ザ・ナショナル『ハイ・ヴァイオレット』(4AD / Hostess)

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 2010年は、USのインディ・ロックにおいて記念すべき年になるのではないだろうか? なぜなら、USのインディをメインにしたがるピッチフォークでベスト・ニュー・ミュージックを獲得する作品が続出しているから。それに、ヴァンパイア・ウィークエンドやMGMTといった事前に大きな期待を集めてきたバンドがクオリティの高い新作を発表し、チャートでも大成功を収めている。だが、まさかこのバンドもここまで凄いことになるとは僕はまったく予想していなかった。そのアルバムとは、ブルックリンを拠点とする5ピース、ザ・ナショナルの5枚目となるアルバム『High Violent』だ(この作品もピッチフォークでベスト・ニュー・ミュージックに選ばれている)。

 ザ・ナショナルの特徴を簡単にいうなら、ポスト・パンクの鋭角的なビート×ゴシックな雰囲気。それは『High Violet』でも存分に発揮され、漆黒の闇が作品のなかに広がっている。また、このアルバムでは、スフィアン・スティーヴンス(前作『Boxer』に続く参加)やボン・イヴェールなどのゲストミュージシャンが参加、非ロック的な楽器を導入することでカントリーやフォークなどのルーツ・ミュージックの深みを取り込み、オーケストラによってサウンドスケープのスケールをぐっと増している。いわば、アーケイド・ファイアとウィルコが一緒になり、ジョイ・ディヴィジョンの曲をプレイしているようなもの。間違いなくこれはアメリカ人にしかできないものだろう。

 加えて特筆すべきなのは、暖かい人肌の温もりだ。それを生み出しているのはリリックと歌声だろう。レナード・コーエンとトム・ウェイツ、ブルース・スプリングスティーンからの影響を感じられる、ロマンスやシニカルなユーモアを綴った文学的な歌詞は、ヴォーカルのマット・バーニンガー(Matt Berninger)のペンによるもの。『High Violet』でも、マットは溢れんばかりの感情が詰まったバリトンで高らかに歌い上げ、ハーモニーがそれを優しく包み込んでいる。

 アルバムは、穏やかなイントロから滑り出し、ダイナミックなドラマツルギーがほとばしる「Terrible Love」でスタートする。その後の曲もドラマツルギーに満ちたものばかりだ。うなるようなキーボードから一転、静寂をへてオーケストラとファズ・ギターがぶつかり合う「Little Faith」や、シングルにふさわしい力強いビートや高揚感がありアンセミックな「Bloodbuzz Ohio」、脈打つようなドラムが印象的な「Lemonworld」などが続く。そして、「England」でクライマックスを迎え、「Vanderlyle Crybaby Geeks」にて厳かにエンディングとなる。すべての曲をつなぐものこそ何もないが、このアルバムはまるで1本の映画。それも、摩天楼の一夜を描いたようなスペクタクルな内容で、ただただ気高く美しい。

 この『High Violet』は世界中の音楽メディアから大絶賛で迎えられた。しかも、セールスにおいてもビルボード総合チャート初登場No.3に輝くという快挙を成し遂げた。確かに、3rd『Alligator』(2005年)とそれに続く『Boxer』(2007年)では英米の音楽メディアでその年の年間ベストを総ナメにしていた。とはいえ、この快進撃には驚くばかりだ。結成から10年あまり。長いキャリアをかけてザ・ナショナルがたどり着いた、ひとつの到達点となるこの作品は、2010年のUSを代表する1枚になるはずだ。

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