揚感に満ち満ちていた。一方で自ら<Sincerely Yours>レーベルを立ち上げ、ジェイジェイ(JJ)やエール・フランス(Air France)といった自身の音楽性と共振する優れたグループも輩出し、ここ数年のインディ・シーンでもひと際異彩を放っていた。

 ユニークなのは音楽性だけではなく、楽曲の与えるイメージとしての線の細さに反した、己の幻想を貫くための思想的過激派な一面を兼ね備えているところにあった。「First Class Riot」という曲で、美しすぎる光景や人生における輝かしい瞬間について「今もまだ死んでない、そういったものは買うことができない、(そのことが)First Class Riot」と歌ったところや(俗にいう「青春ポップス」のなかでも自覚的でインテリ趣味な楽曲がもつ攻撃性を一言で言い表した、とても鋭いラインだと思う)、ライブにおいてはほとんどカラオケで、メンバーの二人は金属バットを振り回したりスニーカーを手にはめたりしてひたすら踊り騒いだというエピソードなど狂気スレスレの芯の太さを感じさせるし、それを聞くと少女たちが縄跳びをして戯れる光景を延々垂れ流すだけの「Silly Crimes」のPVも違った見方をすることが出来る。たとえば40代を超えたカジヒデキが今でもあのスタイルを継続することである種の凄みを帯び出しているように、ある一線を越えると悶々とした中二病妄想癖は遁世的でいたまま「反抗」へと転化し得る。

 で、最近もそういった路線で話題になったバンドがいた。そう、ザ・ドラムス。僕は彼らがタフ・アライアランスにシンパシーを抱いているという(当然といえば当然な)事実が以前から面白くてしょうがなくて、インタビューでそのことに触れたときのジョナサンの満面の笑みと饒舌っぷりも可愛らしく、今でもとても印象に残っている。

 しかし、気がつけばグループは解散し、そしてCEOである。「あるとき海に行くと嵐に見舞われ、途方もない孤独にさい悩まされていたら突然、啓示が訪れ、数千の天使が囁いたんだ。ceo、ceo、ceo...って。すると大波も怖くなくなった」そんな本人の実体験がCEOと名乗るきっかけになったそうだ。って、何ともコメントしづらい...。色々なインタビューに目を通した限り、彼はとても繊細で、理屈っぽくて、変な拘りと美学をたくさんもった人物のようだ。それぐらい緻密で傍目から見て面倒くさいエゴに満ちた人物でないと、先に挙げた「反抗」なんて到底なしえないのだろう。

 そんな彼のパーソナリティが反映されたのか、このアルバムにはタフ・アリアランス時代に比べて若干のアーティスト志向が目につくところはある。冒頭「All Around」で流れるストリングスは従来のダンス・ミュージックのアレンジメントというよりは室内楽的で、同様の演出は「Oh God, Oh Dear」にも用いられている。曲名やジャケットのアートワーク(タイトルもアートワークも自分が大好きな「白」を強調することから決定したとのこと)、オフィシャル・ページにおける少しキナ臭い声明文にも見られるように、過去よりも幾分スピリチュアルでシリアスに、そして一人になったぶん内省的な方向に傾いているのはたしかだ。解散したのもなんとなく頷ける。

 いずれにせよ、そういった要素もアルバム全体の統一感を損ねることはなく、ドリーミーで天真爛漫だった音楽性はそれほどは大きく変わっていない。抜群のフックをもった二曲目の「Illuminata」からテンションは上向きにシフトしだし、ネオアコ・マナーに則った出だしの手拍子も素敵な「Love And Do What You Will」や、4分半程度のリズムの反復が快楽的すぎるあまり永遠に続きそうな錯覚を引き起こす「White Magic」は、まるでアニマル・コレクティヴ『Merriweather Post Pavilion』の楽曲をセイント・エティエンヌがリミックスしたような、独特の清々しさとダイナミズムが漲っている(ザ・ドラムス同様、CEOも<Sincerely Yours>の面々も、当然のごとくセイント・エティエンヌをこよなく愛しているそうだ。そろそろ彼らの功績に見合った再評価の動きが出てきてほしい...)。バタバタしたトライバル・ビートに神々しいコーラスが重なる「No Mercy」もいい。楽曲中でところどころ鳴る「キュイーン」という音は日本刀を使っているそうだ。刃物の類で一番鳴りがよかったからとのこと。なんじゃそりゃ...。

 そして何より特筆すべきは、オフィシャルHPで先行リリースにシングルカットもされ、先述のインタビューでジョナサンも一日30回は聴いていたと告白していた「Come With Me」だろう。煌めくシンセ・サウンドにチルディッシュなサンプリング・ヴォイスを伴い、訴えかけるように「一緒においでよ」と連呼される。透明感漂うエレ・ポップ調の美しいこと...。トトロと変な仮面が一緒に出てくるおかしな味わいのモノトーン調PVもよかった。自身が子供のころに繰り返し歌ったというスウェーデン語の「Den Blomsterid Nu Kommer」でしおやかに締められるというのも後ろ向きで内向的な夢想家といった趣でアリだと思う(関係ないけど、同じくスウェーデンのロビンも近作を同様の構成で締めていたのも面白い)。

 ここまでハラハラするほど美しいアルバムの収録時間が28分だなんてイジワルだけど、その食い足りなさのおかげで何度も何度も聴きたくなる。昔より少し生真面目になったぶんメロディはより哀愁を帯びて、エンドレス・サマーなフィーリングも以前より高まりつつ、MGMTの近作がもっていたシニカルさともチルウェイヴ/グロファイ勢のアンニュイさとも違う、気高く瑞々しいポップ・サイケデリアがここには展開されている。

(小熊俊哉)

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