カリブー『スイム』(Merge / City Slang / Hostess)

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「書を捨てよ、町へ出よう」とはいったもんで、引き籠ってばかりじゃあ頭でっかちになるばかり。おまけに人との会話も億劫になってしまうから困ったもので、「書を捨てよ、町へ出よう」に賛成だ。町へ出て、色々なことを体験した方が良い音楽作れそうだし。ところがどっこい、数学博士でもあるダン・スナイスことカリブーは、まさに部屋に閉じ籠る音楽オタクなのだった。

 オタク属性特有の「できれば分かってほしいけど、分かってもらえなくてもかまわない」という、音のこだわりをもってして、もともとは純粋と言えるエレクトロニカを奏でていたが、作品を発表するたびに音楽性は変化し、それはエレクトロニカ・シューゲイザーであったりサイケデリック・ロックと表してもいい作品だったりした。そのどれもに彼の音マニアとしてのこだわりとシューゲイザーへの愛が刻印されていた。

 本作『Swim』はダンス・ミュージックではあるものの、それは表面上だけで彼の音マニアとしてのこだわりは絶対的なまでに貫かれている。しかしダンス・ミュージックという非常に分かりやすい要素を取り入れたことで、彼の「分かってもらえなくてもかまわない」というオタク的スタンスは崩壊し、リスナーの「うん、分かる、分かる」という共鳴を生んだ。と同時に、同じオタク属性の、音マニアからも支持を受ける結果となった。もしリスナーを強引にクラバーと機材オタクに別けたとしても、本作はその両極端のリスナーを同時に包容してしまうほどに作り込まれた音とダンサブルな音に溢れる。そこにこの音楽の魅力がある。

 同じく音マニアのフォー・テットと比べてみるに、両者の違いはジャズをルーツに持つフォー・テットが豊かな演奏技術に裏打ちされた音楽性を押し出す中、カリブーは部屋に引き籠り、うんしょ、うんしょと、脳内世界を具現化しようとしている感じである。いわば、仮にフォー・テットが体育会系ならばカリブーは理系である(実際に数学博士なわけだが)。ひょろひょろで肌は青白く、太陽は僕の敵という感じの、絶対クラブに行かなそうな音楽オタクが脳内で奏でるダンス・ミュージックがここにある。それはピンク・フロイドの1stのように甘美であり、わずかに狂気の香りがする。

編集部補足:日本盤は6月16日(水)リリース予定。

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