ザ・ドラムス at 渋谷 DUO MUSIC EXCHANGE 2010/06/14

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photo by Kenji Kubo

 当日は生憎の雨模様だったが、開演前には客席は満員御礼。バンドのメンバーも顔負けの80'sルックに身を包む若者がいるかと思えば、ベテラン音楽ファンと思しき貫禄ある方々もいたり。フル・アルバムの発売前にはチケットもソールドアウト。多くの音楽ファンにとって今回がいかに待望の来日だったのかは、年代もファッションもバラバラだったこの顔ぶれが何より物語っていたように思う。

 リチャード・ヘル! セイント・エティエンヌ! アンダートーンズ! と、ひょっとしたらメンバーの趣味? と妄想させられる(と思ったら、やっぱりドラムのコナーの趣味だった)BGMが鳴りやむと、アンビエントな音をバックにメンバーがステージに登場。まだ何もやってないのに客席は大盛況。

 まずはメロディアスな「It Will All End In Tears」。ステージ下手のギター、「The Stringin'」ジェイコブは弾きながらグルグル回る。上手のギター「The Twangin'」アダムは静かにかき鳴らす。そしてヴォーカルの「The Singin'」ジョナサンのアクションがとにかく熱い。文字通り熱い。全身を目いっぱい使ってクネクネカクカク動き、鋭く突きさすように客席へ向けて手を差し出す。さながら懇願でもするかのように。

 ライブは二曲目にしてアルバムの冒頭を飾っていた「Best Friend」で早くも最高潮を迎える。先述のジェイコブはギターをタンバリンに持ち替え、気でも違ったかのように勢い任せに飛び跳ね、回転し、踊る。ひたすらタンバリンを振り回し、乱打する。ジョナサンの動きはやはり...うん、キモい。二本指を突き出して何度も「キメっ」のポーズをとり、ネジが外れて妙にバネの利く機械のように鋭敏に直角に、ときにはクネクネとステージ中を飛び回る。モリッシー? ジョジョ? 江頭? かと思えば、マイクのコードを腕に絡めつけて熱唱。エフェクトを外した彼の歌声は、ロバート・スミスやブレッド・アンダーソンにも通じる、低く伸びて耽美的ですらある。レコードで聴いたはずの青春ギター・ポップから連想しうるものとはだいぶ異なる光景がそこには広がっていた。これはカッコいいのか? アリなのか? 大アリだ。世に数多いるシャイで日和見なインディー・ギター・バンドには永久に真似できないであろう、扇情的であり羞恥心もくすぐるパフォーマンスで二曲目にして彼らは客席の心を完全に鷲掴みした。

 一曲目は「どうして君は僕を憎むの? すべては終わってしまった」と失恋をオーバーに嘆く歌。二曲目は亡くなった大親友を懐古し郷愁にふける歌。どちらも女々しいと一蹴するのは簡単だが、ここまで熱の籠った演奏を見せつけられると歌は少し別の意味を持ってくる。妄想のための闘争。金色の髪を真っ黒くすればスポック役でスター・トレックに出れそうなヘアスタイルのジョナサンが、神経質極まりないオーバーアクションを留めることなく、客席を煽り続ける。

 いろいろな日本語を教えてもらったそうだが、結局「コニチハ!(しっかり言えてない)」だけしか覚えてなかったらしく、曲が終わるたびにナントカの一つ覚えのように叫ぶジョナサン。ときにはトチったり不安定なところも見せたが(元々のフレーズもシンプル極まりないし、お世辞にも彼らは演奏巧者ではない)、続く楽曲も音源以上にダンサブルでタイト。Vo、G×2、Dsの編成なのに、そこにはたしかに躍動感の推進力となる、唸る低音があった。そして、バンドの絶妙な一体感。よく言われるように彼らは80年代の英国バンドの影響を公言し、NMEも〈ベスト・ブリティッシュ・バンド・フロム・アメリカ〉と評したそうだが、あの一体感は彼らがたしかにニューヨーク・パンクの時代から脈々と流れる系譜にもきちんと属していることを証明するようだった。

「Make You Mine」は音源より緩急がつけられバウンシーなアレンジとなり、観客もそれに応えて跳ね、ハンドクラップを鳴らす。現時点でバンドの代名詞ともいえる超名曲「Let's Go Surfing」はイントロが鳴った瞬間、一気に興奮のるつぼに。客席には諸手をあげた観客の<波>が合唱とともに出来あがり、ジョナサンは歌いながら空いた手をしならせて一人、<波>を漂わせる。シャツは汗でびっしょり濡れている。そして「Saddest Summer」での疾走感はそのものずばりパンク!

 アンコール二曲目の「Down By the Water」でバンドの抒情的で繊細な一面も強調し、最後に、永遠の愛を渇望する若者たちへ捧げられたジョイ・ディヴィジョン的なサウンドのアンセム「Forever And Ever Amen」で再び情熱的なステージングを披露してライブは幕を閉じた。最後にジョナサンは「アリガトウゴザイマス!」と絶叫。アンコール前にステージ袖に戻ったときに教えてもらったのだろうか。本当に可愛らしい。

"ぼくらはひとつ いっしょに勝つんだ
ぼくらは若い ぼくらは永遠に生き続ける"

 これは「Forever And Ever Amen」からの青臭すぎる一節。バンドが今後どういう成長を見せ、どういう方向に進むのかはまったく検討もつかないが、そんなこととは全く関係なく、この日見せた彼らの初々しすぎるピュアネスに僕はすっかり心を打たれてしまった。永遠を謳うドラムスには酷な話かもしれないが、過去にも未来にも再現や追体験が不可能な、人生の長い年月のなかに舞い降りる偶然にも似たこの一瞬を渇望し、目撃することこそがポップ・ミュージックを聴くこと、ライブへ足を運ぶことの行動原理のはず。その逆説的な尊さを「今」の彼らは再確認させてくれた。まもなくサマソニで再来日する予定なので、惜しくも見逃してしまった人たちは是非とも!
(小熊俊哉)

*会場名に間違いがございましたので、修正しました。本当に申し訳ありませんでした。ツイッター上でご指摘くださったjt(@mmuuji)さん、ありがとうございました!【6月23日16時50分追記】

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