フライトゥンド・ラビット『ザ・ウィンター・オブ・ミックス・ドリンク』(Fat Cat / Imperial)

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 ブログのコメントに書かれた一言で人は自殺してしまうし、悩みを口に出せずに飲み込んでしまうこともある。無防備なままでは生きていけない、なんて言われても、つい頷いてしまうことがあるかもしれない。決して、人間は、強くない。僕もそうだ。不安や怯えやわだかまりが、常に亡霊のように付きまとう。でも、前作も欧米で高い評価を得たグラスゴー出身のギター・バンド、フライトゥンド・ラビットの通算3作目となる『The Winter of Mixed Drinks』を聴いたその瞬間、僕は震えるほど嬉しくなった。本作を聴くことは、音楽性の高さと同時に、偽りの無さを、音に宿った体温を、なによりもやさしさを肌に触れ合わせるほど親密に感じることなのだから。

 聴いていると音が寄り添ってくるようだ。前作同様、ザ・ナショナルや、シガー・ロスのヴォーカリスト、ヨンシーなどのプロデューサーでもあるピーター・ケイティスがプロデュースを務めたことで、地に足が付いた落ち着きの、その一息つけるような音の余白が奏功している。余白を埋めるシューゲイザー風味のギター・サウンドや弦楽器によるストリングスの優雅なオーケストラ・アレンジの中で、スコット・ハチスンの、ほんの少しひねくれていて、でも程良く苦みが効いた声で歌われるうたの全ては丁寧に言葉を選びながら和やかに発せられ、絡まった気持ちの糸をほどいてくれる。それが嬉しくて清々しくて気持ちが良くて、感情の不安定な揺れはするすると抜け落ちて消えてしまう。

 特に「The Wrestle」や「Skip The Youth」においては、ポップにして哀感を含んだグラスゴーらしい胸の深くに染み込むメロディ、それとともに歌声やコーラス、ストリングス、アコースティック・ギター、新メンバーとして加わったゴードン・スキーンのマンドリンやキーボードなど、数々の音が幾重にも重なり、ちいさく渦を巻き始め、それは次第に大きくなり、やがて高くへ解き放たれたその刹那、希望と言っても差し支えのない光に満ちたサウンドに包まれて、放心、昏睡、あるいは心酔。甘美な音と心地が溢れ出す。

 攻撃的な音の一切がない本作は、打ちつけられるようなビートを奏でても、フィード・バック・ノイズを奏でても、どれを取っても無防備だ。触れれば壊れそうなほどに無防備なのだ。しかし、いや、だからこそなのか、僕は、そしておそらく誰しもが、この音楽が鳴っている間は警戒心など丸めて窓から投げ捨てて、あけすけになることを許される、そんな音の中に身を置いてしまう。

 そうして気付く。無防備でいることは強さなのだと。全てを抱擁してしまうやさしさなのだと。僕はその強さに、涙をこらえた。『The Winter of Mixed Drinks』は僕らの弱さを肯定する。武装しても、敵を作るだけなんだ。

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