オウテカ『オーヴァーステップス』(Warp / Beat)

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 数々のエレクトロニック・ミュージシャンがメロディ志向や生楽器の大胆な投入、またはダンス・ビートの強調へ向かう中、そんなことはおかまいなしと突き進むオウテカ。音を徹底的なまでに研ぎ澄ませ、繊細でいて複雑な一つひとつの音が持つ情報量に圧倒される本作『Oversteps』は、まったく、ほんとうに、作り込まれた一音が尋常じゃない。それだけでオウテカは聴き手を自陣に一気に引き入れる。もうその時点で勝負ありだ。

 初期の傑作『Amber』や、かなりIDM的な『Incunabula』と比べられることが多い本作であるが、とぎれとぎれのポップ性を散りばめ、精密な構築美と、乱暴とも言える破壊美。その両極端の美しさを同時に鳴らしてしまう点は、いやはや、耳を刺激し、昏睡と覚醒をも同時に誘う音の強度が増したことと相まって、過去最高なんじゃないかと叫びたくなる。しかも隙あらば背中を狙って叩きのめしにくるような緊張感があるからたまらない。ランダムなビートが渦巻くこの音楽に顔をうずめてしまえば理性など吹っ飛ぶよ。とにかく、最高潮に興奮する。すなわち、カッコいい。

 しかしこのふてぶてしさといったらなんだ。カリブーや、同レーベルWarp所属のクラークなどがダンス・ビートを強調した作品を発表する中にあって、オウテカは『Oversteps』を目の前にしたリスナーに向かって不敵に笑ってみせる。踊るのか? それとも鑑賞するのか?

 すなわち、音楽が与える人間の原初的欲求と、近代の「鑑賞する」という概念欲求を同時に煽る音を鳴らしている。しかもそれをリスナーが選択できる余地を与えるかのごとく、ノン・ビートの楽曲を交えるという、巧妙なトラップを設けているからエスプリが効いているというか、にくいというか...。

 とはいえ、べらぼうに難しい音楽ではない。紛れもなく美しく、ポップであり、聴き終えたときの清々しさといったら過去の作品にはなかったものだ。「暗すぎる」「冷たすぎる」と批評された00年代の作品を、爽快で、清々しくある本作で痛快に払拭し、光を一点に込めたような音が次々と溢れる音楽性が大胆なまでに開花した。『Incunabula』や『Amber』よりもイノセントな匂いたっぷりに。それはおそらく、音が持つ最も美しい奏でを抽出し、なおかつ楽曲にスペースを残し、様々な音を泳がせるという意味で、無意識的にマイルス・デイヴィスの『Kind Of Blue』にも通じる美をも獲得した結果だろう。

 『Oversteps』は彼らの次なる一歩の記録である。それは実に鮮やかだ。オウテカを敬遠している方にも薦めたい。素晴らしいよ。

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