アーチー・ブロンソン・アウトフィット『ココナッツ』(Domino / Hostess)

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 いきなりだけど、アーチー・ブロンソン・アウトフィット(Archie Bronson Outfit)の2006年にリリースされた彼らにとってのセカンド・アルバム『Derdang Derdang』は本当に素晴らしい作品だった。クリーム以来のハード・ロック/ガレージ・ロックの伝統である重たいギター・リフと煙ったい空気。髭ヅラ野郎ども(見た目もわかってる)のスリーピース演奏は重々しくも一体感が生む躍動感に満ち溢れていた。楽曲のツブが高いレベルで揃っていることもあり、個人的にも当時のお気に入りの一つだった。こんな格好いいバンドをバーで発見したというドミノの社長、ローレンス・ベルはさすが、大した彗眼の持ち主だ。

 彼らにとって不幸だったのは、リリースされた時期がちょうど00年代におけるガレージ・リバイバルのピーク・タイムだったことで、だからこそ注目は浴びたが、悲しいかな作品の良さに見合った評価はそれほど得られなかったように思う。日本でも残念ながらそれほど彼らの名前を聞く機会はなかった。そのシーンで突出した成功を見せた、レーベルの同僚でもあるアークティック・モンキーズの『Humbug』が好きな人たちには、ぜひあのアルバムも聴いてみてほしい。どちらが上とかは言わないけど、結構気に入ってもらえると思う。

 そんなこともあってかどうかはわからないが、次の作品を産み出すのに彼らは4年近くかかってしまった。そして、彼らの音は変わった。

 どう変わったかはPVを見比べるとイメージしやすい。まずは先に挙げた『Derdang Derdang』からの一曲「Dart For My Sweetheart」のPVを見てみよう。モノクロの映像。ずいぶん密接したバンドの演奏。それに合わせて踊り狂うグルーピー。チープなアニメーションも実に60年代的でわかりやすい。

 では次に、最新作『Coconuts』からシングル・カットされた「Shark's Tooth」を。宇宙船に乗りこみ、バイキング風の妙な衣裳を身に纏う3人。惑星に着陸してなぜか演奏を開始。大地は裂けて未来都市が突然聳え立つ。ベースからビーム! 両手からもビーム!(ホット・チップ「I Feel Better」のPVもアホすぎて素敵だったが、今年はビームがPV業界のトレンドなのかもしれない) 今様な映像はエフェクトも凝りまくってる。にしても、変なPVすぎだろ。

『Coconuts』ではプロデュースをティム・ゴールドワージー(Tim Goldsworthy)が担当。DFAレコーズの共同オーナー、U.N.K.L.E.の元ドラマーにして、ヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアや、カット・コピー『In Ghost Colours』、ラプチャー『Echoes』など、エポック・メイキングな作品の数々を手掛けてきた一方、過去には学校を中退して英国中でマイブラの追っかけをしていたという愛すべき人物である。

 バンドの音は彼の経歴と実に忠実に、とてもわかりやすく変化した。ニュー・ウェーブ的で金属質なエフェクトとけたたましいノイズが幾重にも張り巡らされ、ヴォーカルにも全編エコーがよく効きまくっている。楽曲はグっとダンサブルになった。ただ正直にいえば、特にアルバム中盤の数曲においては試みの全てが成功しているとも言い難く、過度期の作品と見なすべきかもしれない。(昔からのファンからは特に)賛否両論となりそうな作品だが、個人的には彼らの大胆な人選と遊び心をぜひとも支持したい。

 音像がブルージーな路線からディスコ・パンク気味に変化しても、リフ主体の獰猛でトライバルなサイケデリック・ロックの本質は変わっておらず、もっとも重要な魅力である「単純にかっこいい」部分はそのまま貫き通されている。冒頭の数曲の熱気は生半可な気分で流行に乗ったバンドには出せない迫力があるし、ジャケットの青くて丸い何かがコロコロ転がっていく画が浮かびそうな「Chunk」はほのぼのとしていて可愛らしい。暴走するノイズに乗せてひたすら叫びまくるだけの「Wild Strawberries」にしても、ヴェルヴェッツ・マナーに則ったキック・ドラムの連打に合わせて朗らかに歌われる「Run Gospel Singer」にしても、本当にかっこいい。かっこいいというその事実以上にあと何か必要だろうか。来日公演は必要だ。ぜひ生でライブ見てみたいです。凄そう。

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