クリスタル・キャッスルズ『クリスタル・キャッスルズ』(Polydor / Universal)

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 実際のムーヴメントとして意味があったと思うが、06年程から起きたニュー・レイヴに個人的に積極的には乗ることが出来なかった。それは、「ファッショナブル過ぎる」という文脈ではなく、健康的なパトスが当時のクラヴに溢れていて、原色、蛍光色系の服で身を纏った若人がクラクソンズやCSS、ホット・チップ、等のクールなサウンドに合わせてスイングする様は気分的に悪くなかったし、ふと混じるマンチェスター・サウンド、アシッド・ハウスへのレファレンスを示した音にも懐かしさを感じたのも事実だ。ただ単純に、元々、レイヴとはもっといかがわしさを帯びており、歪みが少ない点が気にもなって、実際、表層的なカルチャーのうねりに還っていく中で、実効性を喪っていったのを傍目で見ている分に辛さを感じたというのが大きい。

 デリダがバイザー効果という概念を提示したが、そこでは「見る/見られる」の関係を分析していた。そもそも「亡霊」とは、魂と肉体の二項対立を考えたときに「精神は魂でも身体でもないと同時にその双方でもあるといった"モノ"となる」と命名しがたいモノとなる精神のことを差した。要は、彼は二項対立の図式で考えた時にそのどちらでもなく、どちらでもないという差異を発見する作業を行った。また、「人が知という名のもとに了解していると信じているものの管轄には属していない。それが生きているのか、死んでいるのかは知られていないのである」と言ったが、これこそが「共時性を解体し、錯時性にわれわれを引きもどす」という、バイザー効果の理由付けとするならば、僕は明確にニュー・レイヴをして「亡霊」を視るような錯時性を持っていた。だから、「喪に服すように、躍っていた」自分は常に時間に、引き裂かれていたと言える。

 また、プロディジーがニュー・レイヴに否を唱えていた理由も分からないでもない。元々のレイヴが持つ一夜限りの「絶望的ではない、饗宴」は希望を示唆しなかった代わりに、閉塞した「今日」の順延をせしめたと言えるものの、ニュー・レイヴには「明日」はあったが、「今日」が無かった気がする。<非・日常>がレイヴではなく、実のところ、クラウドが日常に虚飾を巻いて、その瞬間に自己の忘失を描こうという背景があるとして、記号に何らかの名称を付けるべきではなかった。

 僕はもう少し記号的なダンスをしたかったと言えば、少しメタ的になるかもしれない。その意味で、ニュー・レイヴ的な渦の中で、どうにも気分が滅入るのも確かに現前していた。

 そこでの異端の異端にして救いがクリスタル・キャッスルズだったところはある。カナダはトロントのアンダーグラウンド・シーンから出てきた安っぽいエレ・ポップを鳴らすユニット。ノイズ・バンド出身のボーカルのアリスとガレージ・メタル・バンド出身のイーサンのトラッシュでニート(Neat)な音は何もかもから浮いていたし、ニュー・レイヴ勢にも、デジタリズム、シミアン・モバイル・ディスコ、ジャスティス辺りのニュー・エレクトロ勢にも、「含まれる」ことがありながらも、全くの違和の塊としてはみ出していた。そもそも、彼等のフェイヴァリットはヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ストゥージズ、ジョイ・ディヴィジョン、ソニック・ユースな故に、自然とはみ出すのは当たり前なのだが、「Crime Wave」辺りの耳触りの良さが誤配を生んでしまったのかもしれないし、かなり振り切ったライヴをするのと比して、音がコンパクトで小綺麗だったのも問題があったのだろうか。

 その後、必然的に、ニュー・レイヴ勢は停滞し、代表格のクラクソンズの次の一手を打ちだせないという状況下、シーンは明らかにシフト・チェンジした。アンダーグラウンド・シーンの充実と相反するように、表層的なレイヴの狂騒は疎外されていき、ロック×ダンスといったタームも衰微していった。そこで、届いた彼等のセカンドが実に美しい出来になっているのには、或る程度、想像は出来たといえ、嬉しかった。ローファイな質感と、シンセのたおやかさは磨きがかかり、咆哮系の曲よりも、ニューオーダーや初期のデペッシュ・モードを想わせる耽美なニューウェーヴ的な意匠の曲が断然、良い。「Celestica」などまさか彼等の曲とは思えないほどポップで、リトル・ブーツやラ・ルー辺りのサウンドさえも彷彿させる。しかし、打ち消すような変則ビートの曲やゴシックなムードも随所に挟み込まれ、異質感を耳に残す。アイスランドの教会、デトロイトのコンビニ裏のガレージ等を渡って録音されたというのも含めて、散漫さを否めないながらも、ロマンティックなまでに頽廃的な意志を前景化させた深化作と言える。

 個人的に、もっと傍若無人にフリーキーに振り切って欲しかったとも思う部分もある。だが、おそらく彼等の事だから、またそれさえも裏切るような展開を見せてくれる事を確信させてくれる透いたREBELに溢れているという点は評価したい。

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