KID606『Songs About Fucking Steve Albini』(Important)

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 ...えーと、このジャケットを見てもらえれば、あとはもう何も語る必要もない気もする。パロジャケ考現学を標榜した『すべてのレコジャケはバナナにあこがれる。』(安田謙一+市川誠・著)は僕も大好きな一冊だが、いつか改訂版を出される暁にはぜひともカラー・ページにて本作を紹介してほしい。『ミート・ザ・ビートルズ』に対する『ミート・ザ・レジデンツ』、ノイバウテンをパロったときのライアーズetc....に匹敵する、いい加減ながら適切で、悪意を漲らせつつそれに勝る愛情をもった引用。かつてレイプマン時代に「Kim Gordon's Panties」という曲を作って本人たちに大目玉をくらったアルビニ先生も、まさか10数年後にこんな素敵すぎるパロディの矛先となる羽目になるとは思わなかっただろう。ロック・ファンならアルビニ関連作品のベストは何かを議論すればそれだけで一晩過ごせそうだが、今後はこのジャケットも立派な候補になるかもしれない。もちろん本人は直接関わってないけど。

 <Important>というノイズ/アヴァン系のレーベル(それこそ、日本のメルツバウやアシッド・マザー・テンプル、灰野敬二といった方々までフォローしている)からリリースされた本作。ジャンルとしてはグリッチ・アンビエンドとなるのだろうか。ハーシュノイズで表現されたときにセンチメンタル、ときに無軌道なメロディと、シナプスが枝分かれを繰り返す様を顕微鏡で覗くような崩壊寸前のリズムによって構成された音楽は、耳に痛く突き刺さる瞬間も多分にあるが、包容感のある温かみも垣間見せ、捉えどころがないというのもそうだし、人間らしいといえばどこまでも人間らしい。かつて辣腕を振るい無茶苦茶の代名詞として、レーベルやシーンを横断しつつ溢れんばかりの悪意を振りまいた彼は、一方で恥ずかしすぎるほどセンシティヴな一面を時折覗かせた(僕はそんな彼の一面がとても大好きだ。キャリアで一枚挙げるなら迷わず『P.S. I Love You』を選ぶ)。

 不思議といえば不思議な、音のもつウォームな触感については、「このアルバムの曲は全てアナログ音源(アナログ・シンセ、AM/FMラジオ、マイク)によるものをコンピューターで構成し、2トラックのアナログ・テープでミックスとマスタリングを施した」という、ライナーノーツにある記述がそのまま要因を説明しているだろう。かつて元ネタとなったアルバムの裏ジャケで「Fuck Digital」を標榜したアルビニ先生の精神は、きちんとこういった形でリスペクトされている。単なるウケ狙いのパロディではなかったわけだ。

 意識が遠のきそうな教会音楽的低音のドローンからシンプルなメロディの萌芽が現れ出す「Dim Ego Prelude」で幕を開け、「Mild Pureed Ego」では連続的な進行のノイズが脳を揺さぶる。「Lou Reed Gimped」なんていう曲もある。このスタイルでこの曲名なら連想するのはもちろん例のアレだが、インダストリアルなノイズの狭間でサンプリングされた声が分裂神経症気味に鳴る様は、メタル・マシーンというよりはもう少し生物的な響きをもっている。15分以上に及ぶ「Periled Emu God」はノイズの音波に浸ることを許さない、漂流物が目まぐるしく通り抜けていくような展開が面白い。「Deep lid Morgue」は警報及びその被害報告が延々鳴り続くような鋭い騒音の連続で、最後の「Die Rumpled Ego」では悪夢的な金属音が讃美歌のような神々しさも兼ね備えている。変な音楽だ。

 面白いのは、今まで挙げたものも含めた収録曲のすべての意味深げなタイトルが、すべてKid606の本名「Miguel De Pedro」のアナグラムによるものだということ。彼がそうしたことで何を表現したかったのか、また、彼が自分の名前を並べ替えて全曲分のタイトルを搾り出す作業にどれくらいの時間を費やしたかまではわかりかねるが、ひとまずこのアルバムがジャケットの見た目より遥かに大真面目で、パーソナルな表現の顕われであることはそこからなんとなく検討がつく。たぶん彼の今回の試みはうまくいっていると思う。繰り返し聴けばチルアウトとしての効用も生まれそうな人懐っこさもここにはあるし。移り変わりの激しすぎるエレクトロニック・ミュージックのシーンにおいて、彼の放つ悪意は変わらず孤高なままで、何よりそのことに一番安堵した。

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