死んだ僕の彼女『Ixtab』(Natural-Hi-Tech)

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 まず、この変わったバンド名に驚き、引いてしまう人もいるかも知れない。恥ずかしながら筆者自身が実はそうで、名前は知っていたがしばらく彼らのことを敬遠してしまっていた。しかしジャパニーズ・シューゲイザー界隈での評価はすこぶる高く、その存在は気になる一方で、あるとき本作を偶然手にしてからというもの、今はことあるごとに聞き返してしまうほど中毒的にハマっている。

 死んだ僕の彼女、あるいはmy dead girlfriend(大阪のシューゲイザー系レーベルに所属するboyfriend's deadとは別)という名で活躍している彼らは、男3女2で構成されたバンドである。08年にNATURAL HI-TECHからリリースされた、少女スキップとのスプリット・アルバム「Sweet Days And Her Last Kiss」には、cruyff in the bedroomのハタユウスケ(ヴォーカル&ギター)がプロデュースを手がけた4曲が収録されているが、本作は、そんな彼らのファースト・ミニ・アルバムだ。

"イシュタム"と発音するアルバム・タイトルは、マヤ神話に登場する同名の「自殺を司る女神」から取ったものだろう。だとすれば、「死んだ僕の彼女」が「どのような死を遂げたのか」も否応なく想像出来てしまう。しかも本作の歌詞を見てみると、「腐乱した君の死体 最後の夜だとしても 一緒にいれてよかった」("WATASHI NO AISHITA MANATSU NO SHINIGAMI")、「汚れた 水の中 浮かんだ 右足」「浮かぶ死体 つまずいた」("12GATSU, POOLSIDE, UKABU SHITAI")など、不穏でグロテスク、一縷の救いも希望もないようなフレーズが並んでいる。

 だが、ひとたびアルバムを再生してみると、拍子抜けするぐらい穏やかで暖かなサウンドが流れ出す。ざらついたコード・バッキングとキラキラしたアルペジオが、ゆったりとしたリズムの上で混じり合う様子は、まるで春の木漏れ日のように心地良い。シューゲイザーだけでなく、ギャラクシー500やマジー・スターら、ヴェルヴェッツ直系のサイケデリアからの影響も強く感じさせる。男女混成ヴォーカルによって甘く囁くように歌われるメロディも、一度聴いたら病みつきになるほどポップだ。

 絶望的な歌詞と、夢見るようなメロディ。しかしこの組み合わせが実は曲者で、油断しているとまるで体に毒が回っていくように聴き手の希望を奪いさる。気付けば黄泉の淵で1人呆然と立ち尽くす自分がいる。永遠と続く死の世界で流れ続けているのは、きっとこんな音楽なのかもしれない。

 レコーディングとミックスを手がけたのは、元スパイラル・ライフの石田ショーキチ。彼らの類い稀なるポップ・センスを見事に引き出している。

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