RUXPIN『I Wonder If This Is The Place』(n5MD)

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 聴きやすく、ポップだが、実のところ問題作と言える。あるいはアーティストの意図から離れ、リスナーの音への意識改革作とでも言うべき作品になっている。このエレクトロニック・ミュージックをスルーするのは勿体ない。

 個人的にオウテカが音楽の未来を背負っているかいないか、ということや、エイフェックス・ツインはテクノの神と呼ばれるということに興味がなくなり(先に挙げたアーティストの音楽は大好きだし、功績も理解しているけれども)、そんなときに見付けたこの作品は面白く興味深くあるのだ。ムームのリミックスを手掛けたことでも知られるアイスランドのアーティスト、ラックスピンの『I Wonder If This Is The Place』。

 まるでエイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works 85-92』や初期オウテカ、スクエアプッシャーなどの音楽性をサンプルと見立て、取り込んでいるかのようなリミックス中心のこの音楽は、もはや先のアーティストの音楽性はスタンダード化し、素材として自由に使ってもかまわないものだと言っているかのよう。ドリルン・ベースもミニマルな奏でも、いまはもう大衆的な音楽性であり、珍しくないことを雄弁に語っている。

 過去の作品を聴けばラックスピンが敬意を払いつつ他のアーティストの音楽性を取り込んでいることは想像に難くない。だが、それこそエイフェックス・ツインをフリー・ダウンロードしているような本作が、実際にn5MDのサイトでフリー・ダウンロードできるということに皮肉を感じるし、このユニットの、敬意を払いつつも神格化されているアーティストを神格化しない姿勢が、本作そのものを「神格化の否定」という批評として成り立たせている。

 そうして涼しげで爽やかな、なおかつ甘美で透明な美しさを閉じ込めた音色を前面に押し出し、聴き手を魅了する『I Wonder If This Is The Place』。それは、オウテカ、エイフェックス・ツインの音楽性を大衆化、または娯楽化を促進させているという意味においても大きな意義を持ち、なおかつポピュラー・ミュージックとして十分、息をしている。

 無論、本作は単なる模倣に終始しない。やわらかなエレクトロニック音が耳にするすると入り、風船が尻もちをついたような豊かな弾力が攻撃性の一切を取り除く。とてもリスナー・フレンドリーな音楽として聴ける。それもまた、ビッグネームの音楽性は難解なものではなく、とても親しみやすいものだということを示し、やはり興味深い音楽だ。前述したようにフリー・ダウンロードできるのでぜひ聴かれたい。音に酔うことができる作品にもかかわらず考えさせられるものがある。

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