曽我部恵一「サマー・シンフォニー」12"(Rose)

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sokabe_summer.jpg 個人的に、夏になってくると、メルロ・ポンティ的な意味で「視」る人になる。それは薄着の女性や汗を掻いてはしゃぐ子供たちや含めて、どうも夏の粒子というものが可視化されると言おうか。「人の視覚能力は特定波長」に限定されており、赤外線・X線など見えない。でも、他の生物は色々で「周囲に磁場を持つ(魚類など)」「熱を感じ取る(蛇など)」といったように『光=波でかつ粒子』の物理学上の"光の特殊性"(重力などと並び4つの基本)にも関連し、「人間の皮膚にそれらを感知出来る器官・能力の可能性」が「視線を感じる」に結びつくと、パトスが夏の催いに掻き消える。

 Ototoyで7月15日まで無料DLを敢行していた曽我部恵一の「サマー・シンフォニー」は「視る」人の歌。だからこそ、タイトなビート感、青く締まったリリックが速射砲のように景色を切り取る。トーキョーNo.1ソウルセットかランタン・パレードかと思わせるようなメロウネスだが、ピンと張った空気で「夏」を誤差なく鮮やかに切り取る。今年のサニーデイ・サービスのリユニオンがあり、曽我部恵一氏自体の活動も益益、活性化する中、ソロ名義でふと届けられたこの曲の透き通り方はどうだろう。サニーデイ・サービスには「サマーソルジャー」という名曲が、ソロ名義でも「夏」があったが、それとは別位相で、今回の新曲は確実に夏を射抜く。

 過去の曽我部氏の「夏」とは「失われた青きものの象徴」でもあり、また、「限りなく純粋で青かった気持ちの原点」でもあるからで、彼等が野暮ったくそこらにいる大学生然と現れた時も、どういった距離感を置けばいいのか正直理解らないようにデコレイトしており、ラヴィン・スプーンフルもはっぴぃえんども大瀧詠一も山下達郎もカタログ化されていた90年代半ばの「失われた10年」の真ん中辺りで、昔の四畳半フォーク的世界の再現と脱構築をせしめようとする試行には無謀ささえも感じたし何を葬ろうとしているのか、また何を始めようとしているのか、正直、よく把握出来なかったし、既にフィッシュンマンズが鮮やかに「夏」「休み」は歌っていた筈だった。80年代のポスト・モダンの残映の中でエコーするビートに「細部にしか神は宿らないよね」という暗黙の了解で結ばれたサバービアのインテリ崩れの僕からしたら、例えば、今年ライヴで観た小沢健二の"狙ったインでアウトな感じ"とか「レイドバックよりラジカリズムだ」、と意気軒昂に思っていた浅愚な状態が今更、気化する。

 夏の気怠い空気の中、明け方5時過ぎ、始発を待ってドトール・コーヒーで必死にレポートを書く青年。カラオケボックスでとりあえず寝てから、スタジオ入りするつもりのバンド少年少女達。「総て嫌いなの」、と嘯く水商売の右耳に3つのピアスが光っている女の子。「ロックってあの"外れていく感覚"が堪らないんですよね。」という心優しき全身タトゥーのステディ・ボーイ。グレッチのあの重さが堪らなくて、という大学生の可愛い女の子。ファッションホテルの明滅。それらの要素群が「サマー・シンフォニー」の中で浮かんでは消える。光が見えるかい?

 BABY BABY You are the ONE

 昔、ある雑誌で曽我部氏は『BLUE』というアルバムの「朝日のあたる街」という曲目に関してのインタビューでこう言っていた。

「...この作品には、労働者階級、ワーキングクラスの人達の視点から見た歌しか入ってないけど、アッパークラスのお金を凄く儲けてる人達にとっても、やっぱり心境は一緒だと思う。海が見たい、そこに何か絶対的なものがあるんじゃないか、今の自分を変えてくれる何か、もしくは優しく自分を包み込んでくれる何かって。そういうふうに思ってるのが現状だと思う」

 僕もそれは同感の旨がある。

 アッパーもアッパーミドルもミドル・ミドルもロウアー・ミドル、ロウアーも今の時代、何かしらの空虚感を持っていて、それぞれにとっての「海」を観に行きたがっている。その「兆候」は感じる。フリッパーズがバブルの終焉間近に『海に行くつもりじゃなかった』と言っていた時代から10年以上が過ぎて、どうもそういう事になっているようだ。

 繰り返そう、「サマー・シンフォニー」に劇的な「何か」はない。簡素なビートと、芯のあるベースラインが太いグルーヴを作り上げ、その上に爽やかなアコースティック・ギターのコードストロークがかき鳴らされ、鍵盤は印象的なフレーズが並べられる。ポエトリー・リーディングのような、かのフィッシュマンズの問いかけのように彼のボーカリゼーションが新しいフェイズに入っているのも含めて、これは夏休みを終わらせる為の「シンフォニー」じゃないだけの曲だ。「空中キャンプ」の中で過ごしていた人にアイスクリームをお供に、無限の夏を確約する。その確約は共約不可能性を帯びるのだが。

(松浦達)

*12インチ・シングルは8月前半にリリース予定とのことですが、かなりのD.I.Y.リリースゆえ、このレヴューのアップ時現在まだ日程が確定していないようです。曽我部恵一オフィシャル・ページでご確認ください。【編集部追記】
http://d.hatena.ne.jp/sokabekeiichi_news/

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