ECD『テン・イヤーズ・アフター』(P-Vine)

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 ここまでやってくれると逆に気持ちいいですホント。最初はキワモノ的なヒップ・ホップだなと思いながら聴いていたけれども、にゃはとポジティヴに笑える瞬間に溢れている。それはエイベックスとのメジャー契約を破棄したECDこと石田義則のラップが「今日の残高」や「しがないバイト暮らし」「CD自分で作って売ってる」など、歌詞は深刻だが、貧乏な自分の自虐をスキップしているような声でひょうひょうと飛び越えていく姿が爽快であって、ある意味、達観していると思えるからだ。正直サウンド・プロダクションはチープに思えるものの、その分、ラップがすこーんと耳に飛び込んでくる。

 とにもかくにも、これ以上ないほど等身大の貧乏な自分を発する石田。少し前に流行った「負け組」「勝ち組」という言葉が死語と化した今、いわゆる勝ち組がもう枕を高くして眠れないことは皆さんご存知でしょう。その言葉に対するカウンターも何気ない語気で「マネーは紙だ。口に入れても腹は膨らまねえ」と石田は何食わぬ顔で発するものだから痛快で、これまた、にゃはと頬が緩むのだった。

 しかし思うのは、「共感」にも2種類あるということだ。おそらく「マネーは紙だ。口に入れても腹は膨らまねえ」といった旨のソーシャル・カウンター的な言葉は聴き手の共感を生むと思えるが、それは誰もが共感できる言葉に過ぎないとも言えるわけで、僕としては「誰も気付いていないが、否応なしに共感させてしまうもの」を発してほしいと思う。つまり石田義則にしか見えていない心情を、風景を、共感させてしまうレベルにまで引き上げて、高らかと発してほしいと思うのだ。

 アルバム後半では文学的なラップも聴けるが、いや、そんなお高いものじゃなくて、貧乏な自分をさらけ出している石田の目には、僕らには見えていないものが映っているはずで、一杯の酒がどう見えているのか、金とは何か、もっと言えば人生とは何か。それを彼の独自の視点で斬ってほしい。

 本作は決して駄作ではない。かといって、とんでもない傑作でもない。しかし本作を聴く限り、彼なら説教臭さなど微塵も感じさせず、ひょうひょうと、そして重みを宿して世を斬り、リスナーが発見を感じる「今まで気付いていなかったが共感させられるラップ」をやってのけてしまえると思う。にゃはと頬を緩ませるほどのユーモアを交えて。

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